モブNo.232∶「タイアス様……私に力をっ!」
☆ ☆ ☆
【サイド∶マリー・フレイアフィル】
今、私は歓喜に震えていた。
やつの動向は分かったものの、なぜか出くわすことができず、普通に任務に向かう最中だった。
その時、オープンチャンネルからやつの、ジョン・ウーゾスの声が聞こえてきた。
『あーあー。前方の戦闘艇の搭乗員の方。こちらはバイパスルート警戒中の傭兵です。所属と目的をお聞かせ願えますか?』
神が復讐の機会を与えてくださった。
そう理解した私は一言も話さず、すぐにチャンネルを切り、散開の指示を出した。
するとやつは、私達のうちの一番端にいた1機を追いかけた。
その理由は、すぐ横の機体と真ん中は、早めの方向修正が可能だが、あとの2方向はしっかりと旋回しなければいけないため若干遅くなる。
その間に1機でも落とそうというのだろう。
だが、タイアス様ほどではないとはいえ、私達もエリートとして選ばれたメンバーだ。
簡単に負けるつもりはない!
後ろにつかれた『シックル4』は、やつから距離を取るべくスロットルを全開にし、私達はその後ろを取るべく全速で追いかけた。
やつの機体は、シルエットからしてイオフス社製『ノルテゲレーム』だろう。
そして私達の機体は、グラントロス社製G-07『フィバード』。
汎用機のやつと専用機の私達なら、スピードの面においてこちらにアドバンテージがある。
案の定、やつは前方には追いつけず、私達には追いつかれてしまった。
もちろんこれで浮かれることはしない。
「総員各方角からたたみかけろ!」
私達は謹慎の間、VRシミュレーションでの訓練を何度も何度も繰り返した。
CPに様々な設定条件を加えての訓練は、VRといえど過酷だった。
実戦とVRでは全く違うのはわかっている。
だが全く無駄という訳ではない。
今のこの状況での対処パターンは飽きるほどやりつくした。
故に、やつがどんな行動を取ろうと慌てず行動することができる!
その予想は当たった。
やつが前方の機体を追うのを諦めるような挙動があった瞬間、ビームで牽制して後ろから外れないようにする。
前方を攻撃しようとすれば、牽制して攻撃を止める。
それ以外にも攻撃を仕掛けて休む時間を与えない。
このパターンは、相手の精神的疲労を誘い、相手の操縦ミスを誘うやり方だ。
まともに戦闘を仕掛けたとしても勝てる確率は少ない。
ならば、相手にまともに戦闘をさせなければいい。
やつの集中力が切れた瞬間が勝負だ!
そんな状況が5分ほど続いていたが、やつがへばっている様子は見てとれない。
むしろこのままだと、こちらの集中力が低下し始めるかも知れない。
流石にタイアス様を打ち破っただけのことはある。
こちらから仕掛けるか。
それともまだ耐えるか。
私がどう指示を出そうかと考えた瞬間。
目の前が白い闇に支配された。
次の瞬間、やつの前にいたシックル4の悲鳴が通信から聞こえてきた。
状況から、閃光弾を使われたと理解し、
「総員散開しろ!」
そう指示ができたのは、2人目の悲鳴が聞こえる直前だった。
私はとにかく距離を取った。
目が元に戻るまでは何としても時間を稼がないといけない。
目眩ましとは卑怯な!
