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【終わりの時】


 船に揺られていると、気絶していたマリーが目を覚ました。


「ここは……私は、そうだ……生きて……!」


 マリーは俺の方を睨むと、そのまま殴りかかってきた。今となっては弱々しい彼女の拳を俺はあえて避けずに頬にくらった。

 

「シオン、なんで私を殺さないのよ!」


 彼女は少し涙目になっている。だから俺は、淡々と事実のみを返す。


「俺がお前を殺せないからだ。俺のわがままさ。悪いな、マリー」

「そんな、なら自分で……け、剣を刺せない!?」


 マリーは剣を抜き自らに刺そうとしたようだが、腕を震わせるのみで動かせていなかった。


精神支配マインドだ。圧倒的な力の差があれば1つ命令を与えられる。お前への命令は『死ぬな』だ」

「わけわかんないよ……なんで私にそこまで!」

「そうですよご主人様ー、そんな死にたがりの女死なせてあげればいいじゃないですかー。なんならレイが殺してあげましょうか?」


 いつの間にやら隣に立っていたレイが、マリーを覗き込んでそう言った。


「駄目だ」

「ちぇっ、また敵が増えました……」


 レイはそう言うと、興味がなくなったのか船内の部屋へと戻っていった。

 俺はマリーの方に向き直る。潮風で俺たちの髪がなびいていた。


「俺をずっと恨んでくれてもいい。ただ、死なないでくれ」

「……意味わかんないよ」


 マリーはそう言って、甲板の隅の方に行くと静かに海を見つめ始めた。


「私は生きたくない。けど……いいよ、そこまで言うなら、事の結末までは見届ける」


 彼女は俺の方を見ずにただただそう言った。


「ありがとう」


 だから俺も、それだけ言って何も言わずに部屋へと戻った。ちなみに俺が部屋に戻るのと入れ違いで、アポロンがマリーの元へとパタパタ飛んで行った。何かアポロンの琴線に触れたのかな。まぁいいか。


 数日間、長いこと船に揺られて俺たちは遂にガラム大陸へと到着した。港に着いて俺たちは馬車に乗り、アヴァロン国へと向かった。国に近づくにつれて、異様な雰囲気が漂う。どこか閉塞感がある。

 俺たちは都へと向かい、そして自分の家でもある城の姿が見えてきた。


「なんだか、随分久しぶりに見た気分だ」

「私もです。ひどく懐かしい……」

「レイ達は帰ってきたんですね」

「……ここがシオン達の……故郷」

「くぇっ」


 俺はそのまま城の方へと歩き出した。門兵が俺たちを止めようとしたが、俺の顔を見て驚く。


「ロ、ロキ様!? いったい今までどこへ!!」

「開けてくれ」

「は、はっ、只今!」


 門を開けてもらい、俺たちは中へ入る。城に入るとみんなが驚いた顔をして俺を見つめた。「どこへいってなさった」「城は大騒ぎでした」などと言っている。声は広がり、城中が騒ぎになり始めていた。そして、二階に続く階段から急ぎ足で降りてくる男の姿があった。兄さんだった。後ろにはロルフとダマルティもいる。


「ロキ!? お前いったい今までどこに――」

「――兄さん」


 兄さんと目があった。俺の真剣な眼差しに兄さんも何かを察したようだ。


「兄さん、話さなきゃならない事がある」


 そう言って、俺たちは兄さんの部屋へと向かい、兄さんとロルフとダマルティの3人だけに真実を話した。過去でも一回話してるから中々スムーズに言えた。


「し、信じられませぬ……」

「まさか、いや……しかし最近の王はどこか以前と違っていた」

 

 ロルフとダマルティは、どちらも驚きを隠せていない。


「俺は既に闇ギルドを全員倒した。これなら兄さん達はやられない。残るは、シャドウだけだ」

「わかった、ロキ。僕はお前の話を信じる」

「兄さん、ありがとう」

「父さんは、いやシャドウは玉座の間にいる。やるなら、エデンを解放しきれていない今しかない」

「ああ、だから今だ。今やるしかない」


 俺たちは目を合わし、そして同時に頷いた。


「ソラとレイもよくここまでロキについてきてくれたね」

「いえ、私は当然の事をしたまでです」

「レイは勿論いついかなる時もご主人様と共にいますから」


 ソラとレイが兄さんにお辞儀をしてそう言った。そんな2人を、兄さんは温かい目で見ていた。


「……大きくなったね2人とも。ロキには、他にも仲間が増えたみたいだし……君は、ドラゴン?」

「くえっ」

「ふふ、そうか。よく今までロキについてきてくれた。みんな、聞いてくれ。今から向かうのは……言ってしまえば勝てるかわからない相手だ。だからお互い、ここで……言いたい事は言っておこう」


 兄さんは、そう言うと俺の方を見て、静かに語り始める。


「僕は、お前をこういったことに巻き込みたくはなかった。でもお前は、恐らく僕の知らない時間を何回も過ごし、そしてここまで来たんだろう。だから僕はもうお前を守ろうとは思わない。ロキ、お前は1人の男して、僕と一緒に戦ってくれ」

