1-15 世界探索者教会 ②
「実に興味深い話でした、牧師様。ただ、私の無知を晒すようで恐縮なのですが……『偽天使』、でしたか。そのような呼び方を私はこれまでに聞いたことはありません。一般の用語としてや、ダンジョン探索者の間でもそうですが、聖職者がその言葉を使っているところも無いのです。もしやあなた方世界探索者教会の物の見方は、教会としてはあまり一般的なものでは無いのではありませんか?」
それまでキレー牧師の話を無言で聞いていたジョンが投げかけた問いに、それまでと変わらずにニコリと笑って答える。
「ああ、そうかしこまるのはやめてくれたまえ。我々はみな、主の下に平等だ。立場の違いこそあれ、その上下などとやかく言っても仕方あるまい。何より他の3人がこの態度なのに、君だけがそうかしこまっていては、私の方が座りが悪くてたまらんよ」
「あなたがそういうのならば、こちらも遠慮しないことにしよう。正直、配信向けに見せる態度で統一できるのは私としても助かる」
キレー牧師は少し苦笑交じりに笑い、それからコーヒーカップを傾ける。
「わかるとも。私自身はそうでもないが、同じ教会のアンダーソン牧師が君と同じことで苦労しているのを横で何度も見ている。さて、ジョン・ドウ君だったかね? 君の疑問の答えだが……無論、それが正しい。カソリックに限らずとも、このようなことを声高に叫ぶ教会など他にあるはずがない。何より、我々のような主張をしては、アレを天使と信ずる者たちが大挙して攻撃を仕掛けてくるに決まっている。カソリックのありようでは、そのような主張はできんよ。我々としても他の宗教や宗派を尊重したいとは願っているがね。あえて言うのならば――個人でアレを天使と信仰することは自由だし我々も止めることは出来まい。しかしその信仰を他人に強要したり、更にはその贄とするために他人をアレに差し出すのは流石に看過できない、といったところだろうか。ともかく明言すると、我々の立場は間違いなく一般的な教会のそれとは程遠い。現に我々は、カソリックから『急進的であり要注意』との評価を受けている。ゆえに我々も表向きは、カソリックをはじめとした他宗派と関係がない、独立した宗派として活動している」
「オイちょっと待て、何だ今の表向きって」
「大したことではないよ、ヴァン兄貴。ただそう――なぜか妙にカソリックからの改宗者が多くて、そうした改宗者はなぜか皆一様に元エクソシストなどであった故に戦闘に強く、それでいてライバー文化にも詳しい。それだけのことだ」
「それ要はカソリックとズブズブってことじゃん! 絶対そういうことじゃん!」
「フフ、何のことかね? 全ては主の思し召し、つまりは偶然のことだとも。さて、結論としては――我々世界探索者教会は、『偽天使』を含むダンジョンでの怪物狩りを生業としている教会、ということだ。君達も、視聴者の諸君も、覚えておいてくれたまえ」
「昔から怪物狩りをしていた、と言っていたな? ……魔女も対象だったのか?」
ウルトがその表情を崩さぬまま――崩れるようなアバターではないのだが――キレー神父に質問を投げかける。その声は極めて落ち着いたものであったが、機動戦士月神部屋の3人にとっては異様なほどに感情がこもっていないものであった。キレー神父も真剣な表情でウルトを見据え、答えを返す。
「――無論、否だとも。魔女は人間だ、断じて怪物ではない。教会やエクソシストが庇護すべき存在であり、害することなどありえないのだ。むしろ、彼女らはエクソシストの怪物狩りにその知識を提供した頼もしき味方であったとの記録が、実に膨大に残っているのだよ。」
「……そうか、安心した」
ウルトの声には先ほどと違い、わずかながらもその温かみが戻っていた。
「教会ではなく私個人の見解ではあるが……あえて強い言葉を使うのならば、魔女狩りは間違いなくクソの所業であると断言しよう。あれは有史以来の極めて愚かしい出来事の一つだ。人道的な面は当然のことだが、魔女たちが蓄えた叡智もまた、その多くが失われてしまったが故にな。ウルト君、察するに君は……魔女の血族に連なる者なのではないかな?」
「オレは魔女の一族の生まれだ、父方母方共にな」
「それはまた……随分と稀有な生まれだな。それでは教会の者などとても信用できまい。踏み入った質問をしたこと、お詫びしよう」
「いや、構わない。少なくともお前の信仰心は信じていいと思えた。胡散臭さは変わらないがな」
「そのオチは付ける必要が本当にあったのかね……?」




