第36奉仕 レムス王国に帰還しました
「ほらよ!! お嬢ちゃん、試着してみろ!!」
俺は言われた通り、三日経った後に、オヤジの店に訪ねていた。
「どれ……」
わぁ……もちもちしてる……
「小手の下敷きにクッションを入れたんですか?」
「おうよ! そっちのが長時間使えるしな!!」
「なるほど……サイズもぴったりです。糸も自由自在です。凄い腕前をお持ちのようで……」
「ハッハッハ!!! そりゃあ、俺が魂込めて打った一作だからな!大事に使えよ!!」
「はい。もし壊してしまったら、その時はまたお世話になります」
「おうよ!!」
ふぅ……なんやかんや、これがあると落ち着くんだよな。
武器屋のおっさんのお陰で使用感も良くなったし、良いことづくしだ。
「レオン様」
俺は店の前で待っていたレオンに声をかける。
「お、来たか」
「はい。受け取って参りました」
「乗れ。帰るぞ、ルミナ」
レオンが来い、とハンドサインをすると、そこにはオウロ馬車があった。
「はい」
そのオウロ馬車の中は何かうるさい。そう思っていたら、騒いでいたのはマナだけで、セレナは大人な対応を取っていた。
「セレナ! もっと聞かせてくれよ! 軍人だった時の話をよォ!!」
「…………マナにはデリカシーって物がないのかな」
「なんだと!?」
「ふふ、冗談だよ。でも、人との距離感は見極めて接そうね」
「わかってらァ……」
そんな二人の会話に、俺は首を突っ込む。
「私もセレナさんが軍人だった頃の話は気になります」
「そう? 思ったよりも人気だね」
「それじゃあ……何から話そうかなぁ」
「なんでもいいからよ、早く早く!」
「焦らない。あ、それじゃあ──」
人っ子一人欠けなかった、あの怪物の伝承が巻き付く死の山で、俺たちは多くを学ぶことができた。
絶望、希望……それに心。
それは極僅かな物かもしれないが、俺らを成長させてくれたのには違いない。
だが、その時にオウロ馬車の前方……いや、進路の方から幼く、低い女の声が聞こえる。
「おうおう!! 馬車など引いて、随分と呑気なもんじゃ!!」
それは紫色の髪を長髪に、無造作に散らしていて、軍服を羽織り、包帯でサラシを巻いていた。
黒いスカートに、タイツ。タイツは一部破れており、肌が見えていた。軍帽を被っていて、紫色の目をしていた。
だが、一つだけおかしな所があった。
左腕が一つだけ多いのだ。
「誰だ!!」
レオンがオウロ馬車の先頭に立ち、その魔姫と対話を試みる。
「ふむ……この中じゃ、小僧! 貴様が一番強いようじゃな!!」
あれは……魔姫……だよな?
なんなんだ? このドス黒いオーラは……
「我が名はディスコルディア!! 『争い』を司る魔姫じゃ!!」
「また魔姫か……最近は魔姫がよく出るなぁ……!」
「何のようだ!!」
「ここいらで一人死んでもらおうと……」
「ッ!」
レオンは一瞬で戦闘態勢に移るが、ディスコルディアと名乗った魔姫は、余裕そうに笑みを浮かべ続けていた。
「ガハハハ!! 冗談じゃ!! そう身構えるでない!!」
「真の目的は伝言と……」
「……伝言と?」
「まぁよい!! 伝言を読み上げるぞ!!」
「『世界の滅亡の日に一緒に踊ろう。最強の童、レオン・レムスよ』」
「……はぁ……?」
何を言ってるんだ……?
レオンが踊る……? 誰と?
「目的がもう無いなら、消えてくれ」
「もう一つは……『退魔の秘薬』の奪取じゃ!!」
「【凶弾】!!」
白い光線の弾丸!?
とても速く、高速で飛ぶ弾丸は、オウロさんへと真っ直ぐに飛ばされる。
だが、それを許さないのは我らが最強、レオン・レムスだった。
レオンはその弾丸を見てから動き、右腕で弾き飛ばした。
「やっぱり、魔姫は退治が必須だな」
「なっ……!! 硬すぎじゃろ!! どうしてあれを受け止めてノーダメージなのじゃ!!」
「僕が世界最強だからだ!!」
「【鎌斬】!」
レオンが技名を叫ぶと、ディスコルディアの右腕に鎌が現れ、ディスコルディアの右腕を切り飛ばす。
「うおっ!? なんじゃこれは!?」
「チッ……流石世界最強と言われるだけはある。我の腕が……まぁよい!! 後でくっつけて貰うかの」
「待て!!」
「嫌じゃ。我だって死にとうない」
「【迷彩服】」
その技名を発した瞬間に、ディスコルディアは姿を透明になって消えた。
「……気配ごと消えたか。追跡は無理だな」
「皆、怪我はないか?」
「ええ。お坊ちゃまのお陰で」
「そうか……それは良かった」
マナは少し考え事をしているようだった。
「なんなんだろうな……あいつが言ってた事」
その問いに、セレナも便乗する。
「そうね……誰からの伝言かも気になる所かな?」
レオンは取り敢えずと言わんばかりに、帰ったらやることを纏める。
「あぁ……帰ったらこの事を報告するか」
もちろん、俺もそれに賛成だ。クオンは戦力だろうし、警戒させておいて損はない。
「そうしましょう」
その後は特に何事も起きず、帰還することができた。
あの魔姫の伝言とそれを裏で操る黒幕が居ること。
そのどちらも謎に包まれたまま、俺たちはクオンに起こった事を報告する。
「なるほど……魔姫からの伝言か……」
「はい。お父様、何かわからないですか?」
レオンはダメ元でそう聞いてみるも、勿論、クオンは何も知らないだろう。
俺はレオンの後ろでメイドらしく姿勢を良くして、黙って突っ立っていた。
「う〜む……ガハハハ!!! 何もわからん!!!」
「そうですか……」
「それで……レオン!! 『退魔の秘薬』は無事に取ってきたか!!」
「いえ……薬っぽい物は見つける事ができませんでした」
「そうか……ガッハッハ!! まぁ良い!! 気にするな!!」
「その代わりと言ってはなんですが……この鍵のネックレスを差し上げます」
「ふぅむ……何故だ?」
「ごめんなさいの意味を込めているからです」
「俺そっくりに育ちやがって!! 良いだろう!! ありがたく受け取るとしよう!!」
「ありがとうございます」
「レオン、他に報告はないのか?」
「客人が来ています」
「客人? どんなだ?」
「ルミナの護衛を依頼された護衛人のマナと、元軍人のセレナです」
「そうか! 二人の固有スキルはなんだ?」
「何故そのようなことを……?」
「良いではないか!! 教え給え、レオン!!」
「はぁ……マナの方が『精神論』で、セレナが『弓』です」
「なるほど……礼を述べよう!! レオン!! 下がっていいぞ」
「わかりました。ルミナ、行こう」
「はい」
ふぅ……これで、一件落着だな。
長い間の休みが欲しい……
「じゃあ、お坊ちゃま。私はここいらで」
「あ、あぁ。ありがとう。ゆっくり休めよ」
「かしこまりました」
俺は部屋に入ると同時に、優しくベッドへとダイブする。
ふぅ……久しぶりの俺の部屋だ。
やっぱり自室という物は落ち着くなぁ。
当たり前だがな。ここだけは俺が俺で居られる場所だ……
「…………よし、隣人関係を深めに行くか……」
「ミノちゃーん」
って……誰も居ない……?
「…………ミウを訪ねてみるか」
……ミウの部屋から二人の声が聞こえる。