しかし、戦場においてこれは卑怯ではない真っ当な戦法と言えるだろう。
予想出来ずに食らった私達が間抜けだっただけだ。
やつの機体であるイオフス社製『ノルテゲレーム』にはそういう装備はついていない。
恐らく何処かで改造したのだろう。
そういうことを考えられなかったのは、仇討ちに目が眩んでいたからだろうか。
ようやく目が治り、味方と連絡を取ってみる。
「こちらシックルリーダー! 各員返事をしろ!」
この時点で2人は死んでいると思っていたのだが、
『こちらシックル1。すみません……やられました』
『シックル2。目が眩んでいる間に行動不能にされました』
『こちらシックル4。いつの間にか後ろに付かれてました…』
『シックル3! 現在交戦中ぐあっ!』
「どうしたシックル3!?」
『こちらシックル3……行動不能……』
全員生きていた。
つまり、やつにとっては私達は手加減出来るぐらい余裕があるということだ。
そして、私達を司法に引き渡し、私達の機体を報酬に上乗せするのだろう。
機体は所属や身元が判明するような痕跡はない。
「全員脱出しろ。私達が司法に捕まるわけにはいかない。やつなら脱出した相手を撃つような真似はしないはずだ」
ならばパイロットを逃がせば問題ない。
『機体は所詮消耗品、パイロットが帰れば、戦力になるし情報も漏れない』
タイアス様がお父上から教えられたという信念だそうだ。
『……リーダーはどうするのですか?』
シックル2が不安そうに尋ねてくる。
「大丈夫。貴方達全員の脱出を確認したら私もすぐに引くわ」
そういってから、私は迫りくるやつを睨みつけ、対閃光用ゴーグルを装着する。
「タイアス様……私に力をっ!」
そうして私は1人でやつに挑み、ヘッドオンヘッドからの背後の取り合いが始まった。
やつ、ジョン・ウーゾスについての情報は色々と集めた。
最初に集まったのは、『雑魚』『デブ』『オタク』『植民地平民』『借金野郎』といった、おおよそ実力者の評価とは思えないものだった。
この証言のほとんどが司教階級以上の貴族子息や令嬢の傭兵で、階級を金で買ったような連中ばかりだった。
次に、綱紀粛正があったばかりのギルド職員からは、『借金完済した人』『ワーカーホリック』『お肉の人』という表面的なワードしか出てこなかった。
これは、一部の悪徳職員が一新され、新人が殆どのためのようだ。
まあ『お肉の人』というのだけはなにかわからなかったけど……。
やつと交流がありそうな連中から情報を得るのは、やつにこちらの事が漏れるかもしれない危険なことなので除外。
かわりにやつが関わった軍の一部からもらった情報では、『所詮傭兵』『知らね』『雑魚っしょ』という、貴族出身の兵や下士官の情報と、『地味な仕事をする』『良い目だ』『うちの部隊に欲しい』『無理な勧誘はアウト』という、司令官クラスの情報が混在して集まった。
さらに戦績を細かく調べたところ、様々な功績と、それをかすめ取っていった連中の名前が挙がってきた。
このことから、やつはかなり苦労をしていて、場合によっては、反帝国主義者の仲間入りをしそうなかんじだった。
しかし、やつはタイアス様の仇であり、実行しなければならない任務の障害であり、倒さねばならない敵だ!
シミュレーションでは全て過去のデータだった。
多人数で囲んでいたときは実感が薄かった。
しかし、直接対決して初めて、『土埃』の実力がどれほどのものか理解出来た。
捉えたと思った瞬間に視界から消え、こちらのアラートが鳴る。
それを全力で振り切った後に、奴を探して食らいついていくが、しばらくしたらまた視界から消える。
この繰り返しだった。
タイアス様はこんなやつと互角に渡り合っていたのかと、改めてタイアス様の実力を理解出来た。
そして部下達が全員脱出したのを確認すると、私は覚悟を決めた。
私ではやつに、ジョン・ウーゾスには敵わない。
タイアス様に大きく実力で劣っていた私が、タイアス様に勝利したジョン・ウーゾスに勝てるわけがなかった。
ならば勝てないなりに、取れる戦法がある。
私はスロットルを全開にし、やつの機体に肉薄した。
しかし次の瞬間、視界が真っ暗になった。
宇宙空間の闇ではない。
明らかにこちらの視界を塞ぐものだった。
閃光弾があったのだからこちらも警戒するべきだった。
次の瞬間、機体に振動が走った。
今ならまだ脱出ができる。
が、私はヘルメットのバイザーを開け、万が一のために用意していたものを飲んだ。
部下達には謝らないといけない。
私はもう、タイアス様が居ないことに耐えられない。
意識が薄れていく。
そして意識が消える前に、機密保持のためのスイッチを押すことが出来た。
これでやつにダメージの1つでも入ればありがたい。
タイアス様……いま……お側に……
★ ★ ★
マリー嬢はこれで退場です。
生かそうとも考えましたが、そっちの方がかわいそうかなと思い、こっちにしました。
最後の『お側』が『お蕎麦』に変換された瞬間笑ってしまいました
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




