【記憶の彼方に】
父さん、いや訪問者の1人シャドウは、俺を見て満足気な顔をした。
「神の福音を持つのは貴様か……」
「お前を止めに来た」
俺がそういうと、シャドウは無表情のまま答える。
「神の力に、抗えると?」
「お前は神じゃない。神の如き力を得たいから封印を解こうとしてる小物だろ?」
「言うじゃないか。流石に時を超えてある程度は成長したようだな」
「何故お前がそれを知ってる」
「我は訪問者でもあり、エデンでもある。時の揺らぎを見つける事など容易い」
「わかっていて、俺を見逃してたとでも言うのか。違うはずだ、お前は……恐れていたんだ、そうだろう?」
俺がそう言うと、初めてシャドウは表情を曇らせた。俺は背中から剣を抜き、構える。
「ここでお前を倒して、世界を変える」
「何人で来ようが、世界など変わらん。さぁ、畏れおののけ、これぞ神の力だ。『火炎支配』」
シャドウが右手を天高く突き上げると、そこには俺の想像をはるかに超える巨大な火の玉が現れた。優に直径10メートルは超えている。天井は崩れ、瓦礫が辺りに散乱する。空からは陽の光が射した。
それはもはや、火の玉などではなく、太陽そのものに見えた。
「燃え尽きよ」
シャドウが放ったフレアが、俺たちへと接近する。
「兄さん!」
「ああ! ダマルティ!」
「わかっています!」
「「「発動! 火炎支配!!」」」
俺たち3人も、同じく火の玉を出現させる。だが奴の放ったそれには遠く及ばない。だが俺たちは、3人で放った火の玉を合体させて、巨大な火の玉に対抗した。
「無駄な足掻きを」
ジリジリと、奴の火炎が俺たちの方へと向かってきている。このままだと俺たちの火の玉は飲み込まれてしまうだろう。何か手はないか。
「発動! 燃える想い!!」
その時、ソラがスキルを放った。そして、その火の大きさに思わず俺は驚く。ソラの放った火の玉は、俺の火の3倍は大きかった。そして俺たちのと合わさることで、奴の放った火炎と同程度まで膨れた。
「ち……!」
そして、火の玉はお互いの力に耐えきれずその場で破裂するように消滅した。衝撃が辺りを襲う。凄まじく吹き荒れる突風で、俺たちは壁に激突した。
「ぐぁっ」
俺は、壁から起き上がると、剣を持ち奴の元へと走っていく。シャドウは、突風に耐えていた。俺が近づくと、奴は腰元から剣を抜いた。
「加速支配」
「加速支配」
同じスキルを同時に使う。
そして剣戟が始まった。俺の攻撃を、奴は上手く剣で逸らして避けると、隙を狙って俺に攻撃を仕掛けてくる。
「くそっ」
「甘い」
「ぐぁっ」
俺が大振りになったところを狙われ、腹に蹴りを加えられた。俺はそのまま吹き飛ぶ。
「坊っちゃま! 次は私が!」
「僕もだ!」
「「加速支配!」」
兄さんとダマルティが、すかさず斬りかかりに行った。流石に、シャドウの野郎父さんの身体を借りているせいか、剣術が上手い。
俺の師匠であるダマルティや兄さんとも引けを取らない。
「援護する……実験失敗」
マルモが試験管を投げた。だがそれは、爆発する前に、シャドウに切り捨てられる。
「邪魔だ。重力支配」
「くぁっ!」
そして、マルモは斥力で吹き飛ばされて壁に激突した。射程範囲が広すぎる。
俺は立ち上がり、再び剣を持ってシャドウの元へと向かった。3対1という状況によって、シャドウの余裕の表情も崩れていく。
「重力支配」
「ちっ」
俺の剣を、ギリギリでかわしたシャドウだったが、兄さんの放った引力で引き寄せられて剣を腹に掠めた。血が滴る。
「くそ、異常支配」
奴の傷口が治っていく。そうか、回復持ちでもあるのか。
「束縛する愛」
「これは!?」
急にシャドウの手足に枷が現れて身動きを取れなくした。レイのスキルだ。
「つぁぁっ!」
「何っ!?」
そして続けてシャドウが回復している隙を狙って、ソラが背後から剣を突き刺した。だが奴は咄嗟に身体をずらして急所を避けた。血が流れ出る。奴は力技でレイの放った枷を引きちぎった。
そして、刺さった剣を掴み、ソラの動きを一瞬封じると、そのまま背後に回し蹴りをした。それはソラに直撃して、吹き飛ぶとそのままレイにぶつかった。
「きゃあっ!」
「異常支配」
「回復させるか!」
奴が剣を抜き取り、再び回復しようとしたので、俺たちは3人でまたシャドウへと斬りかかる。
「邪魔だ! 重力支配!」
「「「ぐぁっ」」」
奴の放った斥力が、俺たち全員を吹き飛ばす。その間にシャドウは回復をし始めた。あいつに時間を与えては駄目だ。畳み掛けるしかない。
俺はすぐに立ち上がってまた斬りかかった。兄さんやダマルティ、他の奴らも同じ考えだったようで、すぐに復帰する。
その後も斬っては斬られを繰り返した。だが圧倒的なシャドウの力と対照的に、徐々に俺たちは疲労が積み重なっていった。
俺たちも同じく回復はできても、疲労は溜まっていく。それに比べて奴は、全く疲れている様子がなかった。これがエデンの無尽蔵なエネルギーなのか?
