【強さの果てのその先へ】
ローブをはためかせて、表情を隠しこちらを見つめる男。彼は顔に包帯を巻いて顔を隠していた。彼は過去で見た覚えがあった。そう、奴こそが闇ギルドの最後の1人だ。
「期待してたんだがな、ロズモンドには」
「あんた、闇ギルドだな」
「ああ、そうだ。驚いたか?」
「驚いた? 何にだ」
「あぁ、お前まだ気づいてないのか」
そう言って、彼は包帯を取り始めた。確かにどこかで聞いた声だとは思っていた。だが顔を見るまでわからなかった。
包帯を取りきって、フードをおろした彼の顔は俺のよく見知った顔だった。白い髪を後ろで束ねた若い男。
「エ、エドガーさん……?」
「そうだよ、シオン。いや……ロキって呼んだ方がいいか?」
「な、何故あなたが……闇ギルドなんて」
「俺お前に昔会った時言わなかったか? 俺はどっちかってーと、裏ルートで活躍してるって。俺は元から闇側なんだよ」
その話を聞いたのってかなり昔、というか俺の事もロキって。
「あ、あんた、俺が誰だか知ってたのか?」
「いや、最近まで忘れてたよ。けどこの前ガラム行った時に思い出してな。そういえばちっちゃいガキがいたなと」
「あんたも、エデンを復活させるために闇ギルドに?」
そう尋ねると、彼は唸った後に頭をかいてこう言った。
「俺ぁあんまり深い事は考えてねーんだ。それこそ俺が求めてたのは“強さ”。ただそれだけだ。俺は究極の強さを求めたんだ。刀鍛冶してたのも、自分の力に見合ったものを自分で作りあげるためだ」
「じゃあ何故闇ギルドに!」
「俺は、強さを求め、敵と戦っている時に腕を壊した。もう治らねえとも思ったが、エデンエネルギーを使い徐々に回復させて、遂に治ったのさ。闇ギルドとはただそれだけの関係」
確かにエドガーさんは腕を怪我していた。それに只者じゃ無い雰囲気は出していた。
「目的を達成して、あんたは今何を求めてるんだ」
「決まってる。力を得ても使わなきゃわからないだろう。闇ギルドなら暴れることができるってわけさ……強い奴とな」
「やめる気は無いんですか」
「何故やめる必要がある。お前もわかるだろう。強さへの渇望が。果てなき渇望だ。俺はそこに終点などないと思っている。“強さの果て”だ」
エドガーさんは俺に向かって笑いながらそう言った。
「なら何故俺の剣を打ったりしたんですか」
「お前に期待したからだ。将来俺といい勝負が出来そうな男だとな。そしてお前は……その通りの男になった」
「俺と戦うことがあなたの目的ですか」
「そういうことだ。ロキ、お前の力は既にこの世界でも最上位だ。お前の兄貴と同じでな。俺はお前と戦って勝つ事で、さらなる強さを手に入れる。俺と戦え、ロキ=アヴァロン」
エドガーさんは真剣な眼差しでそう言ってきた。どうやら本気らしい。なら俺も、こいつは倒す相手だと覚悟を決めなければならない。
「マルロは下がっててくれ。ソラ達と一緒に固まってて欲しい」
「……わかった」
マルロは試合場から離れてくれた。俺は剣を構える。
「戦う気になってくれたか。嬉しいよ」
「あんたが闇ギルドなら、どちらにせよ倒さなきゃいけない相手だ。あんたを倒して、闇ギルドは終わらせる。世界を変えてみせる」
エドガーは、腰にある白い鞘から白い柄の剣を抜いた。流れるような美しさを持つ剣だった。
「美しいだろ? これが俺の究極の剣、『月光』だ。こいつを作り出すまでに途方も無い年月をかけた。最初俺はこいつを使いこなす事が出来なかったが……訪問者とやらの力も得て、遂に俺は使いこなせるようになった」
「借り物の力を得て、強さの果てとやらを目指すなんて、恥ずかしくないのか?」
「ふっ、過程なんかどうだっていい。俺は結果が見たいんだ。強さのその先をな。行くぞ、ロキ!」
エドガーは俺に斬りかかってきた。俺はそれを剣で受ける。当たり前だが剣の大きさ的に手数では向こうの方が多い。なので俺は、奴の攻撃を最小限の動きで避けつつ、一発を当てにいった。だが奴も俺の攻撃を避ける。
「発動! 加速支配!」
「発動、雷鳴」
俺の加速した剣戟を、奴は雷を帯びた剣で弾いていく。雷属性を付与した上に、自身の身体能力を電気信号をいじる事で上げてやがる。
「発動、重力支配」
「発動、落雷」
