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11−8 クリフォード男爵の館

 家臣の脱走が続いている事はクリフォード男爵も知っていた。だが感情論者の彼は、それが自分に問題があるからだとは思わなかった。

「勇も忠も無き者共め!不甲斐なき者など不要だ!残った勇者で敵を粉砕するぞ!」

扇動政治家に従うだけに、この男も大言壮語が好きだった。感情に訴えようとするのだ。しかし、それは、現実が見えている家臣達には、かえってリーダーが現実感を失っている事を実感させた。


 8時に司令部を出たテティス達は、8時半には前線に着いた。

「9時に一斉攻撃を行う。聖女様はそれだけ頭に入れて動いていただければいい」

リチャード王子が指揮するだけに、この軍勢の指揮官達は私達の扱いが学生扱いだ。まだ学生だけど。


 ヨハンも同じ意見らしい。

「鼻につくな?」

「気にする程じゃないでしょ」

私はやはり同行しているヒルデガルドを抱きしめて言った。

「基本はあなたの防御も気にするけど、気が逸れている時はブリアレオスが守ってくれるから、安心して」

私が頬を擦り付けていると、ヒルデガルドの頬が熱くなって来た。

「足手まといにはなりたくないけど、実力が無いからごめんなさい。自分で気を付けるわ」

「うん。自分でも気を付けて欲しい」

とは言っておくが、ブリアレオスはヒルデガルドの護衛用に子ブリアレオスを連れて来ていた。


 …いや、身体の部品が全部少しずつ小さいけど、似てるんだよブリアレオスに。しかも手首の下に穴が開いている。そこから剣が出るんだな?投げるんだな?私に投げたら動けなくなるまで叩きのめすから覚悟しとけよ。


 私達にはヨハンの護衛騎士が付いている。第二騎士団は色々な理由でこちらをフリーハンドにしている。まあ、自己責任と言いたいのが主な理由と思うけれど。

「で、どこを攻める?」

ヨハンが尋ねるが。

「もちろん魔獣の相手をしないといけないでしょ?」

「どれだけいる?」

「あそこの馬小屋に一頭、あっちの物置に一頭、向こう側の二か所に一頭ずつ」

「30頭も川沿いで浪費したからそんなもんか。しかし、一頭ずつと分散配置しているのは何故だ?」

「闘牛だから顔を見ると喧嘩しちゃうんじゃない?」

「ミノタウロスか!4頭とも?」

「似たような体形で角があるからそうでしょ」

「向こう側は警告すべきじゃなかったか?」

「だってあの態度だもの。聞く耳持たないでしょ」

「そこは自己責任で対処してもらうか。自業自得だな」


 各所でラッパがなり、攻め方が行進を始めた。向こうは堀やら塀の向こうから出てこないが、馬小屋と物置の扉を開け、例の物体を地面に投げつけた。そうして人より一回り以上体格の良いミノタウロスがそれぞれ現れた。


 物置小屋の近辺の攻め方は槍の穂先を少し後ろに下げ、盾兵を前方に多めに配置しなおして行進を再開した。私達の目の前のミノタウロスがこちらに小走りで向かってくる。その胸に太いアイスランスを叩きつける。ミノタウロスは両腕で顔を守ったが、アイスランスは胸に向かっていたので弾き飛ばされた。ぐるっと私達の目の前の子が地面を転がっている隙に、物置小屋の前のミノタウロスにもアイスランスをぶつける。あっちの子は派手に吹き飛ばされた。


「脆いな…」

ヨハンが呟く。

「石斧を持ってないから、心細いのかもね」

「何で石斧を…ああ、そうか。味方を殺して逃げないように武器は与えていないんだな」


 私達の前のミノタウロスは立ち上がったが、明らかに腰が引けている。

「見逃してあげる?」

「男に情けをかけるな。闘牛らしい最期を与えてやれ」

そう言うもんかい。水気がさぁ…赤くないんだよ。青いんだよ。嫌がってるんだよ。


「テティス」

はいはい。さっきより気持ち細いアイスランスでお腹を叩いてあげる。後ろに転がったミノタウロスは立ち上がり、後ろを向いて喚いた。

「ぶもぉぉぉぉぉおぉぉぉ」

そして逃げ出した。目から涙をぽろぽろ零しながら。弱気は物置小屋のミノタウロスにも伝染した。

「ぶもぉぉぉぉ」

そしてくるっと後ろを向いて逃げ出した。この子も泣いてるよ…


「威圧じゃなくて泣き声の伝染かよ…赤ん坊か…」

「多分さ、養殖ものなんで野生を持たないんじゃない?闘争本能とか」

「全く、西部教会もラッセルも、男の子の夢も憧れもぶち壊しやがって。男心が分かってない奴ばかり偉くなりやがる」

知らんがな。

「で、逃がして…あげる訳にはいかないよねぇ…」

「その辺の農民でも食料にされると寝覚めが悪い。楽にしてやれ」


 仕方なく、泣きの入った牛さんの足元に低い氷の壁を作る。べた~ん。結構体重が重いからか、倒れた際に良い音がした。まあ、この子なら顔だけ凍らせれば窒息するだろう。神よ、牛さんに安らかな最期をお与えください。


 そのまま頭部周りを凍らせて地面に固定する。まさに手足をじたばたしていた牛さんは、少しすると安らかな眠りについた。もう一頭も同じ様にお眠りいただいた。神よ、かよわき子牛達の心に救済を与えてあげてね。


 向こう側の牛さんはまだ小屋を出ていなかったが、遠くに仲間の悲鳴を聞いて増々小屋を出る気を失った。世話係が扉を開けても、外に出る事を拒否した。

「向こうの子達はどうする?引き籠りたがっているんだけど…」

「それならその場で冷たくなってもらえ。小屋ごと凍らせるんだ」

ヨハン、他人事だと思って気楽に言わないでよ。まあ井戸の水を使えば良いか。井戸の水を持ち上げて小屋まで持って行き、小屋に満たして凍らせた。牛さんは地面に穴を掘って顔を突っ込もうとしたが、道具がなければ無理だった。


 頼みの綱を失ったクリフォード男爵の家臣は、もう戦意を失っていた。ばらばらに逃げようとしたが、騎士団の槍兵の餌食になっていった。


 館に入った騎士団対男爵の家臣の戦闘は、一方的な虐殺になった。ラッセル側から各領地に魔獣が配置された経緯は、恭順した各家から情報を得ているから、リチャード王子はこの地で捕虜を得る必要を感じていなかった。だから殲滅戦は騎士団以外に動く者が無くなるまで続いた。

 いや、コントにしてる訳ではないのですが。23時前後にもう一回更新します。

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