モブNo.222∶「ミスターヨーキヌル。馴れ馴れしく名前で呼ばないでください」
今眼の前にやって来たウィリベルト・ヨーキヌル伯爵令息以外にも、僕に絡んで来た連中は山程いる。
そして大抵は司教階級になって首都に行ってしまった。
そうやって首都に行ってくれるのは、正直ありがたかった。
眼の前から消えて、嫌がらせをしなくなるのだから。
問題は、実力もコネもなく、貴族ということしか持っていないために首都に行けない連中だけど、最近はあまり絡んでは来ない。
が、陰口を叩いているのはよく聞こえてくる。
それはともかく、イッツではないこんなところで、首都に行った人間に絡まれるとは思わなかった。
だが以前とは違い、大勢いた取り巻きが1人もいなくなっていた。
「お前みたいな三流デブが、痩せたぐらいで女にモテると思ったら大間違いだ! 生物としての格が違うんだよ格が!」
このウィリベルト・ヨーキヌル伯爵令息は、黒髪の短髪に青い目でそれなりにイケメンなのは間違いない。
「それに、相変わらずショボイ海賊ばかり追いかけているみたいだな。俺様ぐらいになると、大物しか狙わないがな! そもそもこの俺様の……」
そしてまず嫌味をいった後に自慢話が始まる。
この自慢話がまた長い。
当時の彼の取り巻きもうんざりした表情をしていたから、彼等も苦労していたんだろう。
さてこの長い自慢話をどうやってぶった斬ろうか考えていると、
「ヨーキヌルさん。ウーゾスさんは今私と話をしているんです。邪魔しないでもらえますか?」
と、委員長風の受付嬢さんがぶった斬った。
令息は一瞬苛ついた顔をしたが、ぶった斬ったのが受付嬢とわかると、
「おお! ラフィエナくん! 大丈夫か? この男に失礼なことなどされなかったかね?」
と、イッツにいた頃から使っていた常套句をはきながら、芝居がかったゼスチャーを入れ、受付嬢さんの手を握ろうとしたが、
「ミスターヨーキヌル。馴れ馴れしく名前で呼ばないでください」
というセリフと共に、蠅か蚊のように払いのけられていた。
激怒するかと思ったのだけれど、令息は咳払いをしてから、
「失礼……。おお! ベルエナントくん! 大丈夫か? この男に失礼なことなどされなかったかね?」
と、今度は受付嬢――令息のセリフから推測すると、ラフィエナ・ベルエナントさんというらしい――の手を握ろうとはせずに、同じようなセリフでリトライをしてきた。
ベルエナントさんはそのセリフを完全に無視して、
「私は、ここにいるジョン・ウーゾスさんに失礼なことなどされていません。余計な口をお挟みになる時間があるなら依頼の一つでもこなしてください。そして果てしなく邪魔なのでとっととお引き取りください♪」
ものすごくいい笑顔で令息に帰れ宣言をした。
ベルエナントさん、多分めちゃくちゃ怒ってる!
そして笑顔なのがより怖い!
その迫力に、ヨーキヌル伯爵令息は気圧されたらしく、
「で……では私はこれで」
と、そそくさと逃げていった。
僕はこの光景を見て、自分が傭兵になったばかりの頃のイッツ支部の受付嬢がこれくらい真面目で優秀だったら、と、思わずため息をついてしまった。
あのころの不真面目な受付嬢達のせいでどれだけの金銭的・精神的被害を被ったか。
もちろんまともな人もいたけれど、イッツの上層部が不良受付嬢達を庇っていたのもあって、その人達も被害を受けていたらしい。
そんなことを考えていると、ベルエナントさんが声をかけてきた。
「申し訳ございません。ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ。あの令息は最初はイッツにいたので顔を知ってるんです。絡まれたのは私のせいですから」
彼女は一つも悪くないのに謝罪をしてきた。
正直本当に申し訳ない。
「まったく……。あの男、首都でかなり難しい依頼を失敗してここに逃げ込んで来たので有名なんです。あと、ここの人達ってショボイ海賊はわざと放置して、賞金が上がったら狙うっていうやり方をしてるんです。その間被害者が増えるっていうのに……情けないというか腹立たしいというか……」
ベルエナントさんの怒りの様子から、もしかしたらここはあんな感じの傭兵が多いのだろうか?
海賊団『マラグマンタ』の情報に関しては特に有益なものはなく、提出されていた情報と大差なかった。
なので僕は、アスティトアのギルドを出ると、そのままアスティトアの繁華街に向かった。
地元の傭兵は賞金首のランクを上げようとしているから情報を期待出来ない。
それよりも一般の人達の噂話のほうが期待出来る。
それに、名物になっている『エンジェルリングドーナツ』を食べてみようともおもった。
繁華街というのは、特徴は違えど、並んでいる店の種類はどんな惑星でも大きな違いはない。
しかも『エンジェルリングドーナツ』は名物なのもあり、店舗を見つけるのは比較的簡単だった。
何しろ何十軒と点在していたからね。
値段もそんなに高くはなく、基本的にはふんわりとした大きめのプレーンドーナツに、白い砂糖だけのグレーズと赤い色と苺のフレーバーのついたグレーズをマーブル状になるようにかけたものだった。
お店ごとの工夫や特徴もあり、食べ比べるのも楽しそうだ。
そんな感じで、情報を集めに行こうと、居酒屋を探した。
とはいえ表通りにある店では、普通のお客しかこないだろう。
なので、裏路地にある飲み屋街に向かってみた。
『飲み屋小道』と呼ばれるその路地裏は、幅3mの道幅で約300mのあいだに、飲食店・居酒屋・クラブ・スナック・バー・小料理屋・キャバレーなどが軒を連ね、何軒もの店がそのわずか3m道幅の店前に椅子とテーブルを並べていたりしていて、実にごちゃごちゃしていた。
『闇市商店街』にも『暗黒横丁』という飲み屋街があるが、あっちは『冒険者の酒場』だったり『いかにも怪しいカウンターバー』とか『悪党が優雅な会話をする高級レストラン』などがあり、静かで雰囲気が物凄く怪しい感じだ。
その点こちらは、ごちゃごちゃしてはいるが、実ににぎやかで、様々な料理のいい匂いが色んな所から漂ってくる。
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」
そこに、作業服姿のおじさん達の声が聞こえてきた。
そのテーブルにあった骨付きのローストチキンが美味しそうだったので、その店『チキンと酒のみせ』に入ることにした。
切りが良いので短め……
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