【訪問者たち】
場に緊張が走る。
今思ったけど、もしかしてこのマリーの豹変ってアナザーの意識が関係してるのか?
アルフレッドはもう元の人格は残ってなかったみたいだけど、マリーはあの天真爛漫な性格が元の人格なんじゃ?
「ねぇシオン。あなたと私が別れてからまだ全然時間経ってないと思うんだけど。なんで急にそんな知識を得たの?」
「記憶を取り戻したんだよ。俺はお前らアナザーのボスっぽい男の息子だ」
そういうと、マリーは俺の言葉を噛みしめるように頷き、俺を頭の上から下まで見渡す。
「ふーん? それは驚きだね。まさかアナザーの事まで知ってるなんて。って事は何? 私を殺しにきたって事かな?」
「まぁな。けどもしお前が、本当のお前があの天真爛漫なマリーで、まだ戻せるっていうなら話は別だ」
「あれ? それも気づいてたんだ。そうだよ、私にはまだ主人格が残っている。まだ乗っ取って浅いからね。それで? 主人格が残ってるからってどうするつもり?」
「助ける」
俺は間髪入れずにそう言い放った。それを聞いたマリーは笑い始める。
「助けるぅ? 何をお門違いな事を言ってるの。確かに主人格のマリーは残ってはいるけどもう完全に私が操っている状態だもの。あなたが何をしようと主人格だけを取り戻す方法はないよ、無駄だわ」
「それでもやってみせるさ」
「……ふん。くだらないねっ。ほらっ、これは主人格だけど、私はあなたに助けなんか求めてないっ!」
「本当にそうか?」
「ほ、本当だよっ。ふん、この話はもうおしまい! 私はギルガメッシュを連れて帰るんだからっ」
「ギルガメッシュ?」
マリーが向いた方には牢獄に入った男がいる。まさかこいつがギルガメッシュ?
意外と若いんだな。話し方的にじじいかと思ってたぜ。
するとその男はこちらを向き、
「ふん、やっと俺に気づいたか。やはり変な奴だなお前は。どうやら世界を変えられてはいないようだが」
「え? ちょっと待て。あんたがギルガメッシュだとして、なんであの時の記憶があるんだ? あ、あれは今からいえば未来の話だろ?」
「そんなものはスキルでどうとでもなる。それよりもお前ら、さっさと俺をここから出してくれないか。この手枷がスキル封印と身体能力封印を兼ね備えててな」
ギルガメッシュは手足につけられた錠を見せてそう言ってきた。
そういえばどうやって捕まったんだ彼は。
そんな疑問を抱えつつも俺はギルガメッシュの拘束具を全て外した。
「さて、これでまともに動ける。助かったぞ」
「それは良いけどあんたなんで捕まってたんだ? めちゃくちゃ強いんだろ?」
「ああ、それは――」
「いたぞ! 侵入者を撃破しろ!」
警備兵が走ってきた。どうやら気づかれたみたいだな。
「後回しにするとしよう。二手に分かれよう。お前らは俺とこい」
ギルガメッシュが俺とマリーを指差してそう言った。そういうわけでレイたちには別ルートで逃げてもらう。
「発動、神速」
俺が何か動く前にギルガメッシュがスキルを発動させ、そして一瞬のうちに敵戦力を無力化した。
速い……! 確かに前戦ったギルガメッシュとは別レベルのようだ。
「こっちだ、ついてこい」
ギルガメッシュの言う通りに兵を倒しながらついて行くと、俺たちが入ってきた入り口ではなく裏口のようなところから外へ出た。
そのまま人混みに紛れながら街を進み、そして人がいない裏路地に入るとそこにあった木の箱に彼は腰を下ろした。
「ここならあまり人も来ないだろう。さてお前、確か……マリーとか言ったか。もう一度話せ」
「えー? さっきの? だから、あなたに私の組織に来てもらいたいのっ」
「世界を滅ぼす組織にか?」
「そうだよっ。弱いものが救われない。平等じゃない。こんな世界必要ないっ。そう思ってた時にアナザーと呼ばれる彼女が私の意識の中に現れたの」
「ふん、そんな胡散臭い奴らを信用するなんてな」
ギルガメッシュは小馬鹿にするようにマリーを笑う。
それにしても……やはりアナザーは人の心の闇につけいるみたいだな。
「あなただってそう思うんじゃないのっ? だから、血の三日間なんて呼ばれる悲劇が起きたんでしょっ?」
「だから俺がお前らに手を貸すと言いたいのか? 見当違いもいいとこだな。貴様らはエデンの本当の恐ろしさをわかっていない」
話が次から次へと進んでいくが、血の三日間てなんだ。なんか前もそんな事聞いた気がするが、全く何を話してんのかわからんな。
「わかってるよ。わかってるからこそみんな壊して全てを終わらせたいんだよっ」
「それは逃げだな」
「逃げて何が悪いのっ!? 逃げて逃げて楽になろうとして何が!」
「自己中心的だな、まるで泣いている赤ん坊だ。話は終わりだ、俺はお前らの仲間になる気なんてない」
「そんなっ!」
マリーは必死に食い下がろうとしているがギルガメッシュは相手にしていない。
なんか知らんうちにマリーは説得失敗に終わったみたいだな。
「さて、シオンとか言ったか。お前の質問に答えてやる、なんで俺が捕まってたかだったな」
「え? あ、ああ」
急にこっちに話が変わるとは。
「それを話すにはある程度歴史を話さなきゃならない。お前、俺についてどこまで知ってる?」
「えーと、あんたが地球を滅ぼせるほどの力を持ってて、それを使って神を殺そうとした。あ、この神ってエデンであってるよな?」
「そうだ」
「エデンを殺そうとしたけどそれは出来ずあんたはその代わりに封印に成功した。そして、その時それに反対したアミリアと賛成したドロールで戦いが起きたってのは知ってる」
「なら話は早い。その三日続いた戦いが血の三日間と呼ばれるものだ。ついこの間終わったがな」
ギルガメッシュは何か物憂げな表情でそう告げた。
ついこの間終わった?
