勇者一行の襲撃
あれから1ヶ月が経った。先輩が強欲の力を手に入れてそれを真由美さんに使い、倒れてからそれだけの時間が経っていた。その間もずっと先輩は眠ったままだ。最初の一週間は熱に魘されていたがそれも一週間が経った頃にはぴたりと止んだ。そこからはまるで死んだように眠ったままだ。
私はずっと先輩の身の回りの世話をしながら過ごしていた。今いる場所は拠点ではなく、ディザスター・フォレストだ。ここには先輩に興味を示す精霊がいる。何故かは知らないが先輩を護ってくれるような気がしたのでここに身を置くことに予定を変更したのだ。
今は先輩の身を精霊達に頼んで私は魔物を狩りに出掛けている。精霊さえいなければ、魔物は寄ってくる。どうにも私は弱いものとして近寄ってくる節があるのだ。何度狩っても同じなので何かが決定的に足りないのだろうと思ってはいるがそれが何なのかは分からないでいた。
「ウインドバレット、斉射!」
主に出てくるのは猿系の魔物。モンキーモンキーと呼ばれる、猿をより狡猾にしたような魔物だ。知恵が付いた分、質が悪く嫌がらせのように石や糞などを投げつけてくる。そしてタイミングを見計って攻撃を仕掛けてくる。モンキーモンキーは魔法らしい魔法は使わない。唯一使うのは身体強化のみ。襲撃するタイミングを群れで合わせて突進してくるのだ。
私は四魔融合で得た四つの魔法の一つ、風魔法を使って攻撃をした。モンキーモンキーは遠距離から攻撃に慌てふためき、成す術なくやられてしまった。
「たわいもないですね。猿は流石に食べられませんし、魔結晶だけでも拾っていきましょうか。猪型の魔物がいればいいのですが」
四魔融合は火、水、風、土の四つの魔法を使える上にそれらを合成して使うことができるようになるユニークスキルだ。これを手に入れた事により、私も戦えるようになった。先輩のお父さんには感謝だ。こうして戦うための力があるというのは護る時にもとても役に立つ。今の所、そんな事態にはなっていないがもしもの時は私も……
「考えても仕方のないことですね。そろそろあの子も戻ってくる頃だろうし、戻りますか」
私の攻撃手段は魔力を使うものしかない。魔力は回復にも時間が掛かる。もしもの時に使うことを考えればあまり使うわけにもいかなかった。
それから先輩の元へと戻ってきた私はそこに小さな子狐が二匹いるのを見て笑みを浮かべた。こちらに気付いたらしい子狐達は二匹揃ってこっちにやってきた。足元で幾度か私の周りを回ると私の肩に登ってくる。
「ただいま、金ちゃん、銀ちゃん」
「きゅーん」
「きゅん!」
二匹は揃って私の頬にすり寄った後、静かに地面へと降り立って伏せた。金風、銀風。これがこの二匹の名前だ。使い魔生成という先輩のご両親に頂いたユニークスキルを使い、魔結晶を元に造りだした存在だ。
魔結晶さえあればいくらでも私の思うままの姿を造りだせる。魔力さえあればもっと強力な使い魔も作れることだろう。この二匹は私が偵察用にと魔結晶を百ずつ使って生み出した存在だ。金風は火と風を、銀風は水と風の魔法を使うことが可能だ。目に見える形で精霊がここにいるのでここにいる限り、この二匹はほぼ無敵だ。その小さい体で素早く動き敵を霍乱しながら攻撃する。それが二匹で連携してやってくるのだから末恐ろしい。私の頼もしい相棒達だ。
「金ちゃん、銀ちゃん、お疲れさま。異常はなかった?」
「「きゅん!」」
二匹揃って同じように鳴いた。異常がなかったのはいいことだ。使い魔生成のおかげで造りだした使い魔とは意志疎通ができる。なんとも便利な力だと思わざるを得ない。この世界は前の世界よりは不便だけど、それでも充分に生きていける。
やることも一通り終わったので二匹と戯れていると不意に魔力探知に反応があった。
「人数は五人。一つは魔剣持ち。明らかにこっちに来てる。狙いはやっぱり先輩?」
