第4章 王都観光
次の日もテストルームに集合した。休日だというのに会社の中は人が多い。さすがゲーム会社の開発部だ。労働基準法はどこにあるのか。
「準備ができたら早速ログインしましょう。」
いつもの石碑の前にログインしたあと、黄色い石碑の元に移動した。
「ここからリープクリフト王国の王都ベルンへ向かいましょう。オリビアさんの営業アバターの固有スキルに転移魔法があります。王都近くの石碑が指定できるので移動しましょう。」
王都近くの森の中に転移したあと、王都に向かう。
王都ベルンはさすがに人が多い。町も大きい。ルクセン町の5倍はありそうだ。町の出入りには特に制限はなさそうだった。矢向の案内で宿屋に向かった。
「すいません。勇者の間はあいていますか。こちらの騎士団長にふさわしい部屋だときいたのですが。」
宿屋の主人が答える。
「はい。少々お高いですがご利用できますよ。」
「では頼みます。あと我々が泊まる安い部屋を二つ。これは当面の宿代です。」、
これで王都の拠点ができた。
部屋に入ると荷物を置いて勇者の間に集まった。
矢向は部屋の壁に飾られた勇者のレリーフを指して言った。
「この部屋は昔、大魔王を討伐して国を救った勇者を称えて作られた部屋です。あのレリーフは勇者の仲間が作成したものです。」
佳織がレリーフを見て言った。
「かっこいい人ですね。」
中原が少し嫉妬したように言った。
「ちょっとかカッコつけすぎじゃないか。これ。」
矢向が少し笑いながら言った。
「大魔王討伐後に勇者の銅像やレリーフが作られたのですが、ポーズを何度もやり直させたそうですよ。」
中原が少しカッコをつけて言った。
「せっかく来たので情報収集を兼ねて観光したい! 君はつらく苦しい冒険がしたいのかい。僕は楽しい冒険をしたいんだ。・・・・。」
「お供します。勇者様。ユーリさんはどうしますか。」
矢向は少しあきれて二人を見た。
「私はとりあえず王国軍の詰め所に行ってきます。前回の討伐隊派遣時に死んだと思われているので。」
佳織と中原はとりあえず冒険者ギルドに向かった。情報収集のためだ。が、中原はギルドの受付嬢に観光名所を聞いている。
佳織はギルドの依頼掲示板でどのような依頼があるか見ていた。
依頼:墓地に現れる魔物を何とかして。
雨上がりの朝、墓地に魔物が現れます。スライムなどの低級魔物ですが、いくら倒してもまた雨が降ると現れます。何とかしてください。
佳織は中原を呼んで依頼文を見せた。
「これってアレですよね。きっと。」
「そうだね。」
「私たちなら石碑が見えるので解決できるのでは?」
「宿に帰ったらユーリ君と相談してみよう。」
「さっき受付のおねーさんに聞いたら、今、王都では勇者の軌跡巡りが流行らしいんだ。勇者の生家やパーティ結成地、最初の戦場、勇者が眠る墓地などね。」中原はつづけた。
「観光ルート化されているので楽にめぐれるそうだ。ちょっと行ってみないか。ここから近いのは墓地かな」
「墓地ならさっきのアレ、受けてから行きませんか。」
佳織たちはさっきの依頼を受領し、墓地に向かった。
夕方になり、3人は宿屋の勇者の間に集合した。
「町の様子はどうでしたか。」
佳織はウキウキしながら数枚の金貨を見せ答えた。
「ギルドで面白い依頼をみつけてこなしちゃいました。これは報酬です。」
中原は袋の中から雑誌ほどの大きさの2枚の「勇者のレリーフ」を取り出しながら言った。
「これはその時ついでにもらってきたお礼だ。」
「これ、石碑と同じように魔素が近くにあると発光して見えなくなるんだ。その状態で赤く発光しているレリーフに水やほこりなどがかかり、魔物が発生していたようだった。」
「私とタッカーさんで問題を解決したお礼に何枚かもらってきました。」
矢向はレリーフを手に取り、懐から魔素石を取り出し近づけた。レリーフは黄色く光り始めた。
「簡易的な転移機能が生きていますね。それぞれがお互いの転移先になっているようです。
オリビアさんなら扱えるでしょう。」
佳織が訊いた。
「ユーリさんはいかがでしたか。」
「実は明日、国王陛下に謁見することになりまして、オリビアさんたちを勇者として紹介します。」
「明日、勇者に見えるように服装などを整えたら王城へいきましょう。」
「なお言葉遣いには気を付けてくださいね。」
矢向は中原の方を向いて言った。
「昔、王様にタメ口をきいて罰を受けそうになった勇者がいたらしいです。」
「本日はとりあえずこれで終了です。この宿屋の勇者の間はセーフティゾーンになっているのでログアウトできます。」
矢向は部屋の真ん中の勇者の姿が書かれたレリーフの前に、魔素石を取り出し置いた。レリーフが青く光りだした。
翌日、3人は宿屋の勇者の間へログインした。
「今日は国王カール2世陛下に謁見します。町で衣装を整えましょう。」
「武器などは持ち込めませんのでここに置いていきます。」
「国王はどんなかたでしょうか。」
「私も前回の討伐隊の出陣式の時に一度見かけただけで話したことはありません。町のうわさではプライドの高い小心者という感じでしょうか。」
「今回の討伐隊も裏切られた勇者に対する意趣返しの面が大きいそうで、王国の総意ではないようです。」
「側近のロンタル将軍はいかにも武人といった感じで信頼できる人です。討伐隊の責任者として、前回の討伐隊の時に私たちと協力して戦ったのですが、討伐隊を動かすこと自体には反対していたようでした。」
「どうして反対しているのですか。」
「好戦的であった前の魔王が会長によって倒され、魔族は弱体化しています。無理に魔族領に攻め込まなくても王国は安泰だと考えているのでしょう。ただ、第一次討伐隊の時に、共に戦った会長に裏切られたことが、以降の討伐隊の指揮を執っている理由です。」
「「俺が奴の目を覚まさせてやるっ」とよく言っていました。」
「念のためそのレリーフも持っていきましょう。魔素を注ぐと見