第25奉仕 死山を登ることになりました
「さぁ、行きますか」
意気込みも何もなしに準備運動を始める俺とは対照的に、レオンは登山の作戦提案をしだす。
「あぁ……僕は『吸収』のお陰で飛べるが……三人はどうするんだ?」
「俺は7thで飛ぶから心配無用だ」
シャベルをアッカ山へと突きだしてそう言うマナ。
それに続いて、準備運動を止めた俺も口を開く。
「私も【糸】で登れば……」
「そうか。オウロは?」
「…………この手と足で登ってみせます」
「よし。オウロは僕が連れて行く」
登山なんて聞こえは良いけれど、所詮はただの移動だ。
ロマンがねぇよなぁ。
つまらん。
けどまぁ、登ってる最中は平和でいいわ。
本番は登り切った後だけどな。
俺は糸と【糸】を交互に活用して、アッカ山を登る。アッカ山に糸を突き刺して加速し、【糸】でバランスを取る。完璧だ。
ーーー数分後ーーー
少し登った程度なのにふらふらする……頭痛え。もう空気が薄くなってきたか。
まぁ、マジで植物がないからな……
モンスターも全く見ていない。
楽ではあるんだが……気を抜いたら落下してミンチになりそうだ。
でも、もうそろそろ頂上かな〜っと。
「─い! おい! ルミナ!」
酸欠だからか、マナの呼びかけに少しだけ認識に時間が掛かってしまった。
「……はい?」
「落石だ!」
マナの言っていた通り、上から大量の石が振り注ぐ。
「え? はぁ!?」
馬鹿か俺は! そりゃあ山なんだから落石くらいあるだろ!
また余所見で死にかけるのかよ……!
くっ……取り敢えず回避だ!
【糸の──
ーーー気絶ーーー
俺は何処か薄暗く、静かな場所で目が覚める。
くっ……ん……?ここは……?
スキルツリーじゃねぇか。なんで俺こんな場所に?
んで……やっぱ今回も寝てるのね。この少女は。
マジで何なんだ? こいつ。なんで俺のスキルツリーの空間に居るんだ?
俺が転生する前の人格なのか? いや、ルミナの姿と違うからそれはないか。
実は俺、隠れた二重人格だったりして。
ハッ……もしかして、人の精神の具現化……これが俺のスタ──
「─きろ、──ナ……」
ああ? なんだ? レオンの声……?
あいつ、スキルツリー空間に入るスキルもあるのか?
あ、違うわ。
「起─ろ、─ミナ!」
俺はすぐさま、自分が置かれている状況を理解する。
今、俺が危ない状況にあんのか。
でも、俺はこのスキルツリー空間で思考ができている。
なんなんだ……? 異世界の仕組みは本当に不可思議だな。
「起きろ、ルミナ!!」
「ゲホッゲホッ……私は、起きましたよ」
「良かった……良かったぁ……」
レオンは俺に抱きつき、意外なことに俺の胸で泣いた。
「お坊ちゃま……? 泣いてるんですか。まだ出会って一週間も経ってませんよ」
ここぞと言わんばかりに、オウロが口を開く。
「ルミナ様は落石で足を負傷されたのですが……その際の痛みで気を失ってしまったようで」
「傷はお坊ちゃまが完璧に修復されました」
「ですが……落下途中のルミナ様を誰も受け止める事ができませんでした」
「そこで助けてくれたのが、この方なのです」
「状況説明ありがとうございます。オウロさん」
その人は青いジャケットに白いドレス、金髪でロングヘア。目隠しをしていて、首からは紫色の宝石が入ったネックレスを垂らしていた。
だが、その女性は両腕が無く、その代わりと言わんばかりに、全身の筋肉がとても発達しており、女子の中ではガッチリとした体型となっている。どうやって俺を助けたのかが疑問だ。
「ありがとうございます。あの……なんとお呼びすれば良いでしょうか?」
「……セレナ」
「ありがとうございます、セレナさん。まだまだ未熟な私を助けて頂いて」
「別に……そんなに凄いことじゃないし」
泣き止んだレオンが俺の胸から顔を上げ、セレナに話しかける。
「目も腕も使わずにどうやって助けたんだ?固有スキルか?」
「うん……まぁ……そんな所」
「僕らはこれからこの山を登り、『退魔の秘薬』を取る。セレナさんはどうしてこの山に?」
「私は……復讐をしに、この山を登ってる」
空気が一気に凍てつく音が聞こえる。
復讐とは……また物騒な……
この目と両腕の借りを返しに来た! 的な?
そんな静寂を切り裂いたのはレオンだった。
「そうか。ついてくるか?」
「……ええ。同行させて貰うわ」
「だけど、私は目が見えない。それぞれ、名乗って貰おう」
「分かった。僕はレオン・レムス。世界最強だ」
「その執事の、オウロ・リーダムでございます」
オウロさんって名字リーダムなんだ……
「俺は護衛人、マナ・ファウス=トゥルス」
「私はお坊ちゃま……レオン様の専属メイド、ルミナ・クラリスでございます」
「なるほど……では、私も今一度自己紹介を」
「私はセレナ=ウィータ・ウルティオ。まぁ……元軍人だ」
レオンが少々目を光らせて、威厳を保とうと言葉を発する。
「元軍人か。なるほど、その筋肉の付き方を見れば納得だ」
「セレナさんの復讐相手は……」
「山の主だ」
「分かった。乗れ」
レオンは振り返り、大人が子供をおんぶする様な姿勢をとる。
「乗れ……?」
「あぁ、僕が頂上まで連れて行ってやる」
「それは……ありがたい事だが……大丈夫か?」
「何が?」
「いや……結構な重量になるが……それに、まだ子供の体躯なのだろう?」
セレナさんはどうやら、レオンがしっかり自分を支えることができるのかが心配らしい。
まあ、七歳の子が二十歳くらいを支えられるとは思わんわな。
「あぁ、そうだが。問題があるのか?」
「いや……ありまくりだ。その体躯でどう私を支えると……」
「僕は世界最強だぞ?」
「……そうだな。もういいや」
レオンの無茶苦茶な理論に諦めてセレナさんはそのままレオンに背負われる。
「てかお坊ちゃま、一瞬で頂上にぶっ飛べる方法はないんですか?」
「私もう落石が怖いです」
「無いな。あ〜……あるにはあるが、危険だ」
「そうですか……それでは、行きますか」
「あぁ……だがその前に、来客の様だ」
「来客?」
レオンが指を指すと、そこにはリアル版トレントのようなモンスターがいた。