「……兄さん、俺にとって兄さんはいつも憧れだった。強くて、頼り甲斐があって、無敵の兄さん。そんな兄さんに追いつきたくて、俺は頑張ってきた。兄さん、戦おう。だから死なないでくれよ」

「ロキ、僕は死なないぞ。死ぬわけないじゃないか」

「ん? なんで?」

「お兄ちゃんだからさ」


 兄さんは笑いながらそう言うと、部屋の外に出て行った。部屋の外で待機していたシーラさんの元へと向かったのだろう。

 すると、ロルフが近づいてきた。


「坊っちゃま、大きゅうなられましたなぁ」

「ロルフは少し、老けたね」

「何を言いますか。私はまだまだ元気ですぞ。坊っちゃま、私からあなたに言う言葉は、たった1つです――ご武運を」

「ありがとう、ロルフ。俺にとってロルフは、もう1人の父さんだったよ」

「坊っちゃま……老人は涙腺が緩んでいるのですから労ってくだされ」


 ロルフが涙ぐみながらそう言って、俺たちは同時に笑いあった。少ししてロルフが下がり、ダマルティがやってくる。


「坊っちゃま。私にはわかります。強くなりました。随分と、険しい道のりを歩いてきたのですね」

「ダマルティ」

「正直に言うと、初めてあった時、私は坊っちゃまの才能に嫉妬しておりました。私は分家の身、だからこそあなたのその類稀なる才能をとても妬んだ。ですが、坊っちゃまは努力を怠らず、研鑽しどんどん強くなっていきました。眩しかった。眩しくて、そして憧れました。坊っちゃま……光を掴みましょう。この手で」

「俺がここまで強くなれたのは、ダマルティの剣術指導のおかげだよ。何せ、記憶がなくなっても、体が覚えてたからね」

「それは指導の冥利に尽きますね」



 ダマルティがそう言って、俺たちは同時に笑った。彼が満足そうに下がっていくと、今度はマリーがやってきた。


「私は何も言わないよ。ただ世界の行く末を見せてもらう。それだけ」

「わかってる。ありがとう」

「ふん……」


 彼女はそういうと、離れていった。何故かマリーの肩に乗っていたアポロンが俺の元へとパタパタと飛んでくる。


「くえっ!」

「ああ。アポロン、最後の時だ。今度はお前を一人ぼっちにはさせないさ」

「くえっ、くえっ」


 俺がそういうと、アポロンは満足そうにマリーの肩へと戻っていった。


「ご主人様」

「レイ」


 レイがやってきた。その表情は不安そうだ。


「ご主人様は、レイにとっての世界、全てです。レイは、ご主人様の為なら死ねます。でもレイは、ご主人様のいない世界なんて耐えられません。だから生きてください。生きて、レイと一緒にいてください。レイの最初で最後のお願いです」

「わかってる。俺は死なない。世界を変えて、みんなで生きよう。レイ、お前を救った事は、俺の人生では大きな意味を持ってる」


 あの時の事は俺の心にいつでも残っている。俺は、少しは成長できたのだろうか。わからない。わからないけど前に進んできた。


「だからレイ、俺についてきてくれ」

「はい。レイは、いつもご主人様と共に」


 レイはそういうと、片膝をついて頭を下げた。そしてレイは、立ち上がると俺から少し離れる。

 マルロが、俺の方へと歩いてきた。


「……シオン」

「マルロ。俺のことをそう呼ぶのも、お前だけになっちゃったな」

「特別感出て……いい……」

「そっか。マルロ、ここまでありがとうな」

「……私の選択は、間違ってなかった……シオン、あなたは……世界を変える鍵……私に、その先を……見せて?」

「ああ、きっと見せてやる!」

「なら……満足」


 マルロは、珍しく朗らかな笑顔を見せた。そして彼女が離れると、ソラがやってきた。


「ロキ……遂にここまできたんですね」

「ああ。長かった」

「何回も、繰り返したような気がします。そう、記憶の底に沈んでいるかもしれませんが……おそらく私たちはここにたどり着くまでに、何回も何回も……」


 ソラが胸に手を当ててそう言った。そうだ、俺も感じていた。記憶に残っているのは二回時空を超えてやり直したこと。

 けれど……もっと深い、奥底に、幾千もの世界が眠っているのを感じてる。


「ソラ、ここで終わらせよう。束なった想いが、今この時に重なってるんだ」

「はい。世界を変えましょう。私たちの手で」

「行こう」


 俺はそう言った。兄さんも、シーラさんとの話を終えたようで部屋に戻ってきた。ロルフとシーラさんは部屋に残ってもらうことになった。


 俺たちは、そのまま部屋を出て、玉座の間へと向かった。そこには、小さい頃から見てきた父親の姿があった。

 彼は、俺たちを見ると、座ったままゆっくりと口を開け、


「よくぞここまで来た。時に導かれし者よ」


 そう言って、立ち上がったのだった。

 世界変革の時が近づいていた。

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