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第4奉仕 戦闘訓練を開始しました

「ん……ん〜〜……ふぁ〜……よく寝たなぁ……」

「一日も眠れるなんて……良い家だなぁここは」


 窓から昨日と全く同じ様な日差しが部屋に差し込む。


「ルミナ。入ってもいいかしら?」


 起様に扉の奥からリノルの声が聞こえる。


「はい。どうぞ、お母様」


「体調の方はどうかしら? 良くなった?」


「はい。すっかり」


「そう。なら良かった。今日からメイドとしての最低限を叩き込むから、朝ご飯を食べたらすぐに庭に来ること」


「は……はぁ……わかりました」


 俺はメイドの最低限を疑う。

 ルミナの情報からはどう考えても完璧なメイドにしか思えない。


 この世界のメイドの価値観がわからないな……


 俺は特技の一つである、早食いをして、パッパと見るからに質素な食べ物を胃に詰める。


 メニューはリノルに聞けなかったからよく分からなかったが、サラダに見るからに脂身の少なさそうな肉、コーンフレークの様な主食だった。


 合掌し、ご馳走様を食器に伝え長い廊下を走って外へと向かう。


「お母様。食べ終わったので来ましたよ」


「おっ。それじゃあどれが良いか選んでね」


「選んで……とは?」


「ほら、そこのテーブルの上に三つの物があるでしょ?そこから選んでねって事」


 そこで、俺は迅速で完璧な理解を果たす。


 この世界は最強のスキルではなく最強の武器を用いて戦う世界だったか。


 俺はかっちょいいチート武器のご登場に、心を躍らせ、ワクワクがついつい顔に出てしまう。


 俺は剣が使いたい。やはり、男の子ならば誰しもが剣を選ぶのではないだろうか。

 いいや、選ぶだろう。


「さ、早く選んでちょうだい」


「わかりました!!」


 リノルから提示されたそれは、明らかにチート武器には見えないものであった。

 それどころか、言っちゃ悪いが普通の武器よりも弱そうな物ばかりだった。


「えっと……お母様、これは?」


「これはあなたが習うことになる武器種よ。ちなみに、私のイチオシは糸」


「じゃ、じゃあ……糸にします」


「わかったわ! それじゃあ、この小手を両手に着けてね」


「は、はい」


 その小手はよく見るような小手。だが、紫色の糸が何重にも巻かれているシリンダーと、恐らく糸を通すであろう小さな穴が第一関節と第二関節の場所にあった。


「それじゃあ、今日から糸の使い方について教えていくわ」

「と言うか、ルミナは固有スキルでもう扱えたりするかしら?」


「……わかりません。確認してみます」


 俺は目を瞑り、木を想像し、恐らく、スキルであろう物の葉を一枚一枚確認する。


 だが、そこに「糸」の名前はなかった。


「見た限りでは……使えません」


 目を開き、リノルの目を見てそう伝える。


「あら、そうなの?ならお母様と一緒に習っていきましょう」

「それじゃあ早速、野原に出るわよ」


「えっ野原……ですか?」


 クラリス家の庭の奥側に、確かに無整備であろう野原が見える。実際に、草の背丈は高いし、木の枝も無造作に生えている。

 もしかして、あそこに行くのか……?

 絶対嫌なんだが……


「ええ。ほら、お手々、繋ぎましょう」


「わ、わかりました……」


 俺はこの世界の外を始めてみる。と言うか、外自体が久しぶりだ。

 そこに、緑色の肌、尖った耳、尖った鼻。

 よく、ファンタジーで見るゴブリンが少し遠くに現れたのだ。


「ルミナ、あれはモンスターです」


「モンスター…ですか?」


「ええ。リブラを上げるためにはあれを倒す必要があるの」


「お母様。質問宜しいでしょうか」


「ええ。何かしら?」


「その……リブラとは?」


「リブラっていうのは簡単に言えば固有スキルの幅を広げたり強化したりする事に必要なポイントの事よ」


「なるほど。理解しました」


 なんだか本当にゲームの世界みたいだ。レベルアップ機能があるらしい。


「まず、お母様が手本を見せるから、真似してね」


「わかりました」


「ルミナ、まずはこうやって糸を展開するの。野原だと、障害物が少なくて少しやりづらいけれど」


 リノルはシリンダーから糸を出し、第一、第二関節の部位に空けられた穴から糸を通して、両手を広げる。

 すると、両手の糸が石や地面に突き刺さり、両方の糸が張る。


「ルミナ、私を矢と思ってみて。この二つの糸は弓」


「は、はい」


 リノルはゆっくりと後ろに退いて糸の圧力を強くしていく。


「ルミナ! これが溜めの状態! こっから一気に解放!」


「か…………解放……?」


 リノルは片足を突きだし、一気に力を緩める。

 すると、リノルの体は急加速し、ゴブリンへと向かう。

 そしてリノルは、ゴブリンを蹴り上げたのだ。


「ゴポォ!!」


「これを【糸の矢】と呼びます。わかったかしら?ルミナ」


「は、はい。ですが、最初からそれは無理では……?」


「あら、そう? なら別のを見せるわ」


「はい。お願いします」


「いい?ルミナ。この世の物体の動きを完璧に極めればどんな物でも鋭いナイフになるの」


「へ?」


 この人は何を言い出しているんだ?