俺が引力を発生させようとすると、奴は俺の頭上に雷を落とそうとしてきた。コロシアムのひらけた天井の曇り空から雷が轟く。
「ちぃ!」
俺はとっさにその場から離れると、俺がいた場所には見事に雷が落ちた。まばゆい光の後に、轟音が鳴り響く。地面は赤く熱を持っていた。
「発動、部分支配」
俺は足に力を貯めるとすぐに体勢を整えて、再び奴に斬りかかった。
「速攻か。ちっ、強いな! ロキよ!」
「ごちゃごちゃ、うるせぇ!」
「圧倒的な力、お前はその先に何を見る! その力を持って何を成し得る!?」
「俺は、助けたい人を、守りたいものを守るだけだ!」
「面白い、お前の望む、強さの果てを俺に見せてみろ!」
そこから先は血みどろの戦いだった。相手の隙を見つけ、斬っては斬られ、スキルを使い攻撃をし、防御をして、回復をする。そんな事を繰り返しているうちに2人とも息が上がっていた。
「はっ、はっ、はっ……」
「はぁ、はぁ……いい、いいぞ! ロキ! これは俺が求めてた究極の戦いに近い! 互角の実力、生死の狭間、一瞬の判断。これが戦いだ! この先に俺の求めた強さがある!」
「はぁ、はぁ……んなもん、ねーよ……」
「なに……?」
「俺が勝とうが、あんたが勝とうが、強さの果てなんて見つけられやしねーさ……」
「馬鹿を言え! もう少しで掴めるはずだ! 俺の求めた強さを! お前を倒してなぁぁあ!!」
奴が再び斬りかかってくる。俺は火炎支配を放ち、奴の目くらましをしようとするが、奴はそれを雷でかき消した。俺はそのまま大剣を横に一閃薙ぎ払う。すると奴は剣を飛び越え、俺に斬りかかろうとしてきた。
俺は剣を手放し、エドガーの攻撃をギリギリで避けると、あらかじめチャージしていた左の拳で奴の腹を撃ち抜いた。
「ぉあっ」
「はっ……はっ……はっ」
奴は起き上がろうとするが、吐血し、その場に膝をつく。俺も疲労で足が震えていた。だが俺はそのまま奴の前へと進み、首元に剣を突きつける。
「ぐっ……くそ。ここまでとは。俺は、ロキ……お前の噂を闇ギルドで聞いた時から気にはなっていた」
「なんの……話だ」
「ビーを倒した人物の噂さ。俺はあの時、奴のアジトに潜入し、石版を回収した……その時、一瞬だったがお前の顔を見た。どこかで見覚えがあった気がした。だから俺はお前のことを気になっていた」
エドガーは口から血を垂らしつつそう話す。
「腕を怪我して療養していた俺は、お前がマルロと知り合いになったのを知って、ギルドに依頼書を出した。そしたらお前らは案の定食いついてくれた。俺はお前と対面することに成功したんだ。そして俺は、お前の力を測るため、到底倒せないケルベロスを討伐させることに決めた。そこで俺が見たお前の実力は、想定を遥かに超えるものだった。俺はお前に剣を作ることに決めた」
そう言って、彼は俺の大剣を指差した。
「その後の活躍は俺も噂で聞いてたさ。お前は想像通り、強くなった」
「何が言いたいんだ」
「お前の勝ちだよ……ロキ。俺は負けだ、俺はまた勝てなかった……」
「また……?」
「お前と数年前にあった後、俺はシャドウに戦いを挑んだ。俺は腕に自信があった。だが負けた。腕はその時に壊したんだ。俺はシャドウに負けて、奴の扱うエデンエネルギーで腕を治して貰ったのさ。情けねぇ話だ。俺はお前に勝って、再びシャドウに挑むつもりだった。だが……俺は負けた」
「それでいいのか。強さの果てとやらはどうした」
俺がそう尋ねると、エドガーは血まみれの口で笑みを浮かべる。
「強さの果て。それはもう手に入れたさ。お前との戦い。刹那のやり取り。あれこそ俺の人生の全て。月光も、ほら満足だってよ」
彼がそういうと、彼のもっていた美しい剣はヒビが割れ、粉々に砕けた。
「アナザーなんて野郎に体を明け渡す気はねぇ。ロキ、頼んだぜ」
「ああ……」
俺は剣を彼の体に突き刺した。
「あーあ、やっぱり面白えな、戦いって」
彼は最期にそう言って、事切れたのだった。
「終わった……」
少しして、ソラたちが俺のそばに寄ってきた。
「終わったんですね」
「ああ。これで闇ギルドは全員倒した。残るのは……シャドウだけだ」
「じゃあ遂に、ガラム大陸へ?」
「そうだ、向かおう。全てを終わらせに」
俺たちは、街から出て船着場へと向かった。そしてガラム大陸行きへの船へと乗り込む。これで全てが終わる。最期の時だ。