「どうした……? 疲労が見て取れるな」
シャドウは、余裕の表情で俺たちを見てそう言った。
「次は、耐えきれるか? 火炎支配」
「くそ……」
再び奴の手元には巨大な火の玉が現れた。俺たちにはそれに抗えるだけの体力が残っていなかった。
「「「火炎支配」」」
「燃える想い」
最初と同様に、俺たちは力を合わせて炎を出現させたが、今度は奴の力に敵わずに、俺たちの炎もろとも飲み込まれた。
そのまま炎は、俺たちがいた場所を直撃すると灼熱の炎を辺りに撒き散らかす。
「ははははは! 燃え尽きろ! 時の残滓ども!」
俺たちを灼熱の炎が覆った。かと思ったが……何故か熱くなかった。わけもわからず、辺りを見渡すと、結界が張られていた。そしてその結界を張っていたのは……アポロンとマリーだった。アポロンが俺たち全員を囲うような巨大な結界を出現させ、それをマリーが弱い魔力で支えていた。
「アポロン……っ、マリー!」
俺は思わず声を荒げた。だが結界は長くは続かなかった。結界に亀裂が入る。そして結界は破れてしまった。そして俺たちを灼熱の炎が襲う。
「ははは! 燃えろ燃えろぉ!」
それから少しだけ時間が経った。パチパチと炎で何かが焼ける音が辺りから響く。俺はまだ動ける。
だから俺は、焦げた服のまま立ち上がった。
「ほう……まだ立ち上がれる奴がいたか」
アポロンが結界を張ってくれてだいぶ威力が抑えられた。それに俺の体の周りには謎の透明な膜のようなものができていた。これが炎を和らげてくれたらしい。
辺りを見渡すと、皆が倒れている。死んではないようだが……動けはしないだろう。
「やはり最期に残ったのは貴様というわけだ。ロキ=アヴァロン」
「あんた、強いな……他の訪問者とは格が違う」
「それはそうだ。エデンの力を直接手に入れたのは私のみ。私こそが世界だ。世界に抗う者には死を。当然の摂理だ」
「そうか……世界か。俺さ、実はずっと疑問に思ってきた事があるんだ」
「なんの、話だ……」
そう、俺はずっと考えてた事があった。けど、大したことないと放っておいたことだ。
「記憶を失って、初めて生死をかけた戦いをした時……俺の脳裏にはある声が響いた」
そう、ケルベロスと戦ったあの時だ。
「俺はその声の主がわからなかった。後で、兄さんとの思い出が記憶として蘇った事はあっても、あの時の声は、それとは違う」
そうだ、あの時の声は、俺の記憶にはない声だった。
「その声は、俺に『地獄の裁きと叫べ』とそう言った」
「ニヴル、ヘイムだと……?」
シャドウが表情を曇らせた。
俺は、シャドウの炎に包まれた時、記憶の底に眠るものを思い出した。忘れていた記憶。俺の、いや、もっと『前』の記憶を。
「そうだ。そして俺は……思い出したんだ。ニヴルヘイムは、『忘れられた英雄』がケルベロスを倒した時に使った技だ」
「忘れられた……英雄だと……」
「そうさ。シャドウ……いや、楽園と言った方が正しいのか。英雄が最期に使った技を……お前なら知ってるだろ?」
「まさか、貴様……!?」
シャドウは、明らかに狼狽えていた。
俺は剣を拾い、それを構える。
――ガラム大陸では『死後の楽園』という意味があります。それを人の名前につけるとは……。
レイの言葉を、思い出す。そうだ、全ては繋がっている。きっと世界は、こうやって繰り返してきたんだ。
だから……。
「現実に楽園なんて有りはしないさ。虚構に堕ちて、それでも探し続けるのが人なんだ」
「私は、滅びることなどない、ないのだ!」
「楽園は、終わりだ。発動――死後の楽園」
俺はそう唱えた。その時、倒れているレイとマリーの体が淡く光ると、その光が俺の剣へと届き、そして剣が眩く光り、白い光が刀身を包む。
「まさかあの女達が……『運命の女神』だというのか」
シャドウが驚いていた。
――そうですね……じゃあ私たちまっさらな状態ですし……スタートという意味も込めてシオンなんてどうです?
