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【魔女】


 マリーの精神が明らかに不安定になっていたので俺は彼女の首元に手刀をいれて気絶させた。

 すると一連の流れを見ていたギルガメッシュが神妙な面持ちで俺を見る。


「優しそうな顔をして、やる事は随分と鬼畜だな……俺だったら殺してやった」

「俺は誰も殺したくなんかないんだ」

「ふん、お前が一番の悪党だな」


 ギルガメッシュはそう言って馬鹿にしたように笑う。


「わかってる。悪党なら悪党として、世界を変えてみせるさ……」

「どうやら餓鬼ではなくなったようだな。ちょうどいい、お仲間さんも来たようだしな」

「ロキーッ」


 ソラたちがやってきた。よくここがわかったな。


「何か矢印のようなものが道に現れて」

「俺がスキルでやってやったものだ。それがあれば迷うまい」


 ギルガメッシュはなんでもありだな。相変わらず桁違いなやつだ。


「それよりもご主人様……何故その女は寝てるのです?」


 レイが横たわるマリーを指差してそう言った。


「ああ、ちょっとあってね。けどもう安心してくれ。彼女は敵じゃない」

「……闇ギルドなのに……大丈夫なの……?」


 そうマルロがきいてきたが俺は頷いて肯定した。


「平気だ。俺を信じてくれ」

「……なら、いい」

「それより、ギルガメッシュの話だとやはりエデンは物理的に倒す事は出来ないらしい。封印しかない。だから封印を解かれない為にも神の福音(ゴスペル)を狙ってくる闇ギルドを倒すのが一番の正攻法だ」


 封印を解かれた瞬間に世界は終わる。かといって闇ギルドを放って逃げ回っているとガラム大陸が世界中に戦争を仕掛け始めてしまう。つまり闇ギルドを、シャドウを叩くしかない。


「倒す手立てはあるのか?」


 ギルガメッシュはそうきいてくる。


「おそらく闇ギルド相手ならなんとか倒せる。問題はシャドウだな」

「俺はそいつを見たことがないから知らないが……恐らくエデンの力を借りているはずだ。かなり強敵だが、お前らの力を合わせれば勝てる可能性はある」

「わかった。なんとか頑張ってみる。じゃあ現代に戻ろうと思うんだが……どうやって戻ろう」


 帰る手段を考えてなかった。


「石版を探せばあるだろうが、まぁ仕方ない。助けて貰った礼に、俺が送り届けてやる」

「は? そんなことできるのか?」

「ふん、かなり力を使うがな。いくぞ、準備はいいか?」

「あ、ああ」


 俺は気絶しているマリーを抱きかかえて、そう答えた。ギルガメッシュは俺たちをなるべく近づけさせると、詠唱を唱えた。


「発動、亜空間共感ディメンションコネクト


 彼がスキルを発動させると、俺たちの周りに透明な光の柱が現れた。そしてそれは空間を捻じ曲げていき、時間を跳躍するときのあの独特の雰囲気が漂っている。

 す、凄い。本当にひとりでそんなことができるなんて。


「おい、ロキ」


 ギルガメッシュが俺を呼んだ。


「なんだ?」

「改めて言うぞ。今度はちゃんとやれよ。『世界を、変えろ』」

「ああ」

「あと、その子供の龍、大切に育てろよ。凄いものになる」


 アポロンを指差してそう言った。だから俺は笑みを浮かべて肩に乗ってるアポロンの頭を撫でながら、


「それは知ってる」


 そう言った。

 俺がそう言ったのを最後に、俺たちは時間を跳んだ。次に意識が戻った時には、俺たちは見知った土地に飛ばされていた。そう、俺たちはここに一度来たことがある。


「ここは、ミラボレア王国か」

「コロシアムがあった場所ですね」


 まさかまたこの国に来るとは思っていなかったけど、一刻も早く闇ギルドを潰さないといけないからな。ここで情報を集めていくか。


 話を聞こうと街を歩くと、何やら今日はコロシアムで凄い試合が行われているようだ。そのため人が少ない。


 実はロズモンドとの死闘もあって、あまりコロシアムは好きじゃないが、何か手がかりがあるかもしれないので向かってみることにした。

 コロシアムに近づくと、怒号に近い歓声が会場から響いてくる。俺たちは入場料を払い、観客席の前の方へ向かったが、そこで見たのは驚くべき光景だった。


「はぁ、はぁ、はぁ……くそっ……!」

「ふふ、いいわぁ。あなた、中々強いじゃない」


 そこにはなんと、ロズモンドがいた。ロズモンドと黒い服の女が戦っている。

 なんで? あいつは死んだはずじゃ。そう思って隣にいた人に尋ねてみると、どうやら奴は何かの力を使って生き返ったようだ。その後俺のような相手と戦える事を期待してコロシアムで戦い続けているらしい。不死身だとは思っていたがここまでとは。


「にしてもあの姉ちゃんは凄えぜ。負けなしのロズモンドをあそこまで追い込んでるんだからな」


 隣の人はそう続ける。確かにロズモンドは身体中から血を流し、かなり劣勢のようだ。


 戦っている相手の方は、露出の高い黒いドレスを見にまとった女だ。よく見ると、どこかで見た事がある気がする。


「ロキ。あの相手の女性、闇ギルドの1人ですよ。過去に城でアヴィ様達に倒されていました」


 ソラがそう言ってきて、思い出した。そうか、確かにあの時にいた。しかしなんでこんなところに闇ギルドが。ロズモンドに加勢するか? いや、まだ様子見するべきか。


「ま、まさか僕相手にここまでやる奴がいるなんてね……君、いったい何者なのかな?」

「闇ギルド、と言ったらあなたはわかるのかしら? まぁけど尋ねたところで意味なんてないわよ。あなたはここで死ぬんだから」

「し、死ぬ? 僕を殺せるものなら、殺してみろっ!」


 2人は再び戦い始めた。ロズモンドの方は以前俺と戦った時には使っていなかった剣を持ち、それを振るっている。対して女の方は特に武器らしきものは見当たらないが、その剣を躱して、手から出現させた氷の刃で攻撃を仕返している。