「きゅーん?」
「きゅんきゅん!」
「ええそうね。金ちゃんと銀ちゃんは先輩をお願い」
「「きゅーんきゅん!」」
二匹が先輩の元へと行くのを見送り、私は戦いの準備を進めることにした。小細工は多い方が戦いやすい。私はそれほど魔力量が多くはない。もう一つのユニークスキルも人にしか使えないので意味はない。事実上、四魔融合しか使えない。攻撃手段を補うために私は罠を使うようになった。少ない魔力で高い成果を得る。こうすることが一番、労力が少なくて済むし、魔力の節約にもなる。この一ヶ月で身に付けた私の知恵だ。
「先輩。私はあなたを護ります。だから、早く起きてくださいね」
魔力を体内で練りながら私は罠を作りだし始めるのであった。
▽▽▽
五人はその後もまっすぐにこちらに向かってくる。一人は魔剣を抜き放っていて戦闘態勢に入っている。魔力察知はどんな魔力かを感じ取れるだけのスキルであったが魔力探知はどんな魔力でどういう形をしているのかなどの詳細な情報が入ってくる。
どうやら他の人達も戦闘態勢に入っている。魔力が動くのを感じ取れるからだ。その魔力量の多さに私は思わず顔を歪める。一人で勝てる相手では無いことを悟ったからだ。もしかしたら小細工は全て打ち破られるかもしれない。そう仮定して動いていかないと。
そうこうしてる内に司会に五人の姿が目に入ってきた。その姿はまさにRPGに出てくる勇者と言われるものに似ていた。いや、そのものだった。
「ここにいたのか。ようやくだね」
「ああ、そうだな勇気。最後の一人だ」
「勇気さん、この人がですか? また女の人なんですね」
「そうですわね。まさかわざとではありませんわよね?」
「全く、勇気ったら見境がないんだから」
五人は私を目にしても動じず、お気楽に会話をしている。その事に苛立ちを覚えたがとりあえず相手の目的を聞くために口を開いた。
「何の用ですか? ここには私と先輩しかいませんが」
「うん、知ってるよ。君とその彼に用があったんだ。是非とも君に仲間になって欲しい。そして、後ろの彼を渡して欲しいんだよ。彼は魔王の依りしろなんだ。だから、ここで倒しておかないとね」
勇気と呼ばれた男は笑みを浮かべて右手を前に出して握手を求めてきた。白の鎧姿に上質な剣、右手のこうには何かの印が入っている。まるで勇気のように。いや、実際勇気なのだと推測した。
他の人は剣士、魔法使い、短剣使い、回復師と言った所か。勇者パーティーそのものだ。こんなにも揃っているというのに何故私を求めるのか。それに先輩が魔王の依りしろと呼ばれたことも気掛かりだ。そもそもこの世界に魔王は存在しない。いたとしても、神だろう。先輩がそのような存在がいることを仄めかしていた。
一体全体何が起こっているのか。私は深く溜め息を付いた。遊びに付き合ってあげるほどお人好しではない。丁重にお帰りしてもらうことにする。
「申し訳ありませんが、お断りします。ごっこ遊びならよそでやってください。大方、先輩の力を求めてやってきたようですが私がいる限り、何人も通しませんよ」
「みんな最初はそう言うんだ。聞いてくれ。僕達は勇者一行……」
「弓を引くお仲間がいるのによくそんな話ができますね。私は先輩ほど優しくはありませんよ。敵は、殺します」
四魔融合を発動。四種の属性の玉を作成、複製していく。まずは防御を固めつつ、攻撃する。
「エレメンタル・フォース! 行きなさい!」
まずは弓使いの排除。森に隠れる弓使いに一斉に解き放つ。呆気に取られる勇者達をよそに四色の玉は弓使いへ殺到する。慌てて回避しようとするももう遅い。私はそれを計算して回避箇所に既にエレメンタル・フォースを配置していた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁあああ!」
