11−9 ラッセル領へ
リチャード王子はクリフォードの本拠地付近の街が降伏した為、ここでは物資の集積だけ行い、軍勢はラッセル侯爵領に入る様に指示した。
検問所の近くの集落で会議を行い、今後の進行方針を決めた。
「ここから北東に向かうと商業都市パースがある。こちらは抵抗があると進行が遅れる可能性があり、激戦の可能性もある。だからヨハンとテティスは北西のスターリングに向かってくれ。問題がなければそのまま北上する様に。そちらには第一騎士団から選別部隊を付ける」
ヨハンは妖しく笑った。
「まあ、好きにやらせてもらおうか」
農家を接収した宿泊所の食堂でヨハンは皆を集めた。アングリア騎士団の者を除いて。
「さて、まあ厄介払いをして先行するつもりの様だが、どうする?」
ヨハンもそうだが、リチャード王子の為人を知らないヒルデガルドでもこの分離並行には怪しさを感じていた。
「こちらには何か罠があると言う事ですか?」
「そこまでは言わん。だが、商業都市は商人の発言権が強い。代官も袖の下で潤っているしな。だから、既に話が付いているんだろう。聖女を取られた以上、リチャードも何らかの実績で箔を付けたいんだろうし。多分王からの指示だな」
わたしは頬杖をつきながら話した。
「問題がなければ勝手に北上していいぞ、と言われている以上、好きに進みましょうか」
ヨハンが苦笑した。
「テティス、将来のシュバルツブルグの王妃が頬杖は不味い」
「野山を歩き回ったりするのは良いの?」
「今度はシュバルツブルグの北部で魔獣狩りをさせてやる」
「わーい」
翌朝、リチャード王子と側近がわざわざ見送りに来た。こっちに進むのをわざわざ確かめたいのか。我々に付いて来るのは第一騎士団の1中隊のみ。とても都市を制圧する戦力じゃない。そもそも第一騎士団は王都内の王家・貴族家の人間の護衛と治安維持が主な任務だ。戦争に用いる部隊じゃない。
昼には農村で野菜を分けてもらいスープを作る。パンは無く保存食のビスケットだ。
「周囲はどうだ?」
スープを飲み終わったヨハンが口を開いた。
「大きいネズミがちょろちょろしてるわ」
ヘカトンケイルのブリアレオスは更に詳しい説明をした。
「スターリングを出てやって来た人間だ。馬で来ているからこちらの馬車より早く向こうに着くだろう」
「こちらの動きは漏れている、するとリチャードの軍勢の中に密偵が混じっているのか?」
「むしろ意図的に情報を流している。密偵の当たりは付いている様だ」
ヨハンも私もヒルデガルドも溜息を吐いた。
「ここまでされたら都市一つくらい燃やしてやらないと気が済まないな」
「いやいや、それは不味いでしょ。ラッセルが外国の王子と聖女の評判を落としたがっているのは明らかなんだから、慎重に行動しないと」
「ジョークだ。真に受けるな」
「気を付けてよね?」
「手が滑って都市が半焼するくらいで我慢してやる」
「頼むから消せる範囲でやってね!?」
「水源があるなら都市丸ごと火を点けても大丈夫そうだな」
「無理だから!」
スターリングの都市まであと三十分というところで、馬車の中でヨハンが口を開いた。
「出迎えがある筈だ。俺が話すから、テティスは適当に合わせろ」
「大雑把ね。火を点けたら周囲に水を撒けば良いって事?」
「そこは任せる。どれだけ被害を与えるかはお前が決めろ。俺は俺なりに悪役をやってやる」
「無理しないでね?」
「たまには弱い者いじめも楽しそうだ」
私は顔を顰める以上の事が出来なかった。
スターリングでは我々が進む道を簡易バリケードで塞いでいた。その30ft前で私達は馬車を降りた。
「ブリアレオス、連中の対策はどうだ?」
「王族レベルの魔法の対策は出来ていない」
「分かった」
ヨハンはファイアーボールをバリケードにぶつけた。バリケードは燃え上がり、しばらくすると崩れ出した。ヨハンが私を見るので、ウォーターランスをその上で壊して水を撒き、消火した。子ブリアレオスが出て来て炭をどけた。
ヨハンが先頭を歩き、私が右斜め後ろを付いて行く。ヨハンの護衛騎士が私の左斜め前を歩き、私の後ろをヒルデガルドとブリアレオスが歩き、その後ろを子ブリアレオスが歩く。私達を守る筈の第一騎士団はその後ろを歩いて来る。もちろん、馬車の護衛に1小隊が残っている。
ヨハンの進む先の道の両側の路地から、人々がぞろぞろと姿を現した。群衆の水気は先頭を切って歩いて来る人間達は赤く、後ろの方になるほど青くなっていた。前の人間は扇動で感情的になっているのか、デボン領の民衆の様に麻薬を投与されているのか。後ろの人間は付和雷同か半ば脅迫されてついて来ているのだろう。動員数は1000人近かった。
「偽りの聖女もそれを操る外国の王子も、北部は受け入れない!さっさと南に帰れ!」
「おぉ~」
「そうだそうだ」
「帰れ偽物!」
群衆は口々に騒ぎ出した。
子ブリってハマチ?
失礼しました。明日は一回更新の予定です。




