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【リセット】


 私ゼーレ=ティターニアは齢20にして天才だと持て囃された。スキルについての研究が評価されたのだ。パンシア大陸に留学し、最先端の技術にも触れ、研究をさらに発展させていこうと思っていた。


 私の研究意欲には理由などなかった。強いて言えば、ただ真実が知りたかっただけ。スキルというものがどこからきてどのような歴史を持っているのか。そしてどこまで進化することができるのか。果てのない研究に私は胸が踊った。


 そんな私にも研究以外に没頭できるものができた。好きな人ができたのだ。彼は優しい人だった。とても優しく、賢く、まさに私の理想の人だった。そんな彼と結ばれるのはそんなに遠い話ではなかった。


 そして私は彼との間に子供をもうけた。可愛い子だった。目に入れても痛くないとはまさにこの事だったのだ。子どもはすくすくと育った。私は嬉しかった。たとえ研究があまり進んでいなくとも、子さえ元気に育ってくれていればよかったのだ。


 だが、その幸せは永くは続かなかった。不幸な事故だった。夫と子どもが2人で出かけている時に起きた事件に彼らは巻き込まれた。夫は子供を守るようにして亡くなったと聞いたが、子どもも亡くなってしまった。


 私は恨んだ。事件を起こした人物も、その場にいなかった私自身も、そして今、何もできない私の能力を。


 私はそれから研究に没頭した。死を覆すスキルを生み出そうと考えたのだ。何十年も研究を進めていくうちに、スキルとは遥か昔に栄えた【魔法】と呼ばれるものの名残だということがわかった。私は魔法についての研究を進め、そして遂に蘇生の魔法へとたどり着いた。研究の辿り着くまでに若返りの魔法も使いこなすことができ、私は自身にそれをかけた。


 蘇生魔法。それは禁忌だった。そしてその禁忌を達成するには、途方も無いエネルギーが必要だった。エネルギーが必要だが現代にそんなエネルギーがあるとは思えなかった。だが研究をしていくうちに、とてつもないエネルギーを持つ伝説の魔物がいることを知った。


 それが、エデン。エデンは星に寄生しその星を喰らい生きながらえる化け物。だがそれ故に力は絶大で、エデンから手に入れたエネルギーはこの星の資源の何倍もの価値があると知った。そしてガラム大陸にエデンが眠っていることがわかった。


 私はエデンとの接触を試みたが、その時は既にアヴァロン国と呼ばれる国がエデンの力を牛耳っていた。私はシャドウと呼ばれる男と接触した。そして彼と話をする事で、私は闇ギルドとなり、訪問者アナザーを受け入れることを条件として研究をすることを許された。


 研究を推し進めていると、禁忌と呼ばれる魔法を使うためには現在の人間が持つ魔力では制御できないことが判明した。それこそ伝説となっているギルガメッシュ級の力がないと到底なし得ないというのだ。


 私は、スキルというのは、遥か昔に何者かが意図的に魔法からの弱体化を狙って広めたものだったのだ。ギルガメッシュはその例外だ。


 研究をここまで進めていって、蘇生が不可能だと知り、私は絶望した。時の石板の事も知っていたし、過去に戻ってギルガメッシュに会うことも考えたが、その場合はその時代で蘇生させなければならない。死んだ人間は過去に連れていけない。手詰まりだった。

 スキルには限界があったのだ。これこそが世界の真実。私たちは劣化した人間達なのだ。


 だから私はたった1つの希望を見出した。全てをゼロに。『リセット』する。それしかないと思った。


 エデンは復活と同時に大規模な爆発を起こす。そしてその爆発を究極的に高めて意図的に『再構築魔法』を発動させる。蘇生魔法と違い対象を自らで設定しない再構築魔法なら私でも扱える。世界全体を再構築する。世界を一度リセットして新たな世界で私はもう一度――


