第19奉仕 ニコルと戦う事になりました
「お疲れ、ルミナ。結構苦戦してたな」
「……すみません、お坊ちゃま」
「いいや、良くやった」
「すみません、ミウ様……私負けちゃいました」
「いいのいいの! クラリス家相手に良く戦ったわ!」
「でも一つ、自己犠牲は辞めて」
「はい……」
「ルミナ様、ミノ様。こちらへおいでください」
俺らはメイドに呼ばれて、横一列に並べられる。
みるみる内に肉体の傷が塞がり、欠陥していた部位が骨、神経、肉、皮と修復されていく。
あ〜、これがクオンが言ってた回復か。
次の試合も万全で臨めるぜ〜。助かる〜。
「初めて処置受けたけど、雨みたいな感じなのね」
「気持ちいいですね、ミノ様」
「そうね! あんた、中々やるじゃない!」
「光栄です」
もう二度と戦いたくない相手だよお前は。
シンプルゴリ押しが一番キショい。
「さ、ルミナ。第2回戦だ。ニコルとの試合がもうすぐ始まるぞ」
「もうなんですか? もっと休息とかないんですか?」
「お父様に申請してくれ」
「承知致しました」
「クオン様、もっと休息が欲しいです」
「何? 足りないか?」
「はい」
「良いだろう! 試合開始は延長だ!!」
「ありがたき幸せ」
ふぅ! もうちょっと休めるぜ〜。
「お坊ちゃま、ニコルはどの様なスキルの持ち主なんですか?」
「ニコルは『笑顔』って固有スキルを持ってる」
「『リースス』?」
「あぁ、笑顔を作る世界一平和な固有スキルだ」
そんな会話の中に、ニコルは割り込んで話をする。
「そ〜そ〜。世界一優しいスキルだよ」
「ニコル、私は負けませんから」
「いや〜、勝てる気がしないヨ」
「意外と弱気なんだな」
「まぁネ。ライン家に勝っちゃってるし」
「僕は適当にやるからさ、適当に勝って」
「手は抜きません」
「そう。じゃ、お互い頑張ろうネ」
まぁ、あっちが手を抜くなら俺も手を抜いていいよな!
超ラッキーだぜ!
「クオン様。もう始めてもらっても構わないですよ」
「そうか!! では!! 第2試合の開始を宣言する!!」
「よろしくねー、ルミナちゃん」
「よろしくお願いします、ニコル」
「三! 二! 一! スタート!!」
「【笑顔の紳士】」
そのスキルを使用した瞬間に、ニコルの周囲の空気が紫色へと変色する。
警戒したほうがいいな。あの範囲に入らない方がいいだろう。
まぁ、俺は元々遠距離タイプだ。
遠距離チュンチュンしてニコルがウザがった所を叩く!
「【糸】」
「お〜、金属っぽいね。怖いことするなぁ」
ニコルは当たり前に、最低限の動きだけで【糸】を回避する。
……まぁ、避けるか。
「近づいてきても、私はそれを対策します!」
「お〜、ミノちゃんの時に見せたやつじゃん。つまんないなぁ。【笑顔の飛車】」
ニコルがそれを呟くと、よくおじさん構文とかで見るニコニコした絵文字そっくりの弾幕が射出された。
取り敢えず、避けた方がいいだろう。弾速は遅い。激しい動きは必要ない。
「君がそれに気を取られてた間に、僕はこ〜んなにも近づいちゃった」
あっ……あいつの領域内に入っちまった!!
「ふふ……いい笑顔」
俺の表情筋は上がったままで固定され、戻すことができない。
「なっ……笑顔が戻せない……?」
「【破裂する笑顔】」
「ぶっ……」
ニコルがまた新たなスキルを発動した瞬間、俺の表情筋は一気に元に戻り、その代わりに顔面を狙撃されたような感覚に襲われる。
俺はそのまま体勢を崩し、後ろに倒れてしまう。
体勢を立て直さなければ……
「はい、ばーんばーん」
くそ……! なんだ? 顔面を撃たれ続けている!! そう言うスキルか? だが、ダメージは少ない……!
「やめ……止めろ!!」
俺は一気に【糸】でニコルに反撃を仕掛ける。
「おっと、糸の群れ〜。それに、敬語の皮も剥がれ落ちちゃったねぇ」
クソ! クソクソクソ!! ムカつくこいつ……!
距離を取らないと……!
「ほらほら、早く距離取らないと〜。僕は無限に撃ち続けるヨ」
一定間隔で発射される笑顔の破裂は、俺に優位を取らせようとはしない。
「ぐっ……ボバッ! ……死ねえ!! クソカス!!」
「おお〜、怖い怖い。でも、糸も雑になって来てるんじゃない?」
「……ッ……! 【糸の矢】!!」
狙いは……腹!!
「グハッ……!! はい、キャッチ」
ニコルは腹に来た衝撃を受け止め、ギリリと両腕で俺の左足を掴む。
「……嘘でしょ?」
「残念ながら本当なんだ」
ニコルは俺の足を引き、腹へと拳を向ける。
「ふんッ!!」
「グボッ!!」
こ、こいつのパンチ……ザラザラしてやがる……!
腹いってぇ……
「クッソォ!!」
「……今度は糸でバリアか……僕はここから動かないよ」
【糸】でニコルの四方八方を包囲し、逃さない。ジリジリとニコルとの距離を縮めさせて、確実に戦闘不能にしてやる。
「……ちょっと、単純過ぎるかな」
「……ミノの様に単細胞では無いって事か」
そんな言葉に聞き捨てならないミノは場外から怒声を轟かせる。
「ちょっと!! どう言う意味よ!!」
だが……お前のフィールドはどんどん狭くなる……!!
