モブNo.228∶「よう。ステーキ食べにいかない? おごるから」
長期の休みを取ることにしたものの、結局旅行には行かなかった。
かといって惑星内の遊園地・動物園・テーマパークなどのレジャースポットにも行かず、筋トレとネトゲ三昧という、楽しくも残念な長期の休みだった。
そしてその間、世間では様々な事件が起こっていた。
まずは『反逆艦隊』と呼称されている元・第7艦隊が、本格的に民間の輸送船を何隻か襲ったらしい。
その全ては、悪徳貴族の息のかかった商船で、皇帝陛下に見つからないように、色々あくどいことをしていたらしい。
それならなぜ最初に真っ当な企業である老舗製菓メーカー『スターライト・コメット』の貨物輸送船を襲ったのかが理解に苦しむ。
その時食糧の話をしていたが、案外本当にギリギリだったのかもしれない。
しかし中には、自ら物資を提供しにいった民間船がいたとかいないとか。
トーンチード准将の生い立ちと、彼の艦隊の乗組員が市民や植民地民だけなのが、民間の協力者が出現する理由だと考えられているらしい。
次は、以前から頻発している、反帝国主義者達の仕業と言われている、貴族への襲撃事件だ。
僕が休んでる間だけでも惑星イッツ内で15件。
帝国全体だと1000件を超えているらしい。
手口はバラバラで、刃物による刺殺、鈍器での撲殺、近距離からの射撃、遠距離からの狙撃、爆弾による爆死、車やバイクでの衝突、高所からの墜落、落下物による衝撃、毒殺など、バラエティに富んでいた。
犯人が逮捕されたものもあれば、いまだに逮捕されていないもの、犯人もろとも死んでしまったもの、本当に殺人かどうか判断がつかないものが混在し、警察も頭を悩ませているらしい。
さらにいえば、逮捕された犯人は反帝国主義者ではなく、普段から被害者の貴族に虐げられていた者達で、彼等をメールなどで唆しているのが反帝国主義者と推測しているが、今のところ尻尾を掴んではいないらしい。
しかしその被害者が反皇帝派貴族、つまり悪徳貴族ばかりなため、『実は皇帝陛下と反帝国主義者は繋がっているのでは?』なんて推測も出ているらしい。
そしてそれに付随し、一部の貴族傭兵まで暗殺の対象になったらしい。
傭兵ギルド本部所属の一部の貴族傭兵が、戦場以外のところで殺害されたらしい。
その連中は態度も悪く、毎度ギルド職員に注意を受けていたそうだ。
そのため、本部の傭兵ギルド内部に反帝国主義者が潜んでいるのではないかと疑われているらしい。
ギルドはとんだとばっちり……とは言い切れないのが問題だね。
本部のギルドがそんな状況だと、地方のギルドにもどんな影響がでているか分かったものではない。
そんな状況ではあるが、実に7日ぶりにイッツ支部のギルドにやって来たところ、案の定職員は全員がお疲れ気味だった。
傭兵は、妙に警戒している連中と、余裕のある連中とにわかれていた。
警戒しているのは貴族出身の連中。余裕があるのは平民出身なのだろう。
まあ僕も平民の植民地民だから余裕なのは間違いない。
僕は、疲労困憊気味のローンズのおっちゃんのところに行き、
「お久しぶり。大丈夫っすか?」
と、声をかけた。
「そうみえるか? 先日から、警察やら本部の調査部やらがやってきて、連続の聞き取り調査に家宅捜索。その合間に貴族や貴族出身の傭兵からはクレームと質問の雨霰だ。飯を食う暇もねえ」
おっちゃんは相当疲れているらしく、ぐったりとデスクに頭を打ちつけた。
「とはいえ、本部以外でも起こり得ることですからね。仕方ないです」
横の受付にいた、アルフォンス・ゼイストール氏もかなりお疲れの様子だった。
「下火になるまでは仕方ないんじゃないですか?」
「そうなんだよな……」
「そうなんですよね……」
2人ともかなり疲れているらしい。
そういえば、ローンズのおっちゃんには新人の頃から世話になっており、おっちゃんがいなかったらいまだに最初の借金すら返せていなかっただろう。
アルフォンス氏にも、おっちゃんがいない時に世話になっている。
たまにはこの大恩ある人達に恩返しができないものかと考えた。
とはいえ、自分に何かできるかと考えると、差し入れをするぐらいしか浮かんでこない。
ではなにを差し入れるか?
そうなると完全に詰みになる。
いままで借金弁済のために、贅沢はしてこなかったから、あんまり浮かばない。
なので直接聞いて見ることにした。
「おっちゃん。差し入れに貰うなら何がいい?」
「なんだよ。なんか差し入れてくれるのか?」
「借金が返済できたし、余裕もでてきたからね」
「そうだなあ……。『ステーキハウス・エルナト』の『スペシャル高級肉尽くしコース』の『招待券』だな。家族3人分」
今名前が出た『ステーキハウス・エルナト』には、『招待券』と呼ばれるサービスがある。
お客が、招待する相手の情報(代表者の名前と連絡先、あるなら顔写真)・来店する日時、料理の内容、席の指定などを決め、その代金を先払いし、そのチケット(プラ・ペーパー製)を招待したい相手にプレゼントできるサービスである。
恋人や家族水入らずの時間を提供できたり、社内コンペの賞品として用いたりできるため、割と人気のサービスだったりする。
「……娘さんはおいくつでしたっけ?」
「小学校4年生だ」
その年齢なら、『スペシャル高級肉尽くしコース』も食べれなくはないだろう。
するとそこに、
「いいですね〜〜『エルナト』の『招待券』ですか」
横にいたアルフォンス・ゼイストール氏が、なぜか目を輝かせながら話に入ってきた。
「私も『エルナト』には行ったことがありますけど、美味しいんですよねあそこのステーキ……。最近まともに食事が出来てないんですよね……」
そしてなぜかニコニコしながら僕に視線を向けてくる。
どうやら彼も『招待券』が欲しいらしい。
普段品行方正な彼がこんなことを言うということは、どうやら相当にまいっているらしい。
僕はさっと挨拶をしてからギルドを出ると、そのままパットソン調剤薬局に向かうことにした。
パットソン調剤薬局に到着すると、
「よう。ステーキ食べにいかない? おごるから」
と、いきなり声をかけてみた。
「どういう風の吹き回しだ?」
ものすごく怪訝な表情をする友人に、ローンズのおっちゃんに『招待券』をプレゼントしたいことを打ち明ける。
実は『ステーキハウス・エルナト』の『招待券』は、店舗での直接購入しか出来ない仕組みになっている。
渡す相手の情報と同時に、購入者の情報も店舗側が把握し、転売や窃盗しての使用を防ぐためなのだそうだ。
それに、この友人にも感謝をしておいても良いはずだ。
というのは建前で、『ステーキハウス・エルナト』はチェーン店なだけにそんなに格式が高い店ではないけど、僕のような人間が1人だけで行くにはちょっとハードルが高いからだ。
そうしてゴンザレスと一緒に、『ステーキハウス・エルナト・イッツ支店』に向かった。
店舗の作りは支店によって違うらしいけど、イッツ支店は1階はファミレスっぽいテーブル席で2階が個室になっている。
僕とゴンザレスは1階のテーブル席に座って、まず僕はチキンステーキのセットを、ゴンザレスはコース以外で一番高い、牛のフィレステーキのセットを注文した。
そしてそのまま、『招待券』も注文し、その日は友人との食事を楽しんだ。
旅行は本当にネタが浮かばず……
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