モブNo.219∶「それだけで下手なサラリーマンの年収超えてんだ。休め休め」
惑星ヴォーラビオスのあるアリネモア宙域での、2週間の海賊退治から帰ってくると、あるニュースが持ちきりになっていた。
それは、現在空席になっている第7艦隊が、新しく編成されるというニュースだった。
元々人気のあった第7艦隊の再編成だけに、かなり力が入っているようで、軍の内部からだけでなく、外部からも希望者を募っているらしい。
ローンズのおっちゃんの話によると、傭兵ギルドにも勧誘の話が来ていて、ホロ・ポスターをあちこちにペタペタと貼っていったらしい。
さすがに迷惑だったので、一部を残して剥がしたそうだけども。
ともかく海賊を退治、捕獲したのでその報酬を受け取ることにした。
まずは基本報酬の海賊退治が50万クレジット。命がけの仕事なのにと思うが、小規模な海賊ならこんなものだったりする。
しかし、海賊退治にはやり方によっては大きなおまけがつく。
それは、海賊達の使用していた戦闘艇や貨物船を鹵獲し、販売する事でその売上を全ていただけるからだ。
今回一番の高額は中型の貨物船で、なんと1610万クレジットにもなった。
この中型貨物船は居住性能が高く、かなり快適な空間になっていたため、高値がついたのだ。
以前、小惑星を改造した建築物を買い取ってもらったときは、341万クレジットだったけど、これは小惑星自体が小さく、内部がほぼ倉庫で、居住空間は仮眠室とトイレとシャワーだけだった為に安かったのだ。
小型貨物船は250万クレジットで、戦闘艇はどちらもトリスギアータ社製P−634『ボルトフレーク』で、一機で354万クレジット。
これで合計は2568万クレジットになり、これに基本報酬を足して2618万クレジットが今回の僕の報酬だ。
今回、海賊団が元貴族で、中型貨物船を持っていたうえに、おそらくエリザ・リーガインのために内装を豪華にしていたのが高額になった原因だろう。
「で、今回はどうするんだ?」
「2週間も捜索してたからね。長めに休むよ」
今回は流石に高額なので全部情報で受け取り、座ったまま全身の力を抜いた。
「それだけで下手なサラリーマンの年収超えてんだ。休め休め」
ローンズのおっちゃんは呆れ顔をしながら、あっちへ行けと促した。
あのまま座っていてもどうしようもないので、ギルドを出て『アニメンバー』に行こうとしたところ、
「あ! いた!」
「ウーゾスくんちょっとまって!」
ディロパーズ嬢、アルプテト嬢、ロスヴァイゼさん、ランベルト君、ユーリィ君の5人に出くわした。
しかも僕を探していたような口ぶりからすると、
「何か用ですか?」
「「「「本当に痩せてる!」」」」
5人のうち4人は、痩せた状態の僕を見物に来たらしい。
「あの時は、本当にありがとうございました! お礼が遅れて申し訳ありません!」
ユーリィ君は深々と頭を下げ、お礼を言ってきた。
「暫く依頼にでてたからね。気にしなくていいよ。それにあの状況ならああしないといけなかったしね」
そういえばユーリィ君にはプライベートアドレスを教えてなかったっけ。
それにしてもユーリィ君は変わったなあ。
いきなり殴りかかって来た頃とは別人だよ。
やっぱりお姉さんのことと、ゼイストール氏のケアが原因なのかな?
