モブNo.229∶「よし! じゃあ遠慮なくもらっとく! 娘も嫁さんも喜ぶぞ!」
一部加筆
ゴンザレスにステーキをおごった翌日。
僕はキャリーバッグを手に、傭兵ギルドのカウンターにやってきた。
「ういっす」
「おう。昨日はすまなかったなあ。急に帰っちまったから怒らせたかと思ったぜ」
ローンズのおっちゃんは申し訳なさそうに頭を掻いていた。
「は? 別に怒る話なんかしてないでしょ」
「ほら。ステーキハウスの招待券を寄越せとかいったじゃねえか」
「ああ、あれ。はい」
バツの悪そうな顔のおっちゃんに、僕は薄い長方形のボックスを手渡す。
「なんだこりゃ?」
おっちゃんがボックスをあけると、白地に金の縁取りがあり、黒の文字で大きく『御食事御招待券』と書かれ、その下には同じく黒い文字で『アントニオ・ローンズ様御一家3名様』『ステーキハウス・エルナト・イッツ支店』と、書かれたプラ・ペーパーが現れた。
ちなみに裏にはデータコードがあり、予約した料理のデータや、ローンズのおっちゃんと僕の連絡先のデータが入っている。
「『ステーキハウス・エルナト』の『スペシャル高級肉尽くしコース』3人分と赤ワイン1本の『招待券』。招待日は1カ月後の午後7時にしておいたから」
僕の説明とチケットの現物を見て、ローンズのおっちゃんは急に慌て始めた。
こんなに慌てるおっちゃんは初めて見るなあ。
「おいおい! 昨日のは冗談みたいなもんだぞ!」
「こっちとしては、いままでお世話になったお礼だからさ。ささやかなもので悪いけど」
「たしか『スペシャル高級肉尽くしコース』ってのは1人4万だから……全部で12万クレジット?! おまけにワインだあ?! 全くささやかじゃねーぞ! って今のお前には細やかなんだよな……」
最初はブツブツいっていたけど、最後はため息をついて諦めてしまった。
まあ、僕の前回の報酬を知っているからね。
「よし! じゃあ遠慮なくもらっとく! 娘も嫁さんも喜ぶぞ!」
そしてついに開き直り、チケットの入ったボックスをしっかりと握りしめた。
そしてこの光景を周りの受付の人達は、当然見ている。
以前なら、『じゃあソレあたしにもちょうだい』なんていってくる輩が山程湧いたことだろう。
しかし今はそんな非常識な受付係はいない。
その代わり羨ましいとは考えるだろう。
事実、昨日同じ様に要求したゼイストール氏が、びっくりした表情でローンズのおっちゃんの手元を見つめている。
さすがに7年以上ずっと助けてくれた人と、助かっているとはいえ、知り合って1年経ってない人にそこまでするつもりはない。
だが、さっきもいったとおり、羨ましいとは思うだろう。
なので、その対策をしてきた。
「こっちは皆さんに差し入れです」
そういって、ゼイストール氏にさしだしたのは、高ランクサーロインステーキ肉1枚150g6枚入りのボックスが6つはいった、『ステーキハウス・エルナト』のロゴが入ったプラ・ペーパーの袋だった。
『ステーキハウス・エルナト』の母体は『エールナード精肉店』というお肉屋さんのため、レストラン店舗でも精肉を販売していたりする。
そのなかでもおすすめの品をチョイスしてみた。
「では。みんなでありがたくいただきますね〜」
ゼイストール氏が笑顔で受け取ると、受付の人達が、我先にとわっと集まった。
が、いつのまにか現れたテリー・ワーデル部長に没収されてしまった。
部長さんは僕に頭を下げ、
「ありがとう御座います。この混乱が収まったら、ホームパーティーでも開いてみんなでいただきます」
と、お礼をいってきた。
そのあとは、にこにこ顔のローンズのおっちゃんから依頼を受けて、ギルドを後にした。
ちなみに僕が受けた依頼は、毎度お馴染みの小規模海賊退治だ。
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業務内容:エドネイア宙域に出没する小規模と思われる海賊の捕縛もしくは殺害証明。
業務期間:無期限。
出没宙域∶エドネイア宙域
推定規模∶小規模。小型艇は数機。
報酬∶30万クレジット。
備考∶名前を名乗らないため無名。
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悪徳らしい貴族の護衛という仕事は山程あったが、やりたくないのでこっちにした。
そしてそのままパットソン調剤薬局に向かい、このエドネイア宙域に出没する海賊の情報をもらいに来た。
の、だが。
「情報がない」
ゴンザレスは、ネットダイブから帰ってきて、開口一番こういった。
ショボすぎて情報がないことは今まで何度もあった。
が、今回はそういうことではないらしい。
「普通、海賊の情報がないのは、『襲撃回数が少ない』『被害金額が少ない』ってのが挙げられる。あと海賊は基本的に名前を売るもんだから、名前を名乗ったりするもんだが、それをしないのも増えてきてる。それでも要求を突きつける時は会話をする。が、こいつはそれを合成音声に言わせているらしい。これじゃあ声紋のデータすらとれない。さらにはノーマルスーツのヘルメットにスモークと認識阻害処理が施されていると思われる」
ゴンザレスは水の入ったプラ・ボトルを傾けた。
「とことん身バレを避けてる感じだが、貴族が海賊の真似事をしている。というには丁寧すぎる。気をつけたほうがいいかもな」
珍しく真剣なゴンザレスの表情に、僕は少し気を引き締めた。
そのあとは、ビル・ドルクのおやっさんのところに向かった。
休みの間パッチワーク号をオーバーホールしてもらっていたからだ。
そしてついでなので、おやっさんのところにも感謝の精肉を渡しておいた。
こちらは若い職人がいっぱいいるので、質より量とばかりに焼肉用の様々な部位の肉を合計20kg渡しておいた。
「すまんな。ありがたく貰っておくぞ」
おやっさんの弟子には住み込みもいるから、丁度いいのだろう。
「ところでよう。新しい機体はどうだ? キュリースの嬢ちゃんに頼まれて、俺も手を入れたやつだから気になってな」
肉の入ったスチロールの箱を、共用の冷蔵庫に入れながら、そんなことを尋ねてきた。
「いい感じですよ。以前のよりよく言うことを聞いてくれる気がします」
「それならいいな」
これは正直な感想だ。
とはいえ、キュリースさんがおかしな兵器を搭載しているのではないかという恐怖はいまだに完全に拭えてはいなかったりする。
そして僕は船を受け取ると、キャリーバッグに入れていた必要な荷物を船にのせ、依頼を遂行するべく、イッツから飛び去った。
切りが良いので切らせていただきました。
ステーキのコースと、生肉の値段を軽く調べたところ、
有名店のコースは1人4万、サーロイン肉は250g三枚で2万1千とかがありました。
多分もっと上もあるでしょうが、チェーン店という事でこの辺りに設定しました。
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