魔の足音、黒の龍
楓と共に帰ってきてから二日が経った。あれから怠惰、嫉妬、傲慢のユニークスキルが突然手に入った。効果もそれぞれ強力なものなのに何のきっかけも無しに手に入るとは思えない。何か条件があるのだろうとは思うがきっとそれ自体を知ることに意味があると思うので何かしら知るような出来事があったという事なのだろう。
詳しい条件はともかく、これで暴喰、強欲、傲慢、嫉妬、怠惰を使えるようになって残りは色欲と憤怒のみ。今朝急に使えるように唖然としていたのだが神になるために必要なものが後少しだと思うと少しだけ楽しくなってきた。
そんな事もあり俺は楓と共に森の中を歩いていた。魔物がちょくちょく現れるようになったディザスター・フォレストは今日も今日とて騒がしい。向こうから来る魔物が小出しでこちらに来ているのでそれを倒すのが日課になりつつあった。
「先輩、正面からハチの魔物が来ます」
「あいよ」
「次はコウモリです」
「ほらさ」
「その次はモグラですね」
「こらさ」
「先輩、真面目にやってください。魔力量が増えたからって暴喰も使いすぎですし」
こうしてお小言をもらう毎日になるのは仕方がない。毎日同じ事の繰り返しをしていれば、嫌でもそうなる。俺に怒る楓をよそに俺は魔物の大群がいる方向に向けて思いを馳せる。
あれらを全て倒す頃には神の領域へ行くことになるだろうという予感がある。それは俺自身が神になるかならないかはもう関係のないことだ。決定事項であり、奴もそこまでは待てないはずだ。故に、俺に干渉してきたのだから。
「……ぱい、先輩! 聞いているんですか? しっかりと管理しないと勝てるものも勝てなくなり」
「静かに」
「先輩?」
辺りは静けさで覆われている。不気味なほどの静けさだ。まるで嵐の前の前日のような異質の空気が辺り一帯を支配する。しかし、次の瞬間、場の空気が一変し、震えた。
「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
それは絶対王者の咆哮。決して逆らってはいけないと本能に訴える声。空高くから聞こえるそれは確かな羽ばたきの音と共にこちらに近付いてくるのが分かる。ちょうど森が開けている所にいるのは運が悪いとしか言いようがなく、案の定すぐに視認され、見つかってしまう。
「不味いな。ドラゴンが来るなんて聞いてないぞ」
「どうしますか? やり過ごせそうにありませんが」
「戦うしか、ないんだろうな」
どれだけ強い力を持とうとも所詮は人、俺達はそのブレスで焼き殺されてしまうだろう。いくら暴喰が使えるとはいえ、ドラゴンを一気に喰らえるはずもない。頭をしっかりと喰らってやらないと即破滅だ。全く何という厄日なのか。ほとほと嫌になる。
そう考えている内にもドラゴンは滑空して森の広場に降り立つ。その巨大な二足で立った黒いドラゴンは息を吸ったかと思うと赤い炎を吐き出した。真っ赤に燃え盛る炎が俺達を襲う。俺は咄嗟に嫉妬でその攻撃を拒絶した。
嫉妬は自分が持っていない力を拒絶し、正反対の力で相殺するユニークスキルだ。七度しか使えないとはいえ、この力は強力の一言に尽きる。どんな攻撃も自身が対処できないものは防ぐことができる。
炎を相殺した後、すぐさま暴喰を全開で発動する。暴走寸前までに膨れ上がった暴喰がドラゴンの翼をえぐり取る。悲鳴を上げるドラゴンに俺は容赦なく追撃でもう一つの翼もえぐり取った。
両翼をもがれたドラゴンは地面へと伏し、こちらを睨みながら立ち上がろうとするもバランスが崩れているのかなかなか立てないでいる。
「先輩が倒せないものなんてないんじゃないですか?」
「それはないな。まぁとりあえず、こいつは確保しておこう。俺達の新しい足だ」
そう言って俺はドラゴンまで近付き、ドラゴンが噛み付いてくるのを身体強化した体で頭を押さえつける。傲慢を使用して俺はこのドラゴンを支配することにした。このユニークスキルは対象に自身が持つ者を与えることができるスキルであると同時に一つだけだが何でも絶対服従させることができるとんでもスキルだ。
傲慢によって大人しくなったドラゴンは魔力を使って翼を再生させたかと思うとその場で地面に伏せて頭を垂れた。
「今日からお前の名前はタロスだ」
「なんですか、その脇役感溢れる名前は」
「どうせそんな頻繁に使わないからいいだろ。それよりこれ、どうするかな」
「知りませんよ。私は何も見ていませんよ。先輩がドラゴンを従えている所なんて」
あからさますぎるその言葉に俺は溜め息を吐いた。ドラゴンを殺したのであれば、まだいい。しかし、支配しているとなればまた別だ。俺の力はただでさえ、異常だと思われているのに更にドラゴンまで合わさるのだ。あれ? 何というか今更感が凄いな。そこまで驚く程のことでもないような気もするがまぁ言わなきゃバレないだろう。使うタイミングは見極めないといけないが移動が楽になる。
「楓、俺は寝るわ。疲れたし」
「そうですか。私も横で失礼しますよ」
そう言って俺は黒い鱗を持つ黒龍のタロスにもたれ掛かるようにして横になった。俺の膝を枕にするように楓が横になる。
「おい、普通それ逆じゃないのか?」
「先輩はスケベだったんですね。見損ないました」
「冗談きついぜ。思ってもない癖にさ」
「そうでしたね。細かいことは男が気にする必要はありませんよ」
「それもそうか。まぁ、でも、たまには膝枕されてみたいぜ」
「……考えておきます」
そう言って目を瞑った楓の顔は真っ赤であった。俺はそれに苦笑し、目を瞑る。恥ずかしいなら言わなければいいのにと思ったがやってくれるのであれば、それはそれでいいなと思ったのであった。