そんなことを考えていると、
「たしか、その時の仕事仲間を逃がすために、第7艦隊……いまは鬼神艦隊ですね。の、赤いビームの戦闘艇と戦ったんですよね?!」
ディロパーズ嬢が目をキラキラさせながら、ゲルヒルデさんとの戦闘の事を尋ねてくる。
「幸い、赤いビームは威嚇に一発だけで、あとは格闘戦でやられました」
「貴方に勝てるということは、相手は相当の手練ね……」
アルプテト嬢は物凄い真剣な表情を浮かべて、それ以上は何もいわなくなった。
因みにロスヴァイゼさんは僕の画像を撮りまくり、ランベルト君はため息をついていた。
そのあと、今日は仕事終わりで帰りたいからと伝え、後日集まろうという話になり、その場は解散した。
しかし、ギルドから出てしばらくしたころ、ロスヴァイゼさんから電話があった。
「まだ何かありましたか?」
『キャプテンウーゾス。貴方、ゲルヒルデ姉様と戦ってよく生きてたわね』
「しっかり撃墜されて怪我まで負わされました。そこをグリムゲルデさんに助けてもらいました」
『グリム姉様に会ったの?!』
「ええ。救助をしてくれて、怪我を治して貰って、おまけで痩せさせられました」
『たしかに、貴方ならグリム姉様に気に入られるわね。それにしても、起きてるなら連絡くれればいいのに……』
ロスヴァイゼさんの様子から見ると、グリムゲルデさん=グレイシア・キュリースさんとは仲がいいらしい。
『お会いした時には改めてお礼を言ってたとお願いします』
そういって、グリムゲルデさんの偽名と店の名前を教えておいた。
そうして電話を終えると、僕はいつも通り『アニメンバー』に向かった。
☆ ☆ ☆
【サイド∶シュネーラ・フロス】
いま現在、私は仕事に追われていた。
「やっぱり民間からは集まりが悪いな」
私の直接の上司である、中央艦隊討伐部隊総司令官兼第1艦隊司令官、ジャック・バルドー・ブレスキン帝国軍大将閣下は、デスクの上にある、ほぼ空のボックスを眺めてため息をつく。
「軍内部からはめちゃくちゃ来てるっすよ」
フラックス・エイルード少尉が、新たなボックスを持ってきて閣下のデスクの横に積み上げる。
先だって、第7艦隊再構成のために人員を募集したところ、民間からはイメージの悪化からほとんど応募はなく、逆に軍内部からは凄まじい数の応募があった。
「ほとんどが貴族出身者ですか……」
私は書類を眺めながら思わずつぶやいた。
別に貴族出身が悪い訳では無い。
私も閣下も、エイルード少尉も貴族出身だし、真面目で優秀なものも数多くいるからだ。
問題は、貴族の応募者の大半が真面目とは縁のなさそうな連中ばかりだからだ。
中央艦隊はエリートという風潮があり、実際に優秀なものが多いが、所属してしまえばそうでなくてもエリートとみなされる。
これにより色々と有利になるため、希望するものは非常に多いのだ。
そのため、書類選考である程度落とすわけだが、この最初の選別作業を第1艦隊が任された訳だ。
この書類選考が終了した後は、中央艦隊討伐部隊司令官の全員で会議・選考をしていくことになっている。
「閣下〜〜他の将軍に手伝ってもらえないんですか?」
エイルード少尉が書類を眺めながら愚痴をこぼす。
「しゃあないだろう。大抵は旧ネキレルマのパトロールか『鬼神艦隊』の捜索。暇そうなのは第8艦隊と第11艦隊だが、ゴルフォックスの爺さんは腰痛めたらしいし、アーリーヘンジの奴は雑誌の取材だとよ。ま、アーリーヘンジの奴は、取材が終わったら手伝いに来るだろ」
閣下は書類を選別しながら、ため息をつく。
「でも……ゴルフォックス閣下は、寝そべったまま書類を見るくらいはできますよね?」
書類選考で落選した書類を片付けていた、ミリシアナ・トーデル少尉のひと言に、私も閣下もエイルード少尉も動きを止めた。
確かに腰が痛いだけなら、寝そべってでも書類は見れるはず!
「エイルード! 場所突き止めて5箱くらい押し付けてこい!」
「了解です!」
閣下のひと言で、エイルード少尉はホバーカートに書類の詰まったボックスを載せ、物凄い勢いで執務室を出ていった。
今ある書類を処理したとしても、明日になればまた書類はくるだろう。
だとしても、今日の分の仕事が減るのはありがたいことだったりする。
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実は色々と苦労を背負い込む第1艦隊……
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