モブNo.220∶「なんかのドラマじゃあるまいし、そんなことがあってたまるかよ」
それから2週間。
僕はゆっくりと休みを取った。
久しぶりに映画を見たり、スパに行ったり。
『アニメンバー』に行ったり、両親と連絡を取ったりした。
両親には、痩せた状態をびっくりされ、違和感が凄いと言われてしまったけれど。
ともかく久しぶりの長い休暇だった。
その休暇の中で大きく変わったのは、やはりただ元の体型に戻るのは良くないと考え、健康的に太るべく、格闘技を教えてくれるジムにいってトレーニングを始め、健康系のジムにいって健康的に太る方法を教えて貰ったりしたことだ。
格闘技はワンツーのパンチとローキック、攻撃のかわし方さばき方、相手の関節を取る方法を中心に教えて貰った。
傭兵ギルドでも、基礎的なことや捕縛術をある程度は習ったけど、一から習うとより染み込んでいく感じがする。
仕事の間はジムには行けないけど、トレーニングは毎日続けるつもりだ。
そして健康的に太るほうは、食事は量はおおくても、栄養のバランスを整えた食事がいいそうなので、メニュー表を作ってもらったりした。
この健康的に体重を増やす方法を『スモー式ビルドアップ』と言うそうだ。
そんなトレーニングを始めていたさなか、バナナピーナッツバターベーコンサンドのオリジナルが食べられる店をダンさんに聞いて、怖いもの見たさで行ってみた。
お店の雰囲気は昔懐かしい感じのレストランで、美味しそうな料理がメニューに並んでいた。
が、最初の目的を達成するべくバナナピーナッツバターベーコンサンドを注文した、
オリジナルは、味は美味しく、なんとか完食はしたものの胸焼けが半端ではなく、二度と食べたくないと思ってしまった。
ちなみにその日はそれ以外なにも食べられなかった。
そして一番驚いたのは、3日に一度は店に食べに来る常連さんが何人もいるという事実だった。
そんな感じでたっぷりの休暇を楽しんでの久々の傭兵ギルドは、なかなか新鮮に感じてしまった。
そしてその2週間の間に、新生第7艦隊の勧誘はかなり縮小していったらしい。
「よう。久しぶりだな。少しは体型も戻ったようだな」
「まあね。健康的に太る方法を教えてもらったんだよ。依頼は何かある?」
ありがたいことに、この2週間の格闘技トレーニングと『スモー式ビルドアップ』で確実に体型がもどりつつあった。
そのおかげか、少しづつ心に余裕が戻ってきている気がしている。
「あるぜ。しかもこのご時世に、いや、このご時世だからだな。貴族同士の戦争だ」
おっちゃんの出してくれた依頼書は、その対立している貴族両方からの、傭兵募集のものだった。
「原因はなんなの?」
「反帝国派のテロリストがいるだろ? お前はそれに与してるだろう! いいやそれはお前だ! てな感じらしい」
双方の依頼書には、どちらも相手が反帝国派テロリストだと主張していた。
とりあえずその日は依頼を受けず、パットソン調剤薬局に情報をもらいに行くことにした。
例の肉屋だけど、流石に新作はなかったので『地の底の生命を擂り潰しモノにて顕現する至福の黄金』と『煮え滾る油泥に溺れたオークの薄皮』を買い、自販機でお茶を買っていった。
「ういっす」
「なんだ。随分体型がもどってきたな」
「お前に『ツインズジム』ってところを紹介してもらったおかげだよ」
僕はカウンターに『地の底の生命を擂り潰しモノにて顕現する至福の黄金』=コロッケと『煮え滾る油泥に溺れたオークの薄皮』=ハムカツとお茶のプラボトル、そして現金の入った袋を置いた。
まずは今回戦争をしようとしている両方の貴族、カスルスカ伯爵とデリュウクス伯爵の詳細をきいた。
ゴンザレスからもらった情報によると、発端はどちらの息子がより優秀かという、親の欲目かららしい。
カスルスカ伯爵は反皇帝派、デリュウクス伯爵は中立らしいが、どちらも反帝国派のテロリストとは関係ないようだ。
つくならデリュウクス伯爵かなとか考えながら、その日は、ゴンザレスと軽くオタ話をした後に家路についた。
そして翌朝。
とんでもないニュースがテレビやネットで報道された。
『貴族同士の勝手な闘争・戦争の禁止』という勅令が発布されたのである。
いままでは、貴族の名誉というやつを考慮して、貴族同士の闘争・戦争は公認されていた。
しかしこの勅令が発布されたことにより、今後貴族同士の闘争・戦争を勝手に行うことができなくなってしまった。
一般の人にとってはありがたいだろうが、僕達傭兵にとっては、『戦闘』の依頼が格段に減っていくことになる。
僕は、今回受けようとしていた依頼がどうなったか気になり、傭兵ギルドに急いだ。
ギルド内部はかなりの人がいたが、そんなに混乱はしていなかった。
その理由として、
「今回の依頼は消滅かなあ?」
「いや。審議終了まで延期になるらしい」
『戦闘』の依頼が無くなる訳では無いからだ。
ローンズのおっちゃんいわく。
審議が終了し、許可がでたなら開始できるらしいがその審議がいつ終わるのかはわからないらしい。
「受けてなくてよかったよ……。海賊退治か警備の依頼はある?」
「ほらよ。代わり映えしない海賊退治の依頼だ」
おっちゃんは海賊の一覧を並べてくれた。
「それにしても、なんで皇帝陛下はそんな勅令を今出したんだろうね? 出すにしてももうちょっと地盤が固まってからのほうがよさそうなのに」
実際、しばらくは人員や物資を旧ネキレルマ星王国=現ネキレルマ地方に投入し、そこが安定してからでも十分なはずだ。
それに、今回はいきなりのことで両方の貴族は動きを止めたみたいだけど、正直、戦争を始めるくらいの貴族が、陛下の命令に従うかどうかも怪しいといえば怪しいのだ。
「噂じゃ、皇配候補筆頭のオリバー・レイミス・オーヴォールス様の提案らしい」
「ええ?! 結婚前なのにそんな権力や影響力があるわけ?」
「さあな。案外公爵が亡くなって、不安になってた陛下に活を入れるために進言したんじゃねえか?」
良くないことなのかも知れないが、皇帝の配偶者が、政治に口を挟むことはあるかも知れない。
口を挟まなかったとしても、皇帝から相談をされ、助言することはあるかも知れない。
しかしどちらも結婚してからのことであり、皇配候補段階で、関わって良いことではないはずだ。
「テレビや動画をみる限り、皇帝陛下が操られてる感じはしなかったから、相談して決めたのかなあ?」
「なんかのドラマじゃあるまいし、そんなことがあってたまるかよ」
ローンズのおっちゃんは軽く笑い飛ばす。
勅令を宣言している皇帝陛下の様子は、動画ですでに百万回再生を突破している。
宣言する陛下の様子におかしなところはなく、相変わらずの美貌を誇っている。
まあ皆の関心は勅令の内容だけじゃなくて、スーツ姿でのタイトスカートからでるお御足とか、スーツの上からでも分かる立派なものなんかにも向かっているんだろう。
バレたら捕まりそうだけどね。
ともかく、僕は今回はその戦闘の依頼は受けないことにした。
これしかないなら仕方ないけど、他にも依頼があるならそっちを受けたほうが時間が無駄にならなくていい。
完全復活はまでもう少し
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