【悲哀の剣】
「くく……くくく」
アルフレッドは何が面白いのか笑うことをやめない。
「くく……なるほど、君が第二王子。そう言うことか。確かに第一王子は有名だけど、弟くんの顔は知らなかったね」
「闇ギルドである事を認めたって事でいいか?」
「アルフレッド! 本当なのか!? 本当にお前が私の一族を殺した闇ギルドなのか!?」
エリアが普段見せないかなり焦った顔色でまくし立てる。
それに対して奴は表情を崩す事なく淡々と、
「そうだよ。俺が君の一族を殺した」
「なんでっ! なんでそんな事を!?」
「神の福音を探す時に君の一族が持っていると噂になったからさ。殲滅して確かめた」
「そ、それだけのために……?」
「何言ってる。大事な事だよ。君の一族はその尊い犠牲になったんだ。むしろ誇っていい」
エリアの拳がわなわなと震えている。
「アルフレッドォォォオ!」
「エリアっ! くそっ」
エリアはついにアルフレッドの元へと剣を抜いて襲いかかっていった。
「予想とは外れたけど、ここで君を始末するとしようか。ねえドルチェ」
「仕方ねえなあ! 発動! 岩石招来!」
スキルを発動させた瞬間、俺たちの地面から先端が尖った大きな岩石が隆起してくる。
くそっ! あいつも敵側か!
「発動、重力支配!」
俺は地面の岩石を押し潰して破壊した。
他の皆も各々のスキルで岩石を避ける。
エリアの方を見ると、彼女は我を忘れてアルフレッドに剣を振るっていた。奴はそれを悠々と受け流す。
あのままじゃまずいな……!
「ソラ! こいつは任せた!」
「……っ。はい!」
「なんだ、おめぇは行っちまうのか。へへ
、痛ぶってやるぜお嬢ちゃんたち」
「ご主人様になら何をされても構いませんが、あなたのような筋肉馬鹿には御免こうむりますね」
「珍しく意見があいましたねレイ。私もそう思いますよ!」
「私も……同感」
「くえ!」
俺はドルチェを放ってエリアの元へと走った。
「おや、きたのかい、シオン!」
俺は大剣でエリアの攻撃を流している奴に向かって斬りあげる。奴はそれをも防いだ。
「二対一かい。正義の味方がする事じゃないな、それは」
「邪魔をするなシオン! これは私の復讐だ!」
エリアは激昂している。
くそ、これは何を言っても駄目かもな。
「んなこと言ったって、お前このままじゃ殺されるぞ!」
「私は一人で戦える! 発動! 剣の舞!」
「発動、星砕き!」
速度を上げたエリアの剣が、アルフレッドを襲ったが、奴はそれを物ともせず突っ込んでいくと、構えた剣を振り下ろし、エリアの剣ごと薙ぎ払った。
その威力は凄まじく、振り下ろした瞬間眩い光が走ったかと思えば、爆発を起こし、剣を弾くにとどまらず、エリアの甲冑を破壊した。
「きゃあっ!」
「エリア! くそ、発動、重力支配!」
吹き飛ばされたエリアを引力で吸い寄せ、懐へと抱き込んだ。
「う……うぅ……」
エリアの胴体は血にまみれていた。
酷い、甲冑の下までかなりのダメージが……
「発動! 異常支配!」
「ふぅん……?」
俺がスキルを発動させ、エリアの傷を治す。
アルフレッドは面白いものを見たかのようにまじまじと見ていた。
俺は、治療をしつつ、
「お前……仲間だったのにこんな本気で……心が痛まないのか?」
アルフレッドに対してそう言うと、奴は何を言ってるのかわからないと言った困惑の表情を見せた。
「何言ってるんだシオン。先に攻撃してきたのはそっちだよ? しかも本気で。むしろエリアにその言葉は言うべきだと思うけど?」
「……そ、そうだぞシオン。そいつの言う通りだ」
「エリア! 大丈夫か?」
「ああ、すまない。それに、もともと私たちは仲間ではない。一緒に組んで仕事をしていただけだ」
「あー、それの事だけど、もうバレたから言うけどさ、君と仕事組んでたのも全部計画だよ」
「……なに?」
