11−4 リアンナ再登場
ポーレット領を出て二日目の夕方に到着したその地の領主の館には、王家の紋章の入った馬車が止まっていた。
急用であろうから、領主の出迎えの後、応接室に通された。座っていた少女は立ち上がり、私達の前まで歩み寄って来た。今回も軍装に近いパンツルックのリアンナ王女だった。
「聖女テティス様、正式な聖女就任、おめでとうございます」
「ありがとうございます。リアンナ殿下にこのような場所に来られてまで祝辞をいただけるのは感激の至りです」
ヨハンが口を挟んだ。
「何しに来たかまず言えって事だが、分かってるか?」
「聖女様にちゃんと挨拶しないと、王家が失礼を働いたって文句が来るじゃない。祝辞くらい言わせてよ」
「この面子なら文句は言わないぞ?」
「そう?」
リアンナ王女は後ろに立つヒルデガルドとヘカトンケイルのブリアレオスを見た。
「ヒルデガルド・ヴァイツゼッカーは既に家から粛清対象とされている。情報をもらし様がない。ゴーレムに見えるのは西部教会が聖女テティスに付けた護衛兼監視だが、とりあえずラッセルを討つ方向で行動するなら文句は言わんまあ、いざと言う事があるからヒルダはテティスの近くに置いている。聞かないフリくらいは出来る連中だから無視しとけ」
「乱暴ね…まあアドバイスに従うわ」
リアンナ王女と私とヨハンはテーブルの前の席についた。ヒルデガルドとブリアレオスには席がないから立っていた。
「まず二人には王都に戻る事なくサーバント川の南岸に設けた臨時統合幕僚本部に移動して欲しいんです。ラッセル公爵領に一番近い都市に設置中です」
「切羽詰まっているのか?」
「コーンウォリス子爵領からポーレット領西に現れたオルトロスとケルベロスを問題視しているのよ。いずれにせよかの地では戦力は落ちているから、そちらに旧アシュリー領に駐留している第二騎士団の部隊を仕向けたいのだけれど、それをやるとラッセル派がアシュリー領を取り戻して戦績を宣伝される。だからその前にサーバント川南岸に渡河の動きを見せたいの」
「お前が来ると言う事は、臨時司令部のリーダーはリチャードになるのか?」
「そう。今は北へ移動中」
「あいつも性懲りもなくテティスをこき使いたがるな。真剣に嫌われるぞ」
「本件は国王陛下の裁可により行っています。リチャードお兄様には現場の責任しかありません」
「誰の発案なんだよ?」
「…」
沈黙が答えだった。うん、リチャード王子には決して気を許さない、と改めて決心した。
「じゃあ、この依頼書類にサインをしてくれる?」
国王ヘンリーの依頼により、ヨハン殿下と聖女テティスはラッセル討伐に参加する事を承諾する、と書いてある…断るという選択肢はないのね…
ヨハンが自国語のサインを行い、私の肩を軽く叩いた。いや、別に文句はないけどさ。西部教会も私がラッセル討伐に参加するのを望んでいるし。とりあえずテティス・ファインズ名でサインをする…西部教会でテティス・カーライル・ファインズと呼ばれて嬉しかったけれど、カーライルとは公式には縁を切っている。
「それでは、少し休んだ後に晩餐で会いましょう。お祝いのスイーツがあるそうだから、楽しみにしてね」
ヨハンの顔を見ると肩を竦めた。あまり甘味は得意ではないらしい。というか田舎の甘味は甘さがしつこいと相場が決まっているから、それが苦手なのかもしれない。
「聖女様が速やかに決まりました事、何よりの慶事にございます」
領主の祝辞に、私は顔に愛想笑いを貼り付けた。ここにヒルデガルドはいないが、私にキック一発で失神させられて速やかに勝負が決まった事はヒルデガルドには苦い思い出だろう。
「ありがとうございます。全て恙なく終わりまして、心配する様な事もありませんでした」
メインディッシュは兎肉のコンフィだった…ごめん、一角ウサギちゃん。これは多分普通のウサギとは言え、あなたのお仲間は私にとってはごちそうなんだ。おいしくいただきます。
スイーツはやはり砂糖で固められていた。ヨハンは無言で取り込んでいた。このデザートの時間にはそれぞれ気になっている話題が出た。
「西部教会からお戻りの際には賊が出たとの事で、ご無事で何よりでした」
私の心の中で、可愛い笑顔をしたセシリア・ストーナーの身体がドロッと溶けて首だけ地面に転がった。その後頭部からも黒い液体が広がった…
ここで同席していたリアンナ王女が視線をくれた。自分が話すと言うんだ。
「どうやらコーンウォリス子爵の手の者が魔獣を手引きしていて、魔法学院の魔獣討伐演習の際に現れたサイクロプスも、彼等が手引きしたと言っていたそうです。ラッセル一派が魔獣と共にサーバント川を渡る前に討伐する事が必用と思われるのです」
「なるほど、それは重大事ですね。周辺領主達にはどの様に伝えればよろしいでしょうか?」
「それぞれに王都で伝えています。相手が魔獣を使う事は、下々の者には伝えぬ様にお願いします」
「分かりました。他家にも文章で伝える事は差し控えます」
「ええ、それでお願いします」
その頃、ヒルデガルドは空いた部屋でヘカトンケイルのブリアレオスと二人でいた。ヒルデガルドは聖女審査が終わっても自分が日陰者である事を自覚して、俯いていた。だからブリアレオスが音を出した。口は半開きしただけで唇に相当する部分は動かなかった。
「そう項垂れるものではない。人にはそれぞれ居場所があり、万人に華やかな舞台が与えられる訳ではないと言うだけの話だ」
居場所、と言う言葉にテティスの抱擁を思い出し、ヒルデガルドは少しだけ頬が熱くなった。それはブリアレオスの温度センサーも検知した。
「ゴーレムって、人間みたいに話せるものなのね」
「学習結果として人間の様に話しているだけだ。人間の様に感情を持つ訳ではない」
ヒルデガルドの視線は横に流れた。
「その方が楽かもしれないわね。道具として生きるなら」
ブリアレオスは小首をかしげた。
「聖女テティスは君を道具として扱うつもりはないだろう。君を保護したのは、君を救済するのが目的だ」
「まるで神様みたいね」
「だから聖女に選ばれたのだ」
去年の大晦日は何やってたっけ?と思って過去作を眺めたら、誤字が見つかりました…
元旦も更新します。2日は金曜だけど更新いたします。今ひとつ展開が遅いのでどこかで1日2回更新をしたいのですが…書き溜められたらね…