「明らかにロズモンドよりもあの女の方が強い……!」

「流石闇ギルドと言ったところでしょうか。ご主人様、中々強敵ですよ」

「ああ。闇ギルドは全員強いな……」


 ロズモンドは思った通り苦戦していた。彼の攻撃は当たらず、敵の女の攻撃は彼に当たっている。次々と刻まれていくロズモンド。


「ぐ、ぐぅ……!」

「それにしても、素晴らしい再生力だわ。その力、確かに危険ね」

「き、君は僕の再生力を知ってここまできたのか」

「そうよ。殺しても死なない奴がいる。その噂を聞いて私は駆けつけたの。エデン復活に少しでも支障がありそうな場合、始末しないといけないもの」

「エ、エデン……? い、いったい何を言っている……」

「お話はここまでよ。あなたの弱点が心臓なのはもう見切っているわ。死になさい」


 女の氷の刃がロズモンドを貫こうとしていた。瞬間、俺はおぶっていたマリーを地面におろして剣を背中から抜き、それを女に向かって投げつけた。


「ソラ、マリーのことを見ててくれ!」

「えっ? ちょ、シオン?」


 女はそれに感づき、避けると俺の方を睨みつけた。俺は観客席から飛び出して、闘技場へと躍り出た。

 ロズモンドが驚いた様子で俺を見る。


「シ、シオン? 何故君がここに」

「よぉ、ロズモンド。死にかけてるとやけに人間らしいじゃねーか。ずっと死にかけの方がいいんじゃねーの?」

「あなたは……!」


 女が俺を見て驚きの表情を見せる。


「俺のことを知ってるのか? 闇ギルドなんだろう、あんたは」

「ええ……噂で聞いているわ。ビーを倒したのはあなたなんでしょう。シオン。もしかしてクロードとドルチェをやったのも、あなたかしら?」

「もう情報が回っているのか」


 まぁアルフレッド達は冒険者として名前が知れ渡っていたから広がるのも無理はないが。


「私も殺しにきたのかしら?」

「そうだ。お前は俺が倒す」

「ちょうど良かったわ。私もあなたとはヤリあいたいと思ってたもの。はじめまして、私が闇ギルド『魔女の館』のゼーレよ」


 そう言って俺を見つめてくるゼーレ。読めない奴だ。


「シオン……この人は僕の獲物だ。そして君もね。横取りは許さないよ」

「ボコボコにやられてた奴がよく言うぜ。悪いが今回は俺も引き下がる気は無い」

「じゃあ、僕が先に殺しても文句言わないでねっ!」


 ロズモンドが再び、ゼーレへと斬りかかる。だがやはり攻撃は通じず軽くいなされている。俺は地面に刺さった大剣を抜き取って、女へと斬りかかった。

 奴はそれを氷の剣で受け止める。そこから2対1の剣戟が始まった。


「ちっ、二人掛かりでもきついか!」

「やるわねシオン! クロードたちをやったのも満更嘘でもなさそうだわ!」

「エデンは俺が止める! ここでお前を倒してな!」

「こんな世界を守る価値なんてないわ! 一度全てをリセットするべきなのよ!」


 ゼーレはそう叫ぶ。


「お前にも何か理由があるんだろうが……俺は俺の守りたいものを守らせてもらう! 全力で行くぞ! 加速支配アクセラレーション!」

「ぐっ、急に剣が速く……!」


 手数を増やし、剣でゼーレを追い詰めていく。そしてその隙をついて、ロズモンドの剣が彼女の肩を貫いた。


「ぐぅ!?」

「いい血の色だ! もっと見せてくれよ!」

「調査に、乗るなっ! 発動! 氷の世界!」


 ゼーレがスキルを発動させると、彼女の血が凍って固まり、彼女の触れたもの全てが徐々に凍りはじめた。それはもちろん触れている俺たちの剣もだ。


「あなたたちの時間ごと凍らせてあげるわ」


 ゼーレは俺たちを睨んでそう言った。そして彼女が手から発生した氷の刃を俺たちに投げつけようとした時、その場で爆発が起きた。これは……マルロのスキルだ。


 あたりを見渡すと、いつのまにか観客席から試合場まで降りてきているマルロの姿があった。


「……どこかで見た事がある気はしていた……そして名前で確信した。ゼーレ、あなたは……世界最高の頭脳を持つと言われた賢者ゼーレ=ティターニア……」


 煙が晴れ、ゼーレの姿が見えてくると、彼女はマルロの言葉を聞いて少し笑っていた。


「あら、その名前で呼んでくれる人がいるなんて。博識ねあなた。そうよ、私がゼーレ=ティターニア」

「……やはり……でもおかしい。彼女は40年も前に亡くなっているはず。それなのに何故……あなたは若い。……それに、あなたほどの頭脳を持つ人が闇ギルドなんて……」

「ふふ……スキルの深淵を覗いたのよ私はね。あなたもきっと、真実に辿り着けば世界を壊したくなるわ」

「言っている意味が……わからない」

「いいわ。教えてあげましょう。私の知った真実を」


 ゼーレは、物憂げな瞳で俺たちを見つめると、語りはじめた。

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