XVII話【終焉】
「頭が……痛え」
目覚めたところは俺のよく知るアヴァロン城の近くの野原で、何か上空から落下したかのような衝撃を地面に残していた。
目を覚ました俺はすぐさま城に戻った。そして目の前に確かにソラがいるのを確認して、思わず抱きしめる。
「え? え? な、なんですか?」
困惑したソラに構う事なく生きている事を実感した俺は、すぐに日付を確認した。
するとその日付は4月5日。ソラが帰郷するわずか5日前だった。俺はソラに全ての事情を話した。
「そ、そんな……まさか……」
ソラは驚愕していた。アルキードに戻ったら死ぬのだ、当たり前の反応とも言える。
だがアルキードに行かないという選択肢は俺にはできなかった。何故ならあの化け物が復活する時点で俺たちが生き残れるとは到底思えないからだ。下手したら全人類が滅亡する。
そのため俺は父さんが言っていた復活の為の鍵、神の福音を奴らより早く奪う事を決意した。
「では……私たちだけで奪い取りましょう」
俺とソラは2人でアルキードへ向かった。もちろん俺は秘密の入国である。潜入したのが4月10日の事だ。それから数日に渡り俺は一人で城をくまなく探した。何度か兵士に見つかりそうにもなったがなんとか撒くことに成功していた。
城中を探し回ったがゴスペルは全く見つからなかった。ソラにそれを伝えると、
「もしかしたら王座の下の地下にあるのかもしれません」
そう言った。どうやらアルキードには秘密の部屋があるようで、王座の隠しスイッチを押すことでそこに入れるらしい。
俺は深夜になんとかそこに忍びこむことに成功し、遂に地下部屋からゴスペルと思われる金色の鍵を見つけた。
それを手に持った瞬間、鍵は光だしそして俺の腕の中へと光が入っていった。
ご丁寧なことにゴスペルには説明書のような本が付いていて、それを読むと大体のことがわかった。どうやらゴスペルとはスキルが付随している道具のようで発動させれば良いらしい。
簡単かつあまりにも雑なセキュリティのせいで疑いたくもあったが、どうやら本物らしい。そして俺は無断でソラを連れて家へと帰った。
「ろ、ロキ? それにソラも……君は今帰郷中じゃ……」
家に帰ってまず説明したのは兄さんへの現状の説明だった。時の石版の存在を知る兄さんは物分りが良く、すぐに俺に協力してくれると言った。
俺はゴスペルを父さんの手から守るため、そしてアルキードの滅亡からソラを救うためにソラと共に家を出ることになった。
俺は、兄さん以外にごく数人に真実を話し、家を出ることにした。そして家を出る前には、お世話になった人にお礼をして回った。
「ぼ、ぼっちゃま……」
「ごめんロルフ。いつかまた会おう」
「坊っちゃま……それがあなたの選択ですか……」
「ダマルティ、俺は後悔しないよ」
「……そうですか。どうかご達者で」
「ロキ坊っちゃま……」
「シーラ姉ちゃん、兄さんはよろしく」
こんな感じで俺は挨拶をしていったわけだが、一人だけどうしようか迷っていた人物がいた。レイである。
真実を話した場合、十中八九一緒に行くと言って聞かないだろう。そんな危険な真似はさせるわけにはいかない。だから俺は、真実を話さないことに決めた。
「なんですかご主人様。話とは? まさか愛の告白!?」
「いやそうじゃなくてだな」
相変わらずどこか気の抜ける。
「じゃあなんです?」
「あー……あのだな。まぁその……いつもありがとな!」
「……? なんですか急にやましい事でもあるんですか?」
「う……」
変なとこで鋭い奴だな。
「あの机の引き出しの奥の隠し箱に入っているいやらしい本のことならレイは全然気にしていませんよ?」
「なんでバレてんだよ!」
「ご主人様の事ならなんでも知ってますよレイは。でもその反応を見るにレイがあのえっちな本の女の人と同じ髪型や服にしてたのは気づいてなかったみたいですね」
「え?」
そうだったの? いや待て確かに……そう言われればそうだったな。やべえ鳥肌立って来た。
「今頃気づくとは驚愕です。ということはレイがご主人様の安眠を守っていることも知らないのですね」
「安眠?」
「ええ。ソラが毎夜ご主人様のベッドに忍び込もうとするのでレイがその度に妨害し、静かなる戦争が起きているのです」
「ソラが? ま、まさかぁ……」
いつもあんなツンケンしてるのにソラがそんなことするわけ……。
「まぁそこは良いです。それで? 本当はなんの御用だったのですか?」
「あ、ああ……いや、そうだな……レイ……ガラムから離れろ」
「え? そ、それはどういう……? まさかレイはクビですか? レイはいらなくなったんですか?」
「ち、違う違う、そうじゃねえよ」
レイがあまりにも必死な剣幕で俺に詰め寄って来たので、思わずたじろいでしまった。
「じゃあどういう……?」
「それは……言えないんだけど。ただ! 俺が次にレイに会うまでは、ガラムから離れててくれ」
「……何か深いわけがあるのですね。それは、命令ですか?」
「そうだ。何も言わずに従ってくれ」
「わかりました。命令とあらば、喜んで引き受けましょう、我があるじ」
「すまない」
こうして俺は家を飛び出し、エデンの復活を止めるためにソラと各大陸を回った。