「【偽の笑顔】」
くっ…、また……! 避けないと……
「【笑顔の飛車】」
「くっ……」
逃げ場が……ない!!
また……笑顔が……!
「【破裂する笑顔】」
ガッ……ぐぅ……!
こいつ……また……!
「ハァ……ハァ……」
「そろそろキツイんじゃないかな?ルミナちゃん。降参しなよ」
「笑止千万!!」
「おっ……この糸、鋭いね……本気かな?」
「基本攻撃だよ!!」
「ふ〜ん。そう」
「それじゃあ、そろそろ終わりに……!?」
ニコルの死角から【糸】が現れ、四肢を拘束し、その巨体を宙に持ち上げる。
「また捕縛!?」
「そうだよ……こいつこれを解く方法ないじゃん」
「さて……今まで良くも散々やってくれたな?」
「ぴえ〜許して〜」
「ダメ」
「ぴえ〜」
「降参をすると言え」
「【破裂する笑顔】」
俺の顔が再び、撃たれたように衝撃が加えられる。
「ルミナちゃんが近づいてきても、僕はこれでルミナちゃんの顔面をズタズタにする」
「倒れるのはどっちだろうねぇ」
「……【糸】」
【糸】は残酷にも、ニコルの両腕を切り落とす。
「えっ……あれ?僕の両腕は?」
「……降参したと言え。次は足だ」
「おっと〜……【破裂する笑顔】」
「あ〜ははは……いってぇ……」
「……化物め。だから僕はクラリス家と戦いたくなかったんだ」
「参った参った。もう辞めてヨ。肩も足も痛いよ〜」
「第2試合、終了! ニコル・アムリウスの降参により、勝者! ルミナ・クラリス!!」
「……良くやった、ルミナ」
「……当たり前です」
「ごめんネ。僕負けちゃいました、クオン様」
「ハッハッハッ!! 修行して再チャレンジだな!!」
「レオン様、ルミナちゃんに切られた腕治して」
「え、僕?まぁ、いいか……『再生』」
「おお〜、凄い。生えていく」
「お坊ちゃま、私も」
「あ〜はいはい、『再生』」
「ありがとうございます」
「それでは! 第3試合を開始する!! ミノ、ニコル! ステージに上がれ!!」
「ふん! やっと私の番ね!!」
「連続で戦うのきついよ〜」
「……ねぇ、お坊ちゃま」
「どうした、ルミナ」
「この試合、もう私関係ないですよね。寝て良いですか?」
「寝るの大好きだな……見届けてやれよ。専属メイド同士の決着だろ?」
「……わかりました」
「『打撃』!!」
「あは〜。【笑顔の飛車】。【破裂する笑顔】」
「……結構、意外とニコルがリードしてますね」
「そうみたいだな。近距離系には打つ手が無さそうだし」
「でもミノには遠距離攻撃がありますよね?」
「…………アホだから……」
「あ〜……なるほど」
ニコル……対人ゲーとかで敵に回したら嫌なタイプのスキルだな。
「あ〜……意地でも遠距離攻撃ミノ、使わない気かな?」
「さぁ……どうでしょうか?」
「やっぱり【破裂する笑顔】が厄介だな」
「あれをどうにかしないとミノは近づけない」
「お坊ちゃま、ミノが突破口が無いと諦めましたよ」
「思ったよりも早いな」
「はい。これでもう戦闘試合はお仕舞いですか?」
「いいや……表彰があるはずだ」
「なるほど、それを終えたら終わりですね?」
「ああ、そうだ」
「こほん! これより、戦闘試合の表彰式を始める!!」
「三位! ミウの専属メイド、ミノ・ライン!」
「…………」
「二位! 俺の専属メイド、ニコル・アムリウス!」
「やった〜」
「そして、光栄なる優勝者は〜〜……」
「レオンの専属メイド! ルミナ・クラリス!!」
「…………ありがとうございます」
「さぁ!! これにて解散!! 各自戻る様に!!」
「ごめんなさい、ミウ様」
「いいのいいの、ミノは頑張った!!」
「お坊ちゃま、戻っていいですか?」
「あぁ、戻るか」
「レオン!! ルミナ!! 待て!!」
なんだぁ……? 人がクタクタで休みたいっていうのに……
もしどうでもいい事ならボコボコにボコして──
「二人に頼みたいことがある」
「なんですか?お父様」
「二人にはとある所にあると言われている“秘薬”を探しに行って欲しい」
「秘薬……?」
「その秘薬を飲めば、動物の死骸から発生するモンスターであるゾンビやスケルトンがただの死体や骨に戻る事から、『退魔の秘薬』と名前がついている」
「はぁ……で? その秘薬は何処にあると?」
「あぁ、ここのレムス王国から220km程離れた所にある『ファウス=トゥルス王国』の『アッカ山』の山頂にあるらしいんだ」
「らしいって……そんな無責任な……」
「行ってくれるか! レオン、ルミナ!!」
「え……えぇ……」
めんどくせー……220kmも離れた所に行きたくねえよ。
でも、俺からは何も言えないし……レオン! 頼むぞ!!
「わかりました! 僕たちにお任せください、お父様!!」
バカガキが!!
「ハッハッハ!! 頼まれてくれ!!」
「それでは、一週間後に出発だ! 気合入れとけよ!!」
「はい! わかりました!」
「了解致しました」
クッソ〜!! 俺の異世界の館での平和なほのぼのスローライフは無いって事か……
ダラダラできるの一週間しかねえ〜……噛み締めるか、この一週間を。




