11−2 獣道 (2)
60ftも竜巻状の水柱の高さが上がったところで、私は水を全て蒸発させた。水柱に巻き込まれていた二十頭を越える犬達は上空から地面に叩きつけられた。その上に留まっていた水蒸気で犬達の数だけアイスランスを作り、犬達の胴体に叩きつけた。
「グハッ」
「ガウッ」
「ググッ」
地上には犬っぽい断末魔が響いた。
その隙に隠れていた修道兵達が前方に立ちはだかっていた男達を取り囲み、一斉に棒で叩いた。今回はラッセル派の兵である事を確認する必用があり、毒で即死させる事はないのだが、却って袋叩きで痛そうだ。悲鳴が聞こえなくなった頃、男達を取り押さえた修道兵の一人がやって来て謝意を告げた。
「聖女様のご威光をもって賊を取り押さえていただいた事、心の底から感謝いたします」
ご威光は認めてなかったと思うけど、まあ話の腰を折っても仕方が無い。
「証拠はポーレット候に届けていただけますか?」
「オルトロスとケルベロスの死骸一組を修道兵がこのまま持って行きます。この先には賊がいない事は確認しておりますので、安心してお進みください」
「ありがとう」
いや、つまり意図してこいつらを私にぶつけたのよね?まあ、今更言っても仕方が無いか。
「いつから分かってたんだ?」
走り出した馬車の中でヨハンが尋ねてきた。
「西部教会の本拠地を少し離れた頃から」
ヒルデガルドも尋ねてきた。
「その、どうやって?そんな遠くは診察魔法などでも届かないでしょう?」
「山の中には水分も水蒸気もたくさんあるから分かりにくいけど、群れで動けば遠くでも分かるでしょ」
「水気とやらをどう感じているか分からないから、分かり様がないぞ」
「つまり、体内の魔力の流れでどこに力が入っているか分かるみたいに」
「他人の魔力の流れは聖魔法師以外には分からんぞ」
「じゃあ、川の流れが速いところはそこが浅いって分かるでしょ?」
「素人にはぱっと見で流れなんて分からん」
分からず屋!
ポーレット領には早朝に早馬が出されていた為、私達が検問所に着いた時には道の両側に正装した騎士達が並んでいた。馬車が通る直前には騎士達は剣を真上に持ち上げ、左側の騎士達が声を合わせて叫んだ。
「聖女テティス様万歳!」
続いて右側の騎士達が声を合わせて叫んだ。
「聖女テティス様万歳!」
それは私達の馬車が検問所内に入るまで続いた。
「本当は最初に聖女を称え、次に王国を称えるんだろうが、今回はシュバルツブルグの王子がパートナーだったからな。聖女だけ称えているのだろう」
ヨハンはそう言うが。
「それ、シュバルツブルグの聖女候補が聖女になった時はどうなのよ」
「もちろん、聖女だけ称えるのだろう。聖女が権威を持つのは両国共通だ」
…ヒルデガルドは敗者であるから、これは気になるのではないかと彼女を見ると。
「気にしてないわ」
って言うからには少しは気にしているのだろう。
検問所の責任者は祝辞を述べてくれたけれど、最早優先すべき情報があった。
「西部教会からこちらに向かう途中で、ラッセル派と思われる者達が魔獣を使い襲って来ました。王家と西部教会に対する誹謗中傷を公言していましたから、王家に対する謀反も始まると思います。急ぎ領主様と王都に連絡をお願いします」
「事が事だけにまず領主様と相談いたしませんと…」
「後ろの馬車に証拠の魔獣が乗せてあります。これを早々に領主様にお見せ願いたいです」
「見せていただきます」
後ろの馬車に乗せてあった犬達は内臓の匂いが漏れていた。
「凍らせましょうか?」
「いえ、聖女様のお手を煩わせる訳にはいきません」
これにはヨハンが口を挟んだ。
「大きいから聖女に任せるべきだ。彼女は水魔法も得意だ」
「そういう事でしたら」
魔獣の上に縛り付けて会った布が外された。
「オルトロスとケルベロスですか…こちらでは中々見ない魔獣です」
これには修道兵が答えた。
「王国領外を移動する群れが見つかっており、北西部のコーンウォリス子爵領が出所と見られます。これらを導いていた者共は現在教会内で調査中です。判明した内容はすぐポーレット侯爵に連絡いたします」
…拷問結果を教えてくれる訳だ。教会も中々残酷だ。とりあえず内臓の匂いが漏れにくい様に犬達を凍らせた。
領主の館に向かう道には市民達が並んで手を振っていた。だから馬車の扉を開けて、そこから私も顔を出し手を振った。心中はラッセル派の反乱に対する不安があったが、ここは愛想笑いを振り撒くところだから、しっかり笑顔を作った。
「聖女さま~」
「ばんざ~い」
「神のご加護を~」
…西部教会は神の使徒ではないと知っているだけに、神の名が出ると心が痛んだ。まあ、救世主と同じ心は持つと言っていたからまあ良いか。
犬好きのクリスティンさんが悲鳴を上げそうな話ですが。三つ首は危険ですね。2つの首を顎の下を撫でて噛まれない様にしても、三つ目の首にガブリとされそうです。




