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第7話 決戦


 津田山大学病院の研究特別病棟。ここが異世界転生サービス――ITSの協力病院だ。佳織たちはそこに3人で訪問した。ここの5号室には新城会長が入院している。


「ここで神経ニューロハック・インターフェース――NHIの装着ができるのですね」

「ああ、医療行為を伴う行為は難しいので頭部への装着はできないが、運動系の神経は首から下に取り付ければ『ハック』できるそうだ」

「まだ、臨床試験が済んでいないので安全性は保障されないけど君は良いのか」


 佳織はうなずいた。

 矢向が近づいてきて言った。

「ではこれをつけて準備してください」

 渡されたものはオムツだった。


「これから24時間連続でログインします。当然飲み食いなどはできません。さらに長くなれば、点滴で栄養を補給することになると思います」

「看護師さんがついているので安心してください。できれば水分は控えたほうがよいかもね」


 佳織が軽口をたたく。

「中原さん、将来に向けての予行演習になってよかったですね」

 中原は少しふくれて言った。

「長寿になった現代ではいずれみんなオムツをするようになるんだよ。恥ずかしいことじゃない」


 3人は並んでそれぞれのベットに横たわった。首にNHI装置を取り付け、さらにモニター付きのヘッドセットを装着した。

 NHIが起動する。しばらくすると手足が動かせなくなった。


「ではログインします。場所はとりあえずルクセンの町はずれです」

 声は聞こえる。目も見える。目の前のモニター画面が切り替わった。

 いつもの場所に現れた3人はゆっくりと体を動かした。


「すごい。本当に自分の体みたい」

 佳織は剣を振ってみた。

「この反応速度なら会長と互角に戦えそうね」


 佳織たちは、ルクセン町の転移ポイントから討伐隊の拠点近くの転移ポイントへ移動した。魔族領のエハンスの町のはずれにある転移ポイントだ。討伐隊は渡河に成功しており、エハンスの町に迫っていた。


 佳織たちが討伐隊に合流する。討伐隊はエハンスの町に近づいたところで何度か魔物の集団に襲撃され、進撃は止まっていた。


 佳織たち「勇者」はその都度出陣し、「赤の石碑」を排除していった。


 魔族側の最終防衛ラインが見えてきたところで次の作戦に移った。ロンタル将軍の隊が魔族軍を戦場に引き付ける間に、佳織たちが魔王城へ潜入、魔王と対決することにした。前回の討伐隊と同じ戦術だ。


