モブNo.230∶「楽しみだわ……」
☆ ☆ ☆
【サイド∶マリー・フレイアフィル】
謹慎が解けてから1カ月は経過していたが、タイアス様の敵である司教階級の傭兵の始末は、いまだに出来ないでいた。
その理由は、謹慎が解けた私に、サークルース伯爵家に対して害意のある貴族への、通商破壊作戦への参加の命令が下されたからだった。
要は海賊を装って商船を襲撃するわけだが、『商船の乗組員の殺害は極力しないように。正体がバレるのも極力さけるように』との指示があった。
『我がサークルース伯爵家に害意があるのは貴族だ。民衆は関係ない。が、攻撃をしてきたら別だ』
という御当主様の御言葉はその通りだと思う。
そうして私は、仲間と共に通商破壊任務に従事した。
民間人の商船を攻撃するのは心苦しいが、ほとんどが無抵抗、もしくは軽く撫でてやれば無力化できていた。
なかには、船乗りの父親といっしょに乗っていた少年が抵抗してきたこともあったが、その勇敢さに免じて、通商破壊を半分にしてやったこともあった。
少年の面立ちがタイアス様に似ていたからとかそういうことはない。
とはいえ、この任務をしている限り、私はタイアス様の敵を討つことは出来ない。
御当主様はそれを見越して、私に通商破壊任務を課したのだろう。
そんな、復讐の念がモヤモヤしている最中、サークルース伯爵家に協力する反帝国主義者と、軍から離れ、『鬼神艦隊』となったトーンチード艦隊が、御当主様のところへやってきた。
トーンチード元准将閣下については何の心配もない。
「お久しぶりです。サークルース伯爵閣下」
「久しぶりだなトーンチード准将。いや、今は『鬼神海賊団のキャプテン・トーンチード』か」
「からかわないでください」
御当主様フイガス・サークルース伯爵様と、サラマス・トーンチード元准将閣下は知り合いであったらしく、和やかな挨拶が交わされた。
キチンと礼儀を弁え、挨拶もしっかりしていた。
階級章は外していたものの、本人もその部下たちもきっちりと軍服を身に着け、軍を離脱したというのは何かの作戦ではと勘違いしてしまいそうだ。
「お初にお目にかかります。サークルース伯爵様」
「そなたが反帝国主義者団体の人員で間違いないのかな?」
「はい。私達が反帝国主義者団体のものです」
「組織の名前、的なものはないのかね?」
「ございません。派閥も多く、統一は難しいので」
「相わかった。して、貴殿は何とお呼びすれば?」
「ノルチェとお呼びくだされば」
「よろしくお願いする。ノルチェ殿」
「よろしくお願いいたします」
この反帝国主義者団体の人員だと言うノルチェという女も問題はない。
黒い髪に切れ長の目をした美人で、上品なワインレッドのワンピースを身に着け、所作も美しく、御当主様に対しても礼儀を弁えていた。
「でもさあ。おじさんの息子って海賊にやられちゃったんでしょ? これじゃあおじさん達の実力もたかがしれてるよね」
が、ノルチェと名乗った女の横にいたこの子供は駄目だ。
明らかに馬鹿にしたようなその言い方に、その場にいた、私を含めたサークルース伯爵家の人間全員が、その子供を睨みつけ、トーンチード元准将とその部下は、驚いた後に子供を怪訝な表情で見つめ、ノルチェ以外の反帝国主義者団体の人員達は、子供の発言に顔を真っ青にしていたが、叱ったり取り押さえたりは出来ないでいた。
恐らくこの子供は、リーダーであるノルチェの血族、もしくは愛玩対象であり、それを最大限利用しているのだろう。
すると、
「控えなさいエリオット」
ノルチェが、 凍り付く様な視線を、子供=エリオットに向ける。
「……はい……」
すると、エリオットは怯えた様子ですぐに縮こまった。
そうやって初めから大人しくしておけばいいのだ。
その後は、偉い人達だけで話し合いが行われた。
そしてその話し合いの終了後、ノルチェから御当主様に『部下が失礼したことのお詫びに』と、1つの資料が提供された。
それは、彼等の中での過激派が、ターゲットとして始末してきた悪徳貴族のリストだった。
そのなかには、我がサークルース伯爵家に害意のある貴族の名前もいくつかあり、彼等の有用性を示していた。
そしてその中のページに、タイアス様を殺害した司教階級の傭兵の実家であるカルボネ子爵家の名前があり、その息子であるトミー・カルボネは既に殺害済みになっていた。
報道はまだされていないので、本当に始末したばかりなのだろう。
それを見た瞬間、私は悔しさに涙を流した。
殺してやりたいと切望していた相手が、自分ではないものの手によって殺されているのが、これだけ絶望感に襲われることだとは思わなかった。
☆ ☆ ☆
【サイド∶反帝国主義者・第三者視点】
反帝国主義者達のシャトル内部では、サークルース伯爵家に対して失礼なセリフを吐いたエリオットに対して、厳しい視線が注がれていた。
今回のサークルース伯爵との会合には、
植民地の独立のみを目指す独立派。
植民地を独立させると同時に帝国の領地を分割、自領への吸収を目的とする吸収派。
皇帝・貴族制度を撤廃させ、帝国を合議制民主国家に変えようとしている民主化派。
という反帝国主義の3つの派閥の者達が同席をしていた。
そのなかで、国家体制に興味はなく、皇族は絶対に皆殺し・貴族は自分達に従わない者は皆殺しという殲滅派のノルチェが今回の交渉役を任されたのは、彼女が普段は吸収派を名乗っているからである。
殲滅派は他の派閥からは煙たがられており、殲滅派は同志ではないと断言するものもいる。
彼等にとってサークルース伯爵は、皇帝陛下でも無下にできない勢力であり、反帝国主義者達にとってこれほど頼もしい相手はなく、敵にまわせば厄介な存在に間違いなかった。
その伯爵に失礼なセリフを吐いたエリオットは、全員から睨まれて当然ではある。
大型貨物船に到着し、ノルチェの自室に入るまで、エリオットは終始睨まれっぱなしだった。
ノルチェの自室に入ると、エリオットは大きく息を吐きながらソファーに座った。
「いやあ、生きた心地がしなかったよ。でもあれでうまくいったのかな?」
「ええ。他派閥連中には私達に問題ありと映ったでしょうね」
ノルチェはくすくすと笑いながらティーポットを手に取り、カップに紅茶を注いだ。
「これで私達に殺し屋でも差し向けてくれたら、連中を処分できる大義名分ができるのだけどね」
ノルチェはカップを傾け、何かに思いを馳せるように眼を閉じ、
「楽しみだわ……」
目を開けてニヤリと笑った。
その笑いに、エリオットは薄ら寒いものを感じたが、なにもいわなかった。
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エリオット「今日はナイフは舐めないの?」
ノルチェ「先日新製品の試食会があってね。ちょっと舐めすぎちゃったのよ」
エ「新製品の試食会があるんだ……」
ノ「今回は、キャラメル・梅・鰹出汁・トマトソース・ハニーマスタード・バターなんかあったわ。あとはフルーツ系ね。マスカットなんか美味しかったわ」
エ「そうなんだ……」
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