モブNo.227∶「まあ。面倒くさい奴はこっちが何やってたって文句を言う。なら、こっちを侮ってくれたほうがやりやすいよな」
ウィリベルト・ヨーキヌル伯爵令息が無罪放免になったことには腹が立つが、無理に騒ぎ立てて揉める方が面倒臭いので放置することにした。
恐らく父親の伯爵がなんかしたのだろうから、関わらない方が吉だ。
その後は、報酬を情報で受け取った後、ギルドを出て真っ直ぐにアドノスロー銀行パルベア支店に向かった。
そこでまず、5084万クレジットのうち2000万クレジットを両親に仕送りし、3000万クレジットを口座に振り込み、70万クレジットは情報のまま腕輪型端末に残し、14万クレジットを現金にして財布に入れ、銀行を後にした。
今回の仕事は、日数的にはそんなにかかってないけど、あの伯爵令息のせいで精神的にものすごく疲れたので、長めの休みを取ろうと思う。
せっかく長く休みをとるのに、普段の休みとやることが変わらないのはどうかと思うので、どこかに旅行でもしてみようかと考えてみる。
とはいえ、コミマの前乗りと修学旅行ぐらいでしか行楽での泊まりがけの旅行は経験がない。
それでも何処かあるかなと考え、ぱっと思いついたのは漫画やアニメの聖地巡礼だ。
だけど、地元の人の迷惑になりそうだからどうしても忌避してしまう。
それに、仕事でとはいえ色々な場所にいっているため、今さら行きたいと思う場所はないのが正直なところだ。
まあ、そんなことを考えながら、公園のベンチでぼーっとしているのもなんなので、大規模入浴施設の『リラクゼーションヘルスランド』に向うことにした。
ここは相変わらず、親子連れや老人だけでなく若い連中の姿もよく見かける。
が、今日は妙に若い男性が多い気がする。
まあそんな日もあるだろうと、僕はプラ・ペーパーのチケットを購入してカウンターにもっていき、シューズボックスの鍵をもらう。
今月のチケットの絵柄は有名画家のブロウ・ノースド・ピラーの美人画だった。
靴を脱ぎ、男風呂の脱衣所で服を抜いで、ボックスに入れて鍵をかける。
こうしてようやく浴室に入り、身体を洗ってから湯船に入ると、「あ〜〜」という声がでて、疲れが抜けていく感じがした。
ロビーには若い男性客が多くいたから、浴室も混んでいるかなと思ったけど、意外と空いていた。
そうしてしばらくお湯に浸っていると、
「おう。兄ちゃんじゃねえか。久しぶりだな」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
声の主はバーナードのおっさんだった。
「あ、どうも」
「なんだ。痩せたって聞いてたが、リバウンドしてるみたいだな」
バーナードのおっさんはにたにた笑いながら僕の横に座った。
「痩せたままだと下手に絡まれるんで、見た目だけでも戻そうかと」
そう。僕は一度強制的に痩せてから、見た目だけでも元の体型に近づけるべく、トレーニングジムの人にアドバイスを聞いたりした。
そこで教えてもらった『スモー式ビルドアップ』を実践し始めて何日かしたとき、ハンターアクション『クリーチャーハンタープラネット』のオンラインで、ネキレルマ星王国領域の惑星バルダルの惑星上警備及び巡回の依頼で知り合った、惑星ワーレイ支部所属のロバート・リボロス氏に再会した。
そこで『スモー式ビルドアップ』を始めたことを話すと、『その『スモー式ビルドアップ』は神代の頃にあった『スモー』といわれている格闘技に生涯と命を捧げる覚悟があるものでなければやっていいものではない。それに近年の研究結果によると、結果的には身体を壊してしまうやり方だから『スモー』を極めようというのでないならやめたほうがいい。太ったように見せたいなら脂肪ではなく筋肉をつけろ』と、いわれた。
それからはリボロス氏に教えてもらった『お腹周りに筋肉をつける方法』を教えてもらい、食事のメニューも変更した。
その結果、腕や脚はゆっくりと以前のような感じになり、お腹周りは痩せた直後よりは太くなったけど以前よりはかなりへこみ、全身にあった脂肪が筋肉に置き換わっていく感じに落ち着いてきたのだ。
とはいえ最初の『スモー式ビルドアップ』の影響があり、まだ脂肪が残っている感じなので、今後はそれを無くしていく予定だ。
ちなみに『スモー式ビルドアップ』を教えてくれたジムの人は新人で、『スモー式ビルドアップ』は身体を大きくするという聞きかじりの知識で勧めてきたらしく、あとから先輩トレーナー達にしこたま怒られたそうだ。
ともかく、リボロス氏のおかげで、完全に痩せた状態から、お腹周り以外は以前とほぼ同じ見た目になりつつも、脂肪を筋肉に置き換えるという作業は順調に進んでいる。
もちろんバーナードのおっさんは、当然そんなことは知らない。
「まあ。面倒くさい奴はこっちが何やってたって文句を言う。なら、こっちを侮ってくれたほうがやりやすいよな」
「そんなとこです」
が、僕がやろうとしていることはすぐに理解してくれたらしい。
そうして一息つくと、おっさんはさらににやにやした顔をし、
「そうだ。ここにきて、若い連中が山程いたろ? あれな、最近ここの入浴施設に『浴衣』をものすごく着崩す若い姉ちゃんが出没するって噂があってな。いまはその姉ちゃんを一目見たさに若い連中がこぞってやって来てるんだ」
と、つぶやいてきた。
「ああ。それで男性が多かったのに浴室が空いてるのか……」
つまりはその着崩し美女目当てでたむろしているため、風呂には入って来ないわけだ。
「見たことのあるやつの話だと、身長が180cmぐらいで、黒い髪を背中まで伸ばしている鋭い目つきの美女で、スタイルもボンキュッボンらしいぞ!」
初老も近いくせに、バーナードのおっさんは嬉しそうに着崩し美女のことを語っていた。
「へーそうですかー」
僕は半分呆れながら話を聞き続けた。
あれ? なんだかその特徴の人物を、僕は何処かで見たことがあるような気がする……。
☆ ☆ ☆
【サイド∶マリー・フレイアフィル】
今朝ようやく謹慎が解かれた。
これでやっとタイアス・サークルース様の敵をとりにいける!
『戦場でのことは仇にはしない』
理屈はわからなくはない。
たが感情がそれを許さない!
私は必ずタイアス様の仇をとる!
まずは『土埃』と行きたいけれど、奴はタイアス様を正面から破った実力者。
簡単にはいかないだろう。
なのでまずは、直接タイアス様を殺害した連中からだ!
謹慎中に調べてみたところ、司教階級とはとうてい考えられない事実が判明した。
成功した依頼の数だけ見れば確かにふさわしいが、その大半が捏造と横取りであり、その実力はせいぜい城兵階級程度、タイアス様ならこんな連中など秒殺だろう。
何よりそれが許せなかった。
私はまずこの連中を始末することにした。
こいつらは簡単だが、『土埃』はどうするか。
それはこいつらを始末してから考えよう。
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モブに恨みを持っている人物の始動です
ちなみに書籍版だと着崩し美女はすでにでてます
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