第5奉仕 アオと戦う事になりました。
それから、俺がメイドになる為の毎日が始まった。
リノルとトルマ、交代交代で行われ、毎日俺をしごきにしごいた。
その甲斐あってか、俺は一ヶ月である程度なら糸と意思を共有させる事ができた。
一ヶ月で……と言うか、糸の練習を始めた二日目で分かったことがある。
この世界、夜という概念がない。ずっと昼なのだ。
道理で寝付きが悪いわけだ。暑いったらありゃしない。
俺がこの世界に来て約一年……
俺は六歳に、アオは五歳になっていた。
この世界には五歳の誕生日には宝石を送って祝うと言うのが礼儀らしい。
アオは紫色の宝石を貰っていた。
そう言えば俺の部屋にも赤い宝石があった。
小さいが立派に輝いている宝石が。
五歳か……十歳とかも何かあるんだろうか?
俺はリノルに扱かれながら、アオがトルマから提案された武器を選ぶのを見ていた。
「アオ、ナイフ、針、糸。どれが良い?」
「私は……針が良いです」
「針かぁ……!! 針は難しいぞ!! お父様が言うんだから間違いない!」
針か……アオは針を選んだのか……
糸を選んだなら教える事ができたのになぁ。
「ルミナ。余所見はいけません。ほら、ゴブリンが来てるわよ」
「あ、はい」
そんな生活を送ること早十年。
俺のリブラは九に上がって新たなスキルも解放していた。
来週には立派なメイドとしてこの家を旅立つ事になる。
なんというか……色々と育ったなぁ。スキルも技術も胸も。
俺が城とも呼べる家をプラプラ歩いていると、珍しくアオの方から話しかけてきた。
「お姉様。少しお時間宜しいでしょうか」
アオも立派なメイド服に身を包んでいて、思わず十一年前の事を思い出させられる。
アオはあまり胸は成長していなかった。
身長も少し小さめで、可愛いくらいだ。だが、足が長く、モデルみたいで美しい面もある。
「はい。いかがなさいましたか? アオ」
「私はずっと貴方とは合わない面があります」
「なので、私は貴方と決闘を申します」
前々からアオが俺の事を気に入っていないのは分かっていたが…まさか決闘とは。
「良いでしょう。お相手致します」
「お庭に行きましょうか」
この庭とももうおさらばか……
「固有スキルの使用は無し。ルールはこれだけにしましょう」
「わかりました」
「それでは……行きますよ! お姉様!!」
「いつでもどうぞ」
にしても、針でどうやって戦うんだ?
やっぱり、飛ばしたりするんだろうな。
アオの飛ばした針は真っすぐ、一本だけ俺へと飛んでくる。
勿論、俺はそれをひょいっと避ける。
その次の瞬間、その針が普通では無いことに気がつく。
なんと、糸が括りつけられているのだ。
だが、この糸は俺が使っている物と同じ物ではない。普通の白い糸だ。
どうやらこの糸は、アオの小手と繋がれているみたいだ。
何か利用されたら厄介なので、俺はそれを即座に切り伏せる。
「流石ですね。お姉様。状況判断だけは早い」
「…………褒め言葉として受け取っておきます」
「それでは、私の番です」
俺は行動に迷った結果、シンプルに糸でアオに刃を振るうことにした。
そんなアオは自らの体に針を刺したと思うと、先程までとは見違えるような動きで、見事、糸を回避する。
「ッ……お母様並みでは無いのですね」
「ええ。まだその領域には至っておりません」
「ふんッ!!」
アオはすぐさま、針を三本を三方向に投げる。
だが、アオの投げた針は地面を突き刺す。
アオがこんな間違いをするわけがない。この十年間でアオが無意味な事をするわけがないと、十分に一方的な信頼は築けているのだ。
勿論、思考パターンも把握してきている。
つまり、アオの次の行動は……
「ええい!!」
アオは俺の狙い通り、三本の投げた針の内、二本目、真正面の糸を利用して俺に近づき、拳を構える。
「アオ、少々意図が分かりやすすぎます」
先ほど操った糸で、アオの行動を阻害しようとする。
だが、アオは先ほど自分に刺した針で身体能力が強化されていた。その獣並みの身体能力は簡単に俺の糸を回避した。
クッソ……こいつ速いな。追いつけない。
かくなる上は肉弾戦闘で……
「ふっ……!」
俺はアオの着地点に向かって右フックを打ち込む。
だが、アオは俺の予想とは裏腹に、しっかり体術もいけるタイプのメイドだったのだ。
俺の拳は簡単に受け流されてしまったのだ。
「糸は遠距離で済むけど、私は接近する必要がある以上体術も行けるんですよ!」
その後、姿勢を思いっきり屈めて、拳を構えたアオは俺の顔面に向かって拳を打ち込む。
ヤバい!! 右ストレート!!
防御!! 頼む間に合っ──
「グフッ……!!」
アオの拳の威力はそこら辺のプロボクサーを凌駕した威力で、俺は回転しながら1mほど吹き飛ばされ、立ち上がる。
「……やるじゃないですか」
恐らくリノルの鬼のような指導のおかげでとても頑丈に仕上がっていた俺の体は、かすり傷こそはいっぱいだが、戦闘を棄権しなければならないような深刻な傷は何もなかったのだ。
アオの針が飛んで来ている。
アオが中距離も体術もいけるとわかった以上、俺は戦い方を変えることにした。
糸でアオの攻撃を捌きつつ、アオの体を捕縛して降参させる。俺の中に一つの攻略ルートが浮かぶ。
「お姉様! 私を拘束するっていう魂胆が丸見えですよ!」
「くっ…」
昔から察しの良いアオは、俺の考えなんてお見通しらしい。
だからなんだ!!
こっちはアオより一年多くしごかれてんだ!!
怖いものはない!!
両手五指の糸をフル稼働してアオを捕まえる!
「やはりその糸、難しそうですねぇ! 10本となると私以外に注意がいかないんじゃないですか?」
いいや、これはブラフだ!
今アオは俺に一直線で向かってきている!
ならば、四肢を拘束する!
「【糸の捕縛】……」
「なっ……結構お速いんですね!」
「そうでしょう?」
ここで見せてやる!あの日リノルが俺に教えてくれた技を!
庭に糸を両手から計四本突き刺し! 後ろに退き、糸が強くなってきたら後ろに倒れそのままの勢いで突っ込む……
「【糸の矢】!!」
「なっ……グハッ……お姉様、体術いけたんですね……」
「…………まぁ」
俺は固有スキルを封じられると、この小手に頼るしかなくなるが、嘘も方便だ。ここはブラフで乗り切ろう。
「なら、私に勝つ術は無いです。勝負を降ります。ありがとうございました」
「随分とあっさりとしてますね。私はもっとやるものかと」
「勝てない勝負はやらない派ですので」
「……そうですか」
まぁ、一年も練習開始に差がついているから、俺が勝つのは当然だ。それはそれとして、アオもよくやったと思う。
「それでは……私はこれで」
え?もう行ってしまうのか?
「アオ、もう少し話しませんか?」
「嫌です。私はお姉様が嫌いです」
「…………そうですか」
俺は心の中でおじさんの涙をぐっと堪えた。
俺は自室に戻り眠ることにした。体は疲れていないのだが、精神が疲れた。