 ♦︎


「――私たちは旧世界よりも劣った存在。それを越えるため、私はこの世界を原点に還すのよ」

「おいおい、あんたの話を聞いてると無茶苦茶だぜ。世界を再構築した後に再び同じ世界になる保証なんてないだろ」

「……シオンの言う通り。馬鹿げている……何故そこまで焦っている……世界を創造するなど……」

「あなた達にはわからないわ。それに私には時間がないの……」


 ゼーレは、おもむろに口に手を当てた。すると彼女は吐血していた。


「身体は若くしても中身がもう保たない。世界を壊し、作り直すの。そこにはきっと、私とあの人、そしてあの子が幸せに暮らす世界が待ってるはずなの……!」


 彼女は、血を吐きながらも力強い目で俺に訴えかけていた。


「……狂気に、取り憑かれている……ゼーレ、あなたは……ただ救いたかっただけのはずなのに……」


 マルロは彼女を寂しげな表情で見ていた。


「くく、退屈な話は終わりかい。僕はあいつを殺したくてうずうずしてたよ。誰かのためとか、自分のためとか、くだらないな。死ねばみんな同じなのにね」


 ロズモンドは身体を震わせてそう言った。


「ロズモンド……あなたのスキルもギルガメッシュと同じよ。人の理を超えた、旧世界の遺物。魔法の残滓。さぁ、あなたを壊して、この世界の破壊の一歩としましょう!」

「やってみろ!」


 再び2人はぶつかり合った。やはりロズモンドが劣勢なのは変わりない。俺もゼーレの隙を狙って攻撃を仕掛けるが、うまく避けられてしまう。

 そして、ゼーレの氷の刃が、ロズモンドの心臓を貫いた。


「ごほっ」

「終わりよ」


 ロズモンドはそのまま吐血し、氷の刃に刺さったまま宙ぶらりんになるが、彼は不敵に笑った。


「発動……道化は踊る(クレイジーピエロ)

「えっ、ごぼっ……こ、こんなまさか……」


 ゼーレもロズモンド同様に吐血した。俺は一度食らったからわかる。あれは自分にダメージが反射してるんだ。


「き、君のダメージは君に還る。く、くくく。最高だよ、その悔しそうな顔……」

「ちっ……あ、侮っていたわ。これが特異スキル……確かに私の負けのようね……けれど、あなたも死ぬわ」

「何を、僕には……こいつがある。発動、戦闘狂想曲バトルコンチェルト……!?」


 ロズモンドはスキルを発動させようとしたが、身体は再生しなかった。一体これは……。


「私の氷にはあなたの体内から、スキルを無効化する術式を施したわ。体内再構築のスキルだからこそできる芸当だけどね……」

「ま、まさか……こんな事で僕は死ぬのか!? い、嫌だ……まだ死にたくない! 僕はまだ最高の殺しができてないんだ!」

「く、くく、まるで子供ね。結局あなたも死ぬ事は怖いのね。ゆっくりと休みなさい……」

「嘘だ……うそ、だ……」


 ロズモンドは、声を発しなくなり、そして事切れた。あっけない幕切れだ。世を騒がした殺人鬼だから、同情なんてこれっぽっちもわかないが。

 俺はゼーレの方に目線を向けた。


「ふふ……何その同情的な目は」

「あんた……アナザーに取り憑かれて、自分がわからなくなっちまったんだろ。話を聞いてても、世界を壊したい理由が、子どもを生き返らせるためなのか、旧世界とやらの人間を越えるためなのか、しっちゃかめっちゃかだ。あんた……何がしたかったんだ」

「……わからないわよ……自分が、わからない……私はゼーレなのかアナザーなのか。今話しているのは自分の意思なのか……もう何もわからない。私は……この世界を壊したかった……」


 ゼーレは自嘲気味に笑ってそう言った。


「そうかよ……」

「ただ……今はただ、あの世があるなら……2人にもう一度会えるのが、嬉しい……」


 そう言って、彼女は目を閉じた。


「彼女は……母親としての自分と、研究者としての自分……それが曖昧になっていたんだと思う……そしてその自己嫌悪に苛まれていたんだろう……私は、少しだけ気持ちがわかる」


 マルロはポツリとそう呟いた。あれは無言で彼女の頭に手を置く。

 ふとあたりを見渡すと、いつのまにかコロシアムの会場には人がいなくなっていた。驚いて逃げてしまったようだ。


 さて、意外なところで闇ギルドと戦ってしまった。けどこれで残す幹部はあと1人だけだ。あのフードを被ったローブを着たやつ。あいつだけのはず。

 あいつを倒せば、終わりが近づく。あいつはいったいどこに――


「――存外伝説のスキル持ちの殺人鬼も大した事はなかったか」


 決して大きくはないのに、コロシアムに響き渡る声がした。そして、どこかで聞いた覚えのある声。俺は声のする方向へと振り返る。するとそこには、フードを被った男がいた。

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