「まずは、一人。さぁ行きますよ」
一人を確実に仕留めたのを魔力探知で確認した私は次の魔法を放つ。
「エアボール!」
仲間を殺されて頭に血が登った勇者の仲間達が駆けてくる。最初に罠に嵌める。エアボールはそのための布石だ。地面すれすれにエアボールが滑り込んで弾けた。
「狙いがお粗末だぜ!」
「罪を償いなさい!」
「よくも仲間を!」
「エルちゃんの仇!」
まるで私が悪役のような錯覚に陥るがそうでは無いことは明白だ。狙われれば誰だって反撃する。私も当然その中の一人。敵意を向けてくる敵に容赦しないのは当たり前のことだ。それが殺し合いならばなおのこと。
勢いよく掛けてくる四人に後ろにいた勇者が叫ぶ。
「みんな、それは罠だ! 地面をよ」
勇者の言葉を遮るように地面から槍を放つ。最後まで聞こえなかったが四人とも勇者の言葉に助言を受けて地を蹴り、宙を飛ぶ。地面が三十センチ程沈んだのを見た私は笑みを浮かべてもう一つの罠と共にもう一つおまけで魔法を放った。
「なっ! 今度は上か!」
「蜘蛛の糸!? 絡まってしまいましたわ」
「卑劣な! こんなの!」
「ゆうちゃん、助けて!」
案の定、全員が掛かってしまい、地面に生やした土槍が役に立たなかった。だがそれも問題はない。役に立たないなら役に立つようにしてやればいい。私は勇者と呼ばれた男に微笑みを向けてから唇から魔法を紡いだ。勇者と呼ばれた男は顔を青ざめて叫んだ。
「みんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
「ファイアーバレット」
小さな火の弾丸が無数に飛び交い、勇者一行に遅い掛かる。威力のほとんどない無意味なもの。一般人でも防げるほど魔力密度が低いその攻撃は勇者一行には痛撃を齎すことはなかった。しかし、その代わりにシルクスパイダーの糸に引火し、絡まっていた糸を焼き切った。次の瞬間には皆、落ちていく。
「や、やめ」
「い、嫌ですわ」
「た、たすけ」
「ゆ、ゆうちゃ」
口々に叫ぶ声を風で収束させて勇者に聞かせておく。これで精神的にもダメージを与えられる。私は魔力を練り上げ、土槍の鋭さを増させ、高さを押し上げた。
悲鳴は無かった。私が封じたからだ。全て勇者の耳元へと送り込んであげた。血が飛び散り、赤い花を地面に咲かせる。串刺しになった勇者一行は槍に貫かれて絶命した。我ながら酷い一撃だと思うが本気を出すとはこういう事だ。どんな手を使おうとも勝つ。それが私の戦闘におけるポリシーだ。容赦などしない。敵であるならば、何人であろうとも徹底的に叩き潰す。私は一ヶ月前にそう決めたのだから。
「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
勇者が絶叫し、こちらに向かってくる。血走った目を向けて恨み言を呟きながら。
「殺す、コロス、コロス! 裕也は、幸子は、花恵は、美弥は、死んでいい存在じゃなかったんだぞぉ! おぉぁああああぁあぁあ! コロス、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスころス、オマエヲ、コロス!」
「これは……」
急激に上がる魔力と速度に体が反応できなかった。目の前一瞬で現れた勇者が剣を振り下ろそうとしているのを私は見ている事しかできなかった。勇者の瞳には狂気が宿っていた。濃厚な殺意が肌を泡立て鳥肌を起こさせる。成す術などなく、私は目を閉じる事しかできなかった。
「……先輩」
「呼んだか?」
その時、優しい声が耳元に聞こえてきた。何度も聞きたいと願って止まなかったその声。私は恐る恐る目を開けるとそこには半分ほど欠けた剣を持つ勇者とそんな勇者の頭を鷲掴みして余裕綽々と笑みを浮かべる先輩の姿があった。