 今回は魔王城の地下に転移レリーフを置かせてもらっているので、潜入は簡単だ。


 準備ができて中原が言った。

「では魔王城に行こうか。魔族側は魔王討伐隊撃退のため、兵の大半は戦場にでているので今なら手薄なはずだ」

 佳織が気合を入れて言った。

「本格的な衝突が始まる前に、魔王を倒しちゃいましょう!」

 佳織はジーラに渡したレリーフと対になるレリーフを取り出し、3人は魔王城の地下に転移した。

 転移後、3人は邪魔されることなく魔王の間の前に到着した。


「今から魔王の間に入ります。準備はいいですか」



「待っていたぞ。勇者諸君」


 新城が玉座に座っている。周りには側近が控えている。ジーラもいた。


「願いを叶えたければ余を倒してみよ。だが、この大魔王クリストファーには傷一つ負わすことなどできまい」


 矢向が訊いた。

「新城さん。なぜそんな芝居がかった言い回しを?」


「フフフ。魔王プレイに少しあこがれていてな。言ってみたかったのだ」


 中原が調子に乗って叫ぶ。

「魔王よ、われは勇者タッカー。貴様の野望は、わが槍、この聖槍カシウスで砕いて見せよう!」


 佳織は矢向に訊いた。

「あの槍ってそんな名前だっけ?」

「さあ……王様がくれた聖なる武器はこれだけですよ」


 答えながら矢向が新城に切りかかっていった。聖剣を振り回す。何度か剣を交えて打ち合った。矢向が少し押しているように見えた。

「今度は簡単に折られませんよ。こちらも聖剣ですからね」

 矢向の剣が新城の右胸に当たった。新城が少し下がって傷を押さえた。矢向が次の斬撃を繰り出す。


 新城が小さくつぶやき、剣を振った。

「ブレイクソード」


 剣と剣がぶつかり、矢向の剣が折れてしまった。剣を強化し相手の剣を折るスキルらしい。


「ははは、剣は同じ聖剣でも技量の差はでるようだね。それに君の剣では私に傷をつけることができないよ」


 さっき切られた右胸は何ともないようだ。矢向は気づいた。

「まさか勇者の胸当て!」


 中原が矢向をかばうように槍を突き出した。

「その槍さばきは中原君だね。久しぶり」


 新城は軽くいなして飛びのいた。


「会長、ログアウトしてくれませんか。わたしの職がかかっているんです。私だけでなく、そこの彼女をはじめ多くの社員が混乱してしまいます。助けてください」


「なら、一層全力でかかってこい。私は逃げも隠れもしないよ」


 新城が中原の槍をめがけて斬撃を放つ。槍先が砕けてはじけ飛んだ。

「中原君、まだまだだね」


 今度は佳織のほうを向いて身構えた。


「パパはそうやっていつも周りの人に迷惑をかけて生きていたの」


 新城は少し驚いて言った。

「君は、やはり佳織か。そうか。鹿島田のやつ……」


 この時、新城に少しのスキができる。刹那、佳織の剣が新城の胸を貫いた。これで防具の耐久力はすべて削れたはずだ。


 新城は胸を押さえて言った。

「それは魔剣だな」


 新城はジーラの方を見た。すべてを悟ったようだった。

「わかった。私の負けだ。約束通りログアウトしよう。準備が整ったら連絡してくれ」


 新城は剣を捨てた。

「それと佳織。大きくなったな」



「中原さんは佳織さんが会長の娘と知っていたんですか」

「ああ、新城さんが病気になったころから密かに調べて見守っていたんだ」

「でもまさかこんな再会をするとはね」


「皆のもの聞け! この人類種たちは私に傷を負わせた。人類種にはもったいない英雄だ。彼らの勇気を称え、これ以上の争を禁じる」


 魔王の側近の一人が訊いた。

「魔王様、外の戦場の討伐隊とやらはどうしますか」

「この英雄たちは私を倒すことが目的だった。目的が叶ったのなら、これを知れば討伐隊とやらも、すぐに撤退するだろう。結界を張り巡らした戦線を突破することはできず、これ以上の戦いは無意味だと知っている」

「敵のロンタル将軍はそういう男だ」


「ジーラ。わたしはしばらく留守にすることになる。私が戻るまで後を頼むぞ。」

「魔王様。すべては魔王様の御心のままに」


「では皆のもの、しばしの別れじゃ」

 そう言って新城は広間の奥へ行き部屋から出て行った。


 佳織たちは新城が捨てた聖剣を拾って大広間の出入口へ向かい部屋を後にした。

 部屋を出る際に佳織はジーラのほうを見て小さくうなずいた。


 3人は魔王城地下のレリーフから討伐隊の本陣にあるレリーフへ転移し、一息ついた。

 矢向が言った。

「これでミッションクリアですね」

 中原が答える。

「ああ、我々のミッションはクリアしたな。だが結果がどうなるかはわからないな」


「ロンタル将軍に報告してきます」

 矢向は証拠の品となる新城の聖剣を持って、ロンタル将軍に会いに行った。


 矢向が戻り、戦闘が終結したことを伝えた。


 佳織が疑問を口にした。

「そういえば、ジーラさんとは「何」なんでしょうね」


 矢向が答えた。

「会長は彼女を『可能性』と呼んでいたそうですね。ジーラさんの行動や思考パターンは通常のNPCや、輪廻サーバーで管理されている転生NPCとも違って、そう、まるで私たちと同じような自我を持つ人間のように感じました」


 矢向は続けて言った。

「もしそうなら我々は自我を持つ知的生命体を作り出したことになります」


 中原が質問する。

「それがどうして『可能性』なのかね?」


 矢向は答えた。

「僕は知的生命体とはAIと違って無から有を作り出すものだと考えています」

「もし彼女の記憶領域や処理領域を拡張し、ゲームクリエータとして教育を受ければ、私や会長でもおよびつかないゲームを作るかもしれません」

「もし、政治家や経営者として教育を受ければ……」


 中原が言った。

「彼女を社員として雇えば、さぞかし優秀な社員になるだろうね」


 矢向は続けた。

「今、彼女の魂は輪廻サーバーにリンクされています。この世界がなくなっても魂は保持されます。私はそれがどのような結果を持つかわかりません。しばらくは我々だけの秘密にしておいてくれませんか」


 中原はうなずいた。


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