⑦洞窟みたいな人
祠からなにかがゆらゆらしながら外に出てきた。おねえちゃんだ!と最初思ったけれど、出てきたおねえちゃんらしきそれは、やせてて骸骨みたいだったからおねえちゃんなのかよくわからなくなってきた。
でも、骸骨風のくせに、ニコって笑うとまるで救世主みたいだから、やっぱりおねちゃんなんだとおもう。救世主すぎてそのうち十字架にはり付けにされそうな怖さがおねえちゃんそのものだ。やっぱりおねえちゃんはおねえちゃんだ。
「お父さんが死んだのね?」
おねえちゃんはがさがさの唇をひらいて話かけてきた。唇はがさがさだけど声は昔と変わらない。きれいな声でいつも私を幸せにする声だ。
目を合わせようと一生懸命おねえちゃんを見てみたけれど、でもどうしても目が合わない。落ち窪んだように真っ暗で、目の底が見えない。この洞窟がそのまま、おねえちゃんの目玉になったみたいだ。
最近ずっと私は人と目を合わせてないから、合わせられなくなったのかもしれない。それか、おねえちゃんは洞窟にすんでいたから、目玉も洞窟になったのかもしれないきっとそうだ。
「うん、死んだよ。最後は青い顔だった。お父さんの癖に青いなんてずるいよね」
お姉ちゃんは、笑った。ヒーヒッヒヒヒって笑った。あれ? お姉ちゃんはこんな笑い方をする人だったっけ? いつもふふふとかいう感じだった気がするけれど。気のせいか。それかヒヒヒって笑ったほうが洞窟によく反響するからかもしれない。うんきっとそうだ。お姉ちゃんは、だって洞窟にずっといたんだから、洞窟っぽくなっていてもしかたない。
おねえちゃんは一通り笑った後に、私の手をとって、そして私の手の甲にキスをした。なんてお姫様みたい。お姫様が騎士様みたいにキスするなんてなんて御伽噺だろう。こんなステキなことをするのはおねえちゃんだけだ。やっぱりおねえちゃんだ。ところどころ洞窟だったとしてもこれは私の大好きなおねちゃんだ。
ああ、やっぱり私おねえちゃんだけで、いいや。
そして二人で帰ったんだ。おうちに帰った。二人のおうちだ。
「でもやっぱり、お母さんも許せないから、後で二人で殺しましょう。ね、由紀ちゃん」
家の扉を開ける前に、こっそりお姉ちゃんは、素敵な恋の話をするように私にささやいたから、私は有頂天になって、そうだねっておもわず答えようとして、おねえちゃんの目をみてみると、お姉ちゃんの洞窟がもっと大きくなった気がした。
end