そして迎えた6月7日。アルキード王国が一夜にして壊滅したというニュースが飛び交った。
「酷い……まさか本当に……」
ソラがそのニュースを見ながらそう言っていたのを尻目に、俺はソラが無事である事を心から安堵していた。
月日は流れ、太陽暦665年の一月のこと。巷では闇ギルドが認知され始め、恐れられるようになっていた。いつの間にか奴らは大きな組織になっていたようだ。
「彼らはいったい何を欲しているんでしょう……」
そして事件が起きた。いつの間にか軍事独裁大国としてガラム大陸を牛耳るようになっていたアヴァロン国が、ブルナーラ大陸に戦争を仕掛けたのだ。
「ロ、ロキ……」
「まさか……一国が、大陸に勝てるはずがない……」
だがアヴァロン国は尽きることの無いエデンエネルギーや、闇ギルドなどの違法者を全面的に使い、次々と勝利し侵略していった。
「神の福音を持っている国があるなら今すぐ言え。なれば殲滅は許してやる」
この台詞は父さんがブルナーラをほぼ制圧した頃にいった全世界への言葉である。
ブルナーラには他の大陸の国からも支援が来たが意味をなさず、時代はガラム大陸の物へと近づいていた。
「くそ……俺が出て行かなきゃみんなが殺される……! けど俺が行ったら世界が滅ぶ……!」
「ここは……何か策が見つかるまで耐えるしか無いです」
そしてその年の2月9日。五大陸を交えた長期戦争が始まった。その戦いは一年以上経つ今でも続いている。
俺とソラはあらゆる場所で書物を読み漁り色々な策を考えたが、もはや力も時間も、圧倒的に足りなかった。
――そして太陽暦666年6月5日。
「ロキ=アヴァロンだな。ガイスト様より、貴様を捕まえろという命令が出た。女の命が惜しくなければ来てもらうぞ」
いったいいつから気づかれていたのか。既にソラを人質に取られていた俺は逃げることもできず、ただただついていくしかなかった。
俺は父さんのいる玉座に縄で縛られた状態で連れてこられた。目が合う。もはや父さんの面影はどこにもなかった。
「ふん、生意気な真似をしてくれたな餓鬼が。ゴスペルを持っているのは貴様だな。さっさと渡せ」
「父さん……いやシャドウ! お前の目的はなんだ! なぜそこまでゴスペルを欲する!? なぜエデンの復活を望む!?」
「馬鹿が。そんなの決まっているだろう。エデンを復活させることは我々訪問者の悲願だ。考えるまでもない」
「アナザー……?」
なんだそれは聞いたことがないぞ。
「ふん、冥土の土産に教えてやろう。アナザーとはエデンが自身の封印を解くために生み出した者たちのことだ」
「封印を解くため……だと?」
いきなり突拍子も無い事を言われて頭が混乱する。
「エデンがなんのためにこの星にいるのか考えたことはあるか? エデンは星の生命を喰らって生きる生き物だ。そして星を吸い尽くしたらその星を去る。だいたい5000年ほどかけてな」
「な、なんだと……」
「しかし我々にも予想外のことが起きた。なんとたった一人の人間にエデンが封印されたのだ」
「たった一人……」
そんな力を持った人間がいたってのか……?
いや待てよ……まさか。
「ギルガメッシュと名乗ったその男は、およそ人間とは思えぬ強さを持ってエデンを封印することに成功した」
「ギルガメッシュ」
「だがそんな奴でもエデンを殺しきる事はできなかった。人間には寿命がある。寿命がないエデンは彼の死後時間をかけ、我々アナザーを生み出した」
「生み出したって……どうやって?」
エデンといえども人間を作る事は容易ではないはずだ。
「このガイストという輩のように、無尽蔵なエネルギーを欲する人間は腐るほどいる。そしてエデンの存在に気付き、近づいたものの精神を乗っ取っていくのだ」
「じゃあお前は……エデンそのものなのか」
「エデンでもあり、ただの一思念体でもある。我々は訪問者。この地球へのな」
「今までなんでお前たちは姿を現さなかったんだ」
「乗っ取った人間は全てが有能ではない。この人間のように力を持ち、ここまでやれる者が皆無だったのだ」
そういうことか……。
それで父さんはこんな事に。
「て事はお前以外にもアナザーはいるってことか?」
「そうだ。具体的に言うなら闇ギルドという組織はその為に作られたものだ」
「闇ギルド……最近活発な違法組織か」
くそ……今の俺じゃどうすることもできない。
「さぁ、話は終わりだ。ゴスペルは貰う。見たところ体には持っていないようだな。ならば拷問して居場所を吐かせるまでだ」
そう言うと、奴は兵に命じ、俺を牢屋へと連れていった。よく見るとどの兵も俺の知っている兵じゃない。エデン教の信者なのだろう。
牢にぶち込まれると、兵は俺に近づいて、
「拷問されるのは貴様ではなく女の方だ。嫌ならさっさと居場所を吐けとのことだ」
淡々とそう述べる。
「なに!? ソラに手出したらただじゃおかねえぞ! おいっ!」
と、俺が叫ぶと共にその兵がいきなり倒れた。
なんだ? なにが起きた?
状況がいまいちよくわかってないが、周りを見ると他の兵も全員気絶している。
誰かの足音が響いた。そっちを向くと、そこにはよく見知った顔があった。
「迎えに来たよ、ロキ」
「兄さん!」