「それって、つまりエデンも封印したってことか?」
「そういう事だ。エデン封印に力を使い切った俺はその場で敵に捕まってそのまま投獄。今に至るってわけだな」
「す、すげーなあんた。けどなら聞いてくれ! 今俺たちの時代じゃ――」
「エデンが復活しそうなんだろ? そこのマリーとかいう奴がいる組織のせいで」
なるほど。マリーがあらかたこっちの時代のことは話してんのか?
「そ、そうだ。だからあんたには協力して貰えると助かるんだけど」
「それは無理だな」
ギルガメッシュは考えるそぶりもせずそう言い切った。
「なんでだ?」
「俺はエデン封印する事に力を使ってしまってるからな。お前たちに力を貸す余裕なんてない。仮に今俺が未来に行ったらこの時代のエデンが復活してしまう」
「じゃあこの時代のエデンを倒すってのは?」
「エデンを倒すなんてのは無理だ。俺ですらできなかったんだからな。封印というのが一番理想的だ」
という事はやっぱり現代でシャドウを倒すってのが解決策になるわけか。
「なるほど。つまりあんたには頼れないってことか」
「そうだな……だが――」
そう言ってギルガメッシュはマリーを一瞥する。
「こいつは俺が、かたをつける」
「な、何よ。あんたにそうやすやすと私がやられるとでもっ?」
「すぐに終わるさ。発動、神速」
「消え――うぁっ?」
見えなかった。気づいたらマリーが路地裏の壁に吹き飛ばされていた。それはマリーも同じだったようで、よろよろと立ち上がりながら驚愕の表情を浮かべる。
「ぐ……ば、化け物」
「化け物は、お前だろうアナザー。発動、見えざる手」
「ちぃっ。ぐあっ!?」
ギルガメッシュはただ虚空を手で握りしめているだけ。にもかかわらず、マリーは誰かに首を締めれているかのように、首元に手の跡が浮き出る。
「こいつは実体のないものを掴む手だ。つまりアナザー、貴様だけ引きずり出すこともできる」
「や、やめ……ろ!」
マリーの体から霊体のようなものが抜け出してくる。これは前に見たケルベロスの霊体と同じ類か。
完全にマリーから抜け出した霊体。その姿は顔がなく、ただ人型の形をしたものだった。ギルガメッシュは、その霊体に手のひらを向ける。
「やめろ、私を殺す気か!? やめろ! 復活しなければならないんだ!」
「知るか。発動、ヘブンズラスト」
「やめ、やめ……」
霊体は光に包まれ完全に消え去った。マリーも決して弱くはなかった。だけど、ギルガメッシュは強すぎる。人間の域を超えている。
残ったのは、アナザーが消え元々あった人格のマリー。
「さてシオン。後のことはお前に決めさせてやる」
「決めさせてやるって……」
「こいつを殺すかどうかだ」
ギルガメッシュはそう言ってマリーを指さした。
マリーを殺すかどうか、つまり俺に生殺与奪の権利を譲るというのだ。
「別に俺、殺す気は――」
「ないのか? こいつも闇ギルドとして多くの人々の命を奪ったのに?」
「それは、アナザーに操られてたから」
「それは違うっ……!」
ギルガメッシュに霊体を抜かれ倒れていたマリーが、起き上がりながらそう言った。彼女の目は、まだ鋭い。
「それは違うよシオン。私はたしかにアナザーに操られていたけど、今までやってきたことは……私の、意思」
「何を……」
「アナザーに選ばれた人間は、無造作に選ばれたわけじゃない。それぞれがアナザーの意思に賛同し、世界破滅を願った人たちなの」
世界破滅を、願った……。
「じゃあ元々悪い奴らだったってことか? アルフレッドも?」
「私達が『悪』かどうかは知らないけれど……強制されてやっていたわけじゃない。アルフレッド、クロードの事だね。彼は、婚約者を野盗に殺害されているの」
「何……?」
「彼はすぐに犯人を見つけ出し、復讐した。けど彼の気持ちは少しも晴れなかったらしいの。そして彼女のいない世界、彼女を奪った世界に絶望した」
瞬間、アルフレッドが最期に言った言葉を思い出す。
『復讐に成功して、何か残ったかい?』
あれは、自分の経験も含めてそう言っていたのかもしれない。今となってはもう聞くことは出来ないが。
「ドルチェは、病気で妹を亡くしている。治せる病気だった。けど、治療は貴族の子を優先され彼女は死んだ」
あいつも……俺は、俺は何も知らなかった。いや何も知ろうとしなかったんだ。ただ漠然と戦ってた。
「じゃあマリー、お前も……」
俺がそう訊くと、マリーは何かを思い出すかのように上を向きながら呟いた。
「私は……奴隷だった」




