【記憶からの浮上】
頭、痛え……!
「……はっ!」
目が醒める。周りを見渡すと、そこには筋肉質な若い男とよく見知った顔のレイがいた。
「ご主人様! お目覚めになったのですね!」
「よぉ……どうだった? お前の記憶は?」
男が俺に聞いてくる。
それよりこいつ誰だっけ……? えーと確か闇ギルドの……なんだっけ。
つーか俺どれくらいの間、気絶してたんだ?
「おいおい、無視するなよ」
「うるせーよ。今考え事してんだ」
「けっ、生意気な口聞くじゃねーの!」
男がひざまづいてる俺に蹴りをかましてきた。
あくびが出るほどのろいので避けようとしたが、俺を兵士が拘束していた事を忘れていた。
めんどくせえな。
「発動、重力支配」
「なっ!?」
俺は斥力を発生させて、周りにいた奴らを全員吹き飛ばした。
あーようやく立てるよ。
俺は立ち上がると、レイの元へと行こうとしたが、男が立ち上がる。
「このジャンク様に一撃加えるとはやるじゃねーか。それでこそ闇ギルドに加入すべき男だぜ」
あぁ、そうだこいつの名前ジャンクとかそんな感じだったな。
てか闇ギルド加入? ……あぁ、レイがいつもの病み期発生させて勘違いしちゃったんだっけ。
なら、やる事は一つだな。
「めんどくせぇからかかって来い。どちらにせよ、俺は自分より弱い奴に従う気はないからな」
「言うじゃねーの! 発動、心臓連弾!」
奴はスキルを発動させるとそのまま直進してきた。動きからして両の手に付与してる系のスキルか。
なんのスキルを発動したにせよ、当たらなければ意味ないぜ。
「遅い。発動、加速支配」
俺は走りながら加速しつつ、迫ってくる奴を大剣で切り上げた。
しかし奴は仰け反る事なく、そのまま俺へと突進してきた。
なかなか根性はあるようだ。
「ぐぁっ、くそっだが懐に入ったぞ。くらえ!」
奴は両の拳で俺に向かって連打を始めた。
かなりの速さで、しかも恐らく強化されているであろう拳だったが、俺は大剣を地面に刺して両手で全てそれらを弾いた。
「なにっ!? 素手で弾くだと!?」
「悪いけどお前に構ってる暇はないみたいだ。発動、部分支配」
俺は右手にスキルを発動させつつ、奴の顎に膝蹴りを加えた。そして隙ができたところに思い切りチャージした拳を叩き込んだ。
結果的にジャンクとか言う奴は気絶した。
「さて……」
ちらりとレイの方を見る。なにやら俺をキラキラした目で見ている。
仕方ないので近づくと、
「ご主人様! 記憶が戻られたのですね!」
「ああ、無事戻った。お前の事もちゃんと思い出したよ」
「そうですか。レイとご主人様が将来を誓い合っているただならぬ関係だと言う事も思い出しましたか!」
「いや勝手に記憶を捏造するな。だいたいなんだお前闇ギルドに入るとか勝手に言いやがって」
「だって……ご主人様がずっといなかったから、レイは寂しくて寂しくて……」
そうか、レイは俺の言いつけ通りガラム大陸から離れてたんだっけか。
なのに俺が失踪したとなっちゃ、確かに不安だったか。申しわけない事したな。
「ごめ――」
「もうずっと城から持ち出したご主人様グッズで自分を慰める日々で」
前言撤回、こいつ駄目だわ。
「それより、いきなり記憶が戻ったから俺が何してたのか曖昧だ。えーと、確か……そうだ、ソラたちはどうしたんだっけ」
「ソラ? ああ、良いですよそんなアホみたいな名前の子の事なんて。それよりレイと末長く暮らしましょうよ」
「ちょっとお前は一回黙れ」