アルフレッドは日常会話をするようにあくまで淡々と述べる。
「最初からって……どういうことだ?」
「そもそもさ、俺はエリアの一族を殺し損ねたって事は知らなかったんだ。けど少し前、めちゃくちゃ強い女冒険者が死神なんて異名を引っさげて闇ギルドを潰して回ってるなんていうから色々調べたんだよ。そしたらエリアが一族の生き残りってわかったから、接触して殺そうと思ってね」
「な、なんですぐに私を殺そうとしなかった!」
「そりゃ天才アルフレッドって冒険者がいきなりそんな事したらおかしいでしょ。だから機を狙って、事故死にしようと思ってたんだよ」
「下衆めが……!」
次々と明かされる事実。
まぁ今さらこいつの悪行を言われてもおれはそこまで驚きはしないが。
エリアは治療が終わると俺の懐から離れ、立ち上がった。そして落ちた剣を拾う。
「シオン、すまなかった。少し理性に欠けてたようだ」
「オーケー。エリア、一緒に戦うぞ」
「ああ、あいつはいてはいけない存在だ!」
「くくく、こんなに早く君と戦う日が来るとはねシオン。初めて会った日から戦う事を楽しみにしていたよ……」
その言葉を最後に俺たちは静まり、互いを牽制しあう。そしてほぼ同時のタイミングでスキルを発動させた。
「発動! 加速支配!」
「発動、疾風の舞!」
「発動。星連鎖!」
俺は加速した剣で、エリアも連続攻撃でアルフレッドを攻め立てる。だが奴はそれを一つ一つ弾いていた。
そしてエリアの一瞬の隙をつき、奴は彼女に蹴りを食らわせる。
「ぐぅ!」
俺も奴から少し離れる。
二人同時の連続攻撃をこんなに弾けるって事は……
「自動防御のスキルか!」
「ご名答。しかし記憶が戻った君は厄介だね。ここで殺さないと大変な事になりそうだ」
「へっ、やってみろよ」
「それにしても君達今何回俺の剣と触れたのかな」
「なんの、話だ……」
「一撃で一発分だ。連鎖しろ」
「まずいぞシオン!――」
「なっ!?」
アルフレッドが自分の剣を地面に刺した途端、俺の剣とエリアの剣が光り出し、そして、爆発した。
これは……やべえ!
そう思い、剣を手放すも爆発の範囲から逃れる事は出来ず、おそらくあいつの剣と触れた回数分の爆発が俺たちを襲った。
「ぐぁっ!」
腕で顔をガードするが、衝撃からは逃れられない。焼け付くような痛みの中、俺は攻撃に耐えきった。
「発動、異常支配!」
「ま、これじゃ死なないか」
俺はすぐにスキルを発動させ、火傷となっている傷を治す。
そういえばエリアは!?
「エリア!」
「ぐ……なんとか大丈夫だ」
エリアもかなり火傷を負っていた。左ほほは赤黒く焼けている。更に足を怪我したのか左ひざを押さえたまま立てないでいる。
すぐに治療しないと……!
俺はすぐさまエリアの元へと駆け寄ろうとしたが、アルフレッドが斬りかかってきたため俺はそっちを防御する。
「行かせないさ。さぁ、きなよ」
「……発動。重力支配」
「芸がないな! もう見切っている!」
奴は俺の斥力から逃れようとしたのだろう。俺の構えた左手の射程から逃げるように横に大きくよけた。
「それはどうかな」
「なにっ?」
そう、俺は今回攻撃として斥力を使うのではなく、引力を使った。
引力は斥力と違って発動させてる部分に引き込まれて来るので斥力に注意していたアルフレッドは俺の左手に吸い込まれる。
「ぐっ、発――」
「遅い」
奴がスキルを発動する前に、俺は右手で構えていた大剣で奴の胴に斬撃を叩き込んだ。
「がっ!」
アルフレッドは引力と俺の大剣の相乗効果で大きく吹っ飛んだ。
その隙に俺はエリアの元へと向かい、回復をする。
「異常支配」
「……何度もすまないシオン」
「気にすんなよ。それより、決めるぞ」
「ああ。発動、豪傑の舞」
「発動。部分支配」
エリアの刀身が赤色に染まる。
チャージと似たようなスキルか?
