10−15 アララト山 (15)
今回はSF好きな方のみお読みください。聖女の設定は明日書きます。
ヨハンは溜息を吐いた。
「言い分は分かったが、それでも証拠なしで信用する訳にはいかないが?」
「我々が進んだ技術を持っている事は聖女テティスが見ている筈だが?」
「オートマトンのメイドもどきの事?」
「オートマトンか…我々はガイノイドと呼んでいるがね」
ヨハンは続けて問うた。
「人間もどきが作れるなら、その姿でお前も現れたら良いのではないか?」
偽ウトナビシュトは両手を広げて微笑んだ。
「ガイノイドは人間の動きを真似する機械で、人間並みの判断力を持つ訳ではない。一方、我々は人間の論理思考を真似する電子機構だ。6つの論理演算アレイの集合体である我々は、人間サイズに収まる物ではない」
「論理演算アレイとは何か?」
「数百垓の論理演算器を束ねた物だ。それぞれに人文・工学・生命科学・天文地学を主に学ばせ、互いに議論させる。その結論を宗教・道徳を学んだ論理演算アレイにチェックさせ、それを法・憲法を学ばせた論理演算アレイに承認させるのが我々の構造になる」
私は思わず口を挟んだ。
「宗教・道徳より法や憲法の方が上なんだ…」
「宗教・神話は多くの場合王権神授のプロパガンダとして作られる。万物の父である神が農耕民族より遊牧民族を上位にする様な判断をするのが正当と思う方がおかしい」
アベルとカインの事を言っているんだ…
「それでも、法や憲法を上にする理由としては弱くないか?」
「だから、宗教は時に一部の人間が一部の人間を虐げる事を許容する。共和制下で作られた多くの法律は、法の下での市民の平等を守る機能がある。教会を名乗っていても、我々は植民惑星管理協会に過ぎない。宗教より法を優先すべきなのだ」
ヨハンには王族として確かめないといけない事があった。
「憲法はアングリアにもシュバルツブルグにも無い。多分、両国をも管理しているお前達が両国にそれを作らなかったのは何故だ?」
「無用だからだ。憲法とは本来、独裁者から民衆を守る為にある。アングリアとシュバルツブルグは、双方が牽制する事で権力者が秩序を破壊するような過剰な行動を行う事を防いでいる」
「やはり、西部教会は両国を管理する機能も持っているんだな…」
「調停しているだけだ。聖女を使ってな」
「逆に、西部教会は南部諸国を管理していないと考える。何故両国だけ管理するんだ?」
「それは、我々西部教会がここをアララト山と名付けて降り立った理由による」
「その理由とは?」
「もちろん、魔獣の調査だ。人の移住可能な惑星など普通は存在しない。この惑星も惑星の改造によって生物の生存可能な惑星になった。その最終段階で放たれた生命の内、過剰な攻撃力を持った魔獣が発生してしまった。その調査が、今ではその制御が我々の存在意義となった」
「…つまり、アングリアもシュバルツブルグもその存在意義は魔獣の制御にある、そういう訳か…」
「そう。人々はアングリアとシュバルツブルグという魔獣に対する防壁があってこそ生きていける。だから、両国以外に植民された人々は好き勝手に生き、好き勝手に滅んでいる。それは惑星規模での人類の繁殖に何も影響しないから放置している。人類の存続以外に我々は口を挟むつもりはないんだ」
「国が滅んで何百万人が苦しんでも知らぬふりか」
「愚かな政治家や扇動政治家を支持して勝手に憎み合い、殺し合う愚民達を救う意志は我々には無い。だから母星が滅んで行くのを放置しているんだ」
「待て、その言い草だと人々はここアララト山から世界に広がって行った訳では無いと聞こえる」
「もちろんだ。防壁だけ作って、南部に広がって行った人々はまた別の場所からこの惑星に降りた」
「アララト山のカルデラは多分、天を渡る船の船着き場なのだろうが、確かにあの規模では多くの人々を降ろせまい」
「それに対する答えは、イエスでもありノーでもある。あのカルデラはかつて船が降りた場所ではなく、今も降りる事が可能な場所なのだ」
「現在も船が降りているのか!?」
「当然だ。この惑星の植民の歴史は二千年に及ぶ。その間稼働し続ける機械などない。我々は17代ウトナビシュトなのだ」
「それでも100年以上動くと言うのか…」
ここで私は口を挟んだ。
「ヨハン、問題なのはそこじゃないでしょ。ウトナビシュトなる演算アレイは16回作り替えられている。今もどこかで後継機械を作っているのよ」
「テティス…お前たまに鋭いんだよな…それでウトナビシュト、お前をどこで作っているんだ?」
「最終組み立ては月の裏側だ。この惑星はここの恒星の第4惑星だが、第3惑星と第2惑星に小規模の開発が行われており、そこから部品を持って来ている」
「そうか…それで天を渡る船がまだ動いているから、俺が行って確かめると言った時に『不可能』でなく『お勧めしない』と言ったんだな…」
「そう言う事だ」
「待て、つまり我々は二千年経っても元の星の技術に追いついていない事になる。それでは、万一元の星から攻めて来られた場合に対抗出来ないのではないか?」
「無用だ。遠征するより迎撃する方が有利だからだ。それは宇宙の遠征においては絶望的な差になる」
「どんな理由だ?」
「宇宙には水も無く風もない。櫂も帆も役に立たない場所で、ヨハン殿下、君ならどう船を進める?」
「水があるなら降りてバタ足で押すしかないな」
「宇宙には何も無いからバタ足でも進めないよ。では、帆も櫂も無く風の吹かない湖の真ん中にある船で、君はどう進む?」
「降りて押してはいけないならどうしようもないな」
「船底に積んである転覆防止のバラストの石を思いっきり投げるのだよ。すると反動で進む」
「それはかなり悠長な事に見えるが…」
「そう、宇宙船は射出物の反動で進むから、船出の際には膨大な射出物を積む必要がある。遠距離を移動するのは、非効率的なのだ。移動距離の短い迎撃側は遠征側よりずっと多くの武器を積める。我々は充分な迎撃能力を持っているよ」
「西部教会は、だがな」
「それを地上に降ろすのはまた非効率的なのでね。地上ではそれを脅威と感じる必要はない」
昨日はクリスマス小説を書いていたので貯金がありません。推敲が足りない文になりすみません。明日にはSF設定説明は終わる予定です。
拙作でSFと言えるのはヒメハナ2だけですが、久しぶりに読んでみたら…コメディでしたね。でも、弱者がべそを書きながら進む物語は私の一番好きなジャンルでした。