あれ、でもそうか。俺そういえばここに来る前にソラとマルロに連絡しといたからここに来るはずか。
つーかマルロて……なんかもう半年くらいぶりに言ったような感覚だな。
「とりあえず一回ここでソラを待つわ」
「えぇ……」
レイは心底嫌そうな顔をしたが、俺はそれを無視して待つことにした。
待つこと三十分、ソラとレイ、そしてアポロンがやってきた。
「おー、やっときたか」
「な、なんですかこの惨劇は? シオンがやったんですか?」
「シオン……? あー俺のことか」
思わず忘れそうになってたわ。
するとレイがずんずんとソラの前に繰り出した。
「お久しぶりですね、ソラ!」
「……え? どちら様、ですか?」
「そりゃそうなるわ」
俺はその場で記憶を取り戻すことになった経緯を話した。
「えぇ!? じ、じゃあシオンはもう記憶があるんですか!?」
「ああ、今からこのジャンクって奴を叩き起こしてお前の記憶も呼び覚まして貰おうと思うんだが、どう?」
「もちろん! お願いします!」
ということで俺は無理やりジャンクを起こして、スキルを使うように脅した。
ジャンクは闇ギルドにしては物分かりのいいやつで、ささっと発動して、やってくれた。
ソラはスキルを使われると五分ほど意識を失い、そしてハッとした表情で目を覚ました。
「こ、ここは……」
「ソラ、記憶は戻ったか?」
「ロ、ロキ……いや、シオン……?」
「どっちも正解だ。どうやらちゃんと戻ったみたいだな」
「私は……いえ、私たちは……」
「ああ、やらなきゃいけないことがたくさんある」
互いにやる事を確認した俺たちは、まず何をやるべきかを話し合った。
と、その前にマルロが困惑していたので軽い説明をしたが。
「……じゃあ私はなんて呼べば……。シオン? ロキ……?」
「いやそこ? もっと色々あったろうに。シオンでいいぞ」
「わかった……」
なんだかマルロと会話したのも久々な気がして思わず笑っちまいそうになったけど、事態は割と深刻なんだよな。
今が十一月。確か、二回めのタイムトラベルでは一月にブルナーラに戦争を仕掛けてたから、ことが大きくなる前に片付けるなら、猶予はあと二ヶ月か。
「前の世界での最後の城の状態が『詰み』だとするならば、そうなる条件を一つ一つ取り除いて行くしかないです」
「そうだな。て事はやっぱり闇ギルドをまず潰さないと。あの場にいた幹部らしき闇ギルドは確か……」
フード被ったやつ、露出の高い女、マリー、アルフレッド……って待て待て待て!
「アルフレッド! あいつ闇ギルドだったの!?」
「……確かに! えーと、なんでしたっけ……そう、クロードとかいう名前を持ってましたね!」
「……ちょっといい?」
「どうしたマルロ」
マルロが急に話に入ってきた。
「クロードって……確か、エリアが探してた闇ギルドの人じゃない……?」
「え?」
そう言われて記憶を探る。
『私はマリーから聞いたクロードという男について情報を探しに行こうと思う』
確かそんな事言ってたなあいつ。
「それに、確かエリアはそのクロードに一族を滅ぼされたみたいな事をマリーに言われてましたよ!」
「だとすると、マリーとアルフレッドばりばり知り合いじゃん! そうなると……エリアが危ない!」
「さっきからなんの話ですかそれ。誰ですかエリアって。また女ですかご主人様」
相変わらずレイは的が外れた事ばかり言っているが、そうと分かれば早くここを出なきゃならない。
まだあいつらと別れてから一日経ってない。って事はまだこの大陸にいる可能性もあるか……!