俺たちが準備をしている間に奴も立ち上がっていた。
「ぐ、シオン、君はいったい何をした」
「なんの話だ?」
「明らかに以前より身体能力が上がっている! こんな急激に上がるなどありえない!」
「ああ、それなら簡単だ。封印されてたんだよ、身体能力をな。てめえんとこのボスに」
「なるほど。なら今のが君の真の実力って事か……。発動、星砕き」
さっきエリアがやられたスキルか。見たところ単純な威力増加系のスキルだったな。
俺たちは同時に走り出し、そして剣を交わらせた。俺と奴の剣はほぼ互角の威力で、そこにエリアが剣を叩き込む。
流石に敵わないと思ったのか、奴は剣を滑らせ切っ先だけでエリアの攻撃の軌道をずらした。
「なんて奴だ!」
「一応これでも天才って異名だからね」
俺たちはその後も攻防を続けた。流石に天才と言われるだけはあって、アルフレッドは二対一にも関わらず全く俺たちに引けを取らなかった。
斬っては斬られを繰り返す長い攻防のすえ、戦いはついに終わりを迎えようとしていた。
「はぁ……はぁ。次が、最後の攻撃になりそうだね」
「はぁはぁ……そ、そうみたいだな」
「き、貴様だけは……はぁ……はぁ……私がここで……!」
俺たちは互いに剣を構える。そして呼吸を整えた。
「終わりに、しようか! 発動! 星を見つめる者!」
「発動! 地獄の裁き!」
「発動! 悲哀の舞!」
あいつのあのスキルは、未来で一撃でロボットを倒した奴か。どうやら切り札みたいだな。
一呼吸を終え、走り出した。奴のスキルはどうやら自身を加速させつつ剣の威力をあげるもののようだ。
そして、先に俺とアルフレッドの剣が交わる。勝負は一瞬でついた。
「俺たちの、勝ちだ。アルフレッド!」
「なっ!?」
奴の剣が折れたのだ。同時に俺の剣も衝撃により空中へと舞うが、この勝負をつけるのは俺じゃないから問題ない。
俺が横へずれると、後ろからこの時を待っていたかのように、完璧なタイミングでエリアが剣を構えて現れた。
エリアの刀身は、スキルにより青く染まっていた。
「この青い刀身は! 死んでいった皆の涙だ! これで、終わりだぁぁあ!」
エリアは刀を振り下ろす。その剣は確かに奴の身体を捉え、そして斬り捨てた。
「があああっ!」
奴は成すすべもなく、そのまま倒れた。致命傷だ。もう助からないだろう。
エリアは、倒れた奴の目の前に行くと、見下ろしながら呟く。
「最期だ。貴様が殺した私の一族へ、何か言う事はないのか」
するとアルフレッドは、死にそうであるにも関わらず、確かに笑った。それを見てエリアは激怒する。
「何が可笑しい!」
「復讐に成功して、何か残ったかい?」
「な……何を」
「ゴホッ……死神なんて大層な名前をつけられたら、もしくは闇ギルドの人々なら、殺しても許されると? 勝手な話だな、君は俺と一緒さ」
「やめろ! 貴様などと私を一緒にするな!」
アルフレッドは言葉を続ける。
「君は一生許される事はない。くくく……こんなに面白いものが見れたなら、君の一族を殺したかいもあったと言うものだ」
「貴様ぁ!」
怒り狂ったエリアは奴に再び剣を突き刺そうとする。俺はそれを見て咄嗟にエリアの腕を掴んだ。
「やめろエリア! もうそいつは何もしなくても死ぬ!」
「ぐ、だが……!」
「ふふ、滑稽だな。まぁ心配しなくてももう死ぬさ。じゃあね二人とも、地獄で待ってるよ」
そう言って目を瞑ると、アルフレッドが目を開ける事は二度となかった。
「し、死んだのか」
「くそっ、くそっ。一言も謝らないのか……!」
エリアは、死んだアルフレッドを泣きながら見ていた。
俺はその時、いつかレイをかけて戦った時に相手に言われた言葉を思い出していた。
『つまりだ! お前の言う助けるなんてのは所詮ガキの戯言! 自己中心的であまりに偽善だ!』
確かに俺たちは所詮助けるだの仇を取るだの言ったところで、それは自己中心的なもので偽善なのかもしれない。
けれどそれが人間なんじゃないかとも思う。そうやって言い訳をしていないと、人は立っている事は出来ない。
「シオン……わ、私は……私は!」
「わかってるよ」
昔の俺を見ているようで、放って置けなくてエリアを抱きしめた。




