10−14 アララト山 (14)
「さて、ヨハン殿下、神は最初に何をした?」
「天と地をつくり、『光あれ』と言って昼を作ったらしいな」
「そうだな。そうやって太陽がまるで地上の従属物の様に言われているから、天動説が広まった訳だ」
「西部教会は地動説を採るのか?」
「天文台が星の運行を計算すれば、そうなるだろう?」
「帝室は教会と争わない為にそこに関する主張はしていない」
「賢明な事だな。では聖女テティス、方舟伝説をどう思うね?」
「…壁に描かれていた絵を見て思ったのは、方舟のリーダーだった男が神の選んだ男とは思えなかったわね」
ヨハンがそれに続けた。
「自分が恥ずべき事をしたのを認め恥じる事をせずに、代償行為として子が失礼な事をしたと呪うのだから、むしろ神の信者というより悪魔の使徒だな」
偽ウトナビシュトも続けた。
「そう、方舟に乗った者達は特別聖者ではなかった。そこは覚えておいてくれ」
「方舟が実際にあったと?」
ヨハンの言葉に偽ウトナビシュトは言った。
「ここがアララト山なのだから、当然だろう?」
「では、シュバルツバッサが洪水伝説の氾濫した川で、ここに方舟が流れ着いたと言うのか?」
「まさか。方舟は何故囲われていないといけなかったと思うんだ?」
「雨から乗員を守る為ではないと?」
「そう、方舟は水に乗って流れ着いたのではない。天を渡りこの星に辿り着く為に密閉されている必用があった。だから方舟なのだ」
ヨハンは眉間に皺を寄せて尋ねた。
「どこからこの星に辿り着いたと?神の国からか?」
「人は神の国を追放されて地に満ちた。人が蔓延った地は神の国ではない。だから、その地、その星が動いても経典と齟齬はない訳だ」
「それで、この星と元の星の間を方舟で渡れると言う訳だな?それなら俺を連れて行って貰わないと信用出来ないぞ?」
偽ウトナビシュトは微笑んだ。
「お勧めしないよ。まず、何故星を渡る必要があったかを説明しよう」
ヨハンは顎を前に出した。続けろ、のジェスチャーだ。
「人々が満ちた星は、まず農業生産中心で発展した。支配者達は人々を農地に縛り付ける為に農奴とし、権力者達が結託して封建性を敷いた。やがて商業が発達し、工業も発達した。より金を稼げる商業・工業は労働力の流動性が必用になった為、農奴は開放され基本的人権を得た」
「貴族制を採るか平等な人権を与えるかは軍制によるとも言うが?」
「同じ事だ。封建性では各地の支配者が分権的に軍を持つが、平等になれば広く人々を徴兵する」
「封建性でなくなれば、当然政治体制は共和制となる訳か?」
「そうなるな。広く税を取る以上、何か権利を与える必要がある。その一つが選挙権となった」
「ネガティブな言葉に聞こえるが?」
「ネガティブだ。古代共和制は扇動家により滅びた。その対策を採らぬまま共和制を広げれば、当然扇動家によるポピュリスト政治が蔓延り、国々は争い合う」
「扇動政治家は憎しみで人々の心を操るからな。感情論と印象論と偽情報で、扇動政治家の敵は憎悪の対象になる。扇動政治家を批判するものは次々と憎むべき敵と民衆に宣伝される事になる」
「それで、憎悪と戦乱の世となる事と方舟にどんな関係が?」
「扇動政治家は投資家と労働者の支持を得る為に環境破壊を放置した。警告された通りに大地は汚染され、極地や高山の氷は解け、大地を水に浸した」
「それが脱出契機と?」
「環境が悪化すれば、当然より住みやすい土地の取り合いになる。民衆はそれを望み、扇動政治家は因縁をつけて外国に戦争をしかけた。破壊と汚染はより広がり、人類の住める場所は従来の3割以下となり、当然人口も激減した」
「戦乱を避ける為の脱出か?」
「人類と文明を残す目的でもあった。住める場所は人の住む星しかないが、資源開発は他の星でも出来た。だから、他の惑星の開拓として投資が行われた」
「当然、扇動政治家とその支持者達が利益を奪おうとした筈だが?」
「計画的に事故を起こした。事故が起きたとして物資を隠蔽したんだ。すると扇動政治家とその支持者達は責任を取りたくないから、適当な調査で適当な奴に責任を取らせる。そうして失われた筈の宇宙開発力は隠れて活動を続けた」
「ああ、責任を追及されれば冤罪だと言い張り、他人に罪をなすりつけるのが扇動政治家だな」
「そう言う事だ。人々と生き物達もそうして隠され、他の星に飛び立って行った」
「行方を隠している以上、すぐ分かる場所には植民出来ない、なるほどその母星とここはすぐ行き交える距離では無い訳だ」
「実際には恒星、太陽の事を恒星と言うが、別の恒星への旅が必用になり、今は母星側の恒星間航行装置は撤去されている。こちらが航行を認める意志がないと星を渡れない様になっている」
「徹底的に扇動政治家からの影響を排除しようとした訳だ」
「当然だ。奴等は刹那的な利益を求めて行動し、短期的な功績を支持者にアピールして支持を維持するが、一方で民衆を憎しみで操る。我々が母星のある恒星系以外で繁殖している事が分かれば、憎悪すべき敵とみなされ略奪の為にやってくる可能性はあるからな」
ハイファンタジーかと思ったらローファンタジーになった訳ですが、母星がどことは言ってないからまだファンタジーの範囲内かな。
やっぱり次回作は普通に異世界恋愛ジャンルにしようと思った…今考えてる企画は普通の恋愛じゃありませんが…