ソラの言葉が蘇る。まっさらな心。それこそが、この剣に今宿っている。幾千もの夥しい想いが、ここにはある。始まりと、終わり。
「くそっ、まさか本当に……なぜ貴様がそれを……!!」
「だからお前も……還るんだ。始まりの地へ」
「やめろ! 私にはまだ……世界を――」
俺は、シャドウの元へと走り、一瞬のようにも、永遠のようにも感じるこの時間を、斬り裂いた。
「――さよなら」
俺はそう言った。辺りはただ、真っ白な光に包まれた――
♦︎
あれから一年が経った。シャドウは、倒した。エデンは再び眠りに入った。世界が変わったのかと言われたら、正直言ってそれはわからない。
兄さんは、亡き父さんに代わって国王になり
俺は今、旅をしている。レイ達にはまた黙って国から出てきてしまった。だって国にいると色々とうるさいんだもの。
ちなみに、マリーは、今アヴァロン城で暮らしている。彼女なりに世界の行く末を見た結果、まだこの世界を見ていくという結論になったみたいだ。それとアポロンが気に入ったらしい。
そう、この世界にはわからないことが多い。俺はその何かが少しでもわかればいいなぁ、とそう思う。
あれから、ソーニャとヴァレイアを探して回ったが、遂に見つかる事はなかった。もしかすると、俺が未来を変えた事で彼女たちがこの時代にいられなくなってしまったのかもしれない。
だけど、彼女たちがいたという思い出は俺の『記憶』に残ってる。そうやって、紡いでいくのだろう。これからも。
エリアは、あれから俺とは別に世界を旅しているようだ。彼女は彼女なりに、何か目的を見つけたのかもしれない。
またいずれ会うときもくるだろう。その時にはお茶でも飲みながらゆっくり話したいな。
マルロは、街に戻って研究をしている。彼女は、俺が最期に使ったあの技が気になるようだ。もう使えないんだけどな。
みんな、それぞれの道を歩んでいる。それは交わっていないように見えて、どこかで繋がっている。記憶という名の繋がりが、俺たちを忘れずに結びつける。
そしてソラは――
「ロキ、遅いですよ。何してるんですか」
ソラが、手を振っていた。広大な草原にポツンとそびえる、看板に手を置いて。
そこには、『エリュシオン高原』と書かれていた。
「始まりの地だ」
俺はそう言った。
「綺麗ですね……」
ソラはそう言って、遠く向こうへと走っていく。俺はそんな彼女の後ろ姿を見つめる。ソラは、この一年で髪が伸びた。
俺は、不意に、晴れ渡った空を見上げた。
それは見た事もないほど青く雲ひとつない空、そしてソラがその青空の下で、まるで妖精のように走っていた。
「――ああ……綺麗だ」
だから俺は、そう答えた。記憶の彼方に向けて。
はい、というわけで申し訳ございませんでした(土下座)
とりあえず頑張って完結させました。本当はもっと前に終わってなきゃいけない作品です。
一年前には本当は、違う展開になっていたとは思いますが、もう僕の中で終わらそうとするとこれくらいやらないと終わりませんでした。
たぶん意味わからないとは思いますが、本筋に関わっていた伏線はあらかた回収したので許してください。
ここまでお読みくださった方には本当に感謝です。ありがとうございます!
最期に評価とかいただけたら幸いです。
では、違う作品でお会いしましょう。(下にリンクあります)