「エリアを探すぞ!」
「……いや、無線機使えば良い」
「……え」
マルロに冷静に突っ込まれて、意気消沈。
俺は何事もなかったかのように、無線でエリアに連絡を取った。
『もしもし』
「あ、エリア? シオンだけど、今どこにいる?」
『今? リニャエレというサーミル街からすぐの街だが』
「て事はまだドロールにいるのか。わかった、そっち向かうから待っててくれ、明日には着く。話したいことがある」
『は、話したいことだと!? な、なんだそれは大事なことか?』
「大事な事だ! 良いから待っとけ! 下手に動くなよ!」
『わ、わかった……』
何やら後半から元気があるのかないのかよくわからない感じのエリアだったが、とりあえずドロールにいる事はわかった。
出発したかったが、流石に暗かったのでその日は宿屋に泊まった。
「ご主人様、久々にレイと一緒にお風呂に入りましょう」
「いや、久々も何もお前と一緒に風呂に入った事はない」
「相変わらず煩悩しかないんですね、レイの頭は。かわいそうな事です」
「へぇ……夜な夜なご主人様のベッドに忍び込むあなたが言えた事ですか?」
「なっ……気づいて……!?」
こうなる事はわかっていたが、レイとソラがまたどうでも良い事で争っている。
だいたい喧嘩するたびに俺が関わってるのやめてくれ。ソラ俺のベッドに忍び込んでんの?
そんなこんなでうるさい一夜を過ごし、次の日を迎えた俺たちはすぐに隣町へと向かった。
待ち合わせをしていたギルドにエリアはいたが……
「こっちだ、シオン」
「あ、いた! エリア」
「なんだそんなに慌てて。そ、そんなに私に会いたかったのか? それに誰だそいつは」
「誰だはこっちのセリフですけどねー。レイに隠れてこんなに女の知り合い作ってるとかご主人様も隅に置けないですねー」
相変わらずレイは全方位に喧嘩を売ってくスタイルのようだ。こいつめんどくさいな。
「今はその話は置いとこう、それよりエリア。アルフレッドはどうした」
「アルフレッド? ああ、あいつなら今ドルチェを迎えに少し外に出てるぞ」
「なら都合が良い。いいか、今から話す事は全部真実だ。なるべく驚かず聞いてくれよ」
「あ、ああ」
俺は簡単にクロードとアルフレッドの関係をエリアに話した。まず俺の記憶が戻った事を簡単に話し、そしてその中にクロードがいて、それがアルフレッドであると言う事を。
「ば、馬鹿な……」
エリアは狼狽していた。まぁそりゃそうだ。
「まぁとにかくこれは真実だ」
「ち、ちょっと待ってくれ。落ち着かせる……」
エリアは深呼吸を何回もして、体を落ち着かせていた。
「よ、よし。仮にそれが本当だとするなら……一度本人に確認しなくてはならないな」
「そうだな。ただエリア、一つ聞いておきたいことがある」
「……な、なんだ」
「アルフレッドが闇ギルドとわかって、お前は本当に奴と戦えるのか」
するとエリアは一瞬何か考えるような格好を取ったが少しの間の後、俺をしっかりと見つめると、
「戦える」
そう重々しく言い放った。
「わかった。じゃあアルフレッドに会いに行こう」
こうして、俺たちはギルドを出てアルフレッドの元へと行くことになった。
アルフレッド自体は街の入り口から少し離れた人が通らない林の付近にいて、ちょうどドルチェと会っているところだった。
「あれ? エルフ……にシオンたち? どうしたんだ?」
「あん? おお、アルキードにいたスーパールーキーじゃねえかぁ!」
ドルチェが大きな声を出して俺を指差す。
そういえばこいつは……『どっち側』だ?
「いやアルフレッド。実はね、俺記憶が戻ったんだよ」
「へぇ! よかったじゃないか! それで? シオンはどこの誰だったんだ?」
「ガラム大陸アヴァロン王国第二王子」
「は……?」
初めてこいつがこんな素っ頓狂な顔をしているのを見たぜおい。
俺はアルフレッドが飲み込めてないうちに畳み込む。
「ロキ=アヴァロンだ」
「……悪い冗談かい?」
「いいや、真実さ。わかってるだろ? 闇ギルドのアルフレッド、いやクロード!」
するとアルフレッドは先ほどの柔和な表情を変え、冷徹な目で俺を見つめると、
「へぇ……」
そう言って、不敵に笑った。