「こんな風にね」


 リノルは左手の五本の糸を一つに収束させ、刃の様に左から右に一閃する。


「お……お母様、それは極めればの話では……」


「あら、そうだったわね。どれも初級レベルの技なのに……」


「お母様が初級を極めまくっているだけだと思います」


「あら! 褒めても何もでないわよ!」


「褒めてないです」


「う〜ん……それじゃあ、教えて欲しい物とかある?」


「糸の扱い方を」


「さっき見せたじゃない」


「あれは扱い方ではなく技です。操り方と言ったほうが正しいでしょうか」


「あ、なるほどね」

「この糸は自分の意思を読み取って動いてくれる代物よ。世間一般には出回っていない特注品なんだから」


「へぇ……」


 一体どんな物質で作られてるんだろうか。脳波を読み取ったりするモンスターが居るのか?


「ルミナ、実践しましょう。ゴブリンを探しに行くわよ」


「は、はい。お母様」


「お母様、あれゴブリンじゃないですか?」


 少し遠い所に見える緑色の肌をした生物を指差しリノルに伝える。


「あら、本当ね」

「それじゃあ、近づいてみましょう」


「はい」


 俺は音を立てずにゆっくり、そ〜っとゴブリンに近づく。

 できるだけ真っ向勝負はしたくない。不意打ちで倒したいのだ。


「…………ルミナ? どうしてそんなにコソコソしているの?」


「へ?」


「堂々と近づけばいいじゃない」


「へ???」

「待って!!お母──」


 だが、リノルは俺の制止も聞かずにガンガンそのゴブリンへと近づき、遂には蹴り飛ばしてしまう。


「コップァ!!!」


「ほら、ルミナ、その糸を使って倒してみて」


「わかりました!」


 わかりましたとは言ったものの、どうやって操ればいいんだろうか?いや、思ってる事を読み取ってくれるんだ。

 為せば成る、と言うやつだ。


「ふんっ!」


 俺はぶんっ! と腕を振り、リノルがやった様に糸で刃の様な攻撃を再現しようとした。

 糸はなんと、俺の意図を汲み取り、ひょろひょろと動いてくれた。


 戦闘の空気が凍てつき、全員の動きが数秒止まり、沈黙が訪れる。


「プシャアア!!」


「ウワアアアアアアアア!!」


「あら、ルミナ、そんな悲鳴出せたの? 可愛い♡」


「『可愛い♡』じゃないです! 助けてください!」


 追いかけてくる巨大なそれから、俺は必死に逃げつつ、リノルに助けを求める。


「駄目よ。これはあなたが倒さないと」


「いきなりモンスターと戦わせるのは鬼畜です!」


 俺は早速、糸を選んだ事を後悔していた。

 リノルがイチオシ、なんて言うから簡単で初心者向けなのかと思っていたが、蓋を開けてみれば超玄人向けのゲキムズ武器だったのだ。


 そうだ!

「ふんッ!!」


 俺は一つ、良いのを思いついた。そう、糸による拘束だ。

「プジャッ!」


 なんとか、ゴブリンの両手を拘束できた、そう思った矢先だった。


「グシャアアア…………」


 ゴブリンと狩られない為に必死の抵抗で拘束を解き放とうとする。


 力……強ッ……!

 いや、違う。ゴブリンが強いんじゃない。

 俺の体が弱いのか……!


「ッ……クソ……」

「お母様!力負けしてます!今の私じゃ勝てない相手です!」


「う〜ん……そうみたいね。だけどもう一回やってみない?」

「糸を刃物にしようとした時、力任せにやったでしょ?」


「はッ……早く! 早くして!」


「糸は力で操る物じゃなくて心で操る物なのよ」


「お願いです! 早く助けてください!!」


「……まぁ、いっか」


「ゴプァ!!」


 リノルはいとも簡単に、目の前のゴブリンを八つ裂きに切り裂いてしまった。


 ハァ……ハァ……助かった……


「ルミナ。『クソ』なんて単語、何処で覚えたのかしら?」


 ……あ。


 あまりにもピンチなあまり、ルミナを演じている隙がなかった。思わず、下品な単語が溢れてしまっていたみたいだ。


 どう切り抜ける……?

 考えろ……考えろ俺!


「えーっとですね……それは……」

「…………」

「夢の中に出てきた人が仰ってました!」


「…………まぁ、そう言うことにしておいてあげるわ。今日はもう帰りましょう」


「はい!」


 リノルの温情により、俺は注意も何も受けずに、平和に済ませることができた。

 本当に平和なのか、と言う問題はさておき、なんとか、一日目の訓練は無事に怪我なく終わらせることができたのだ。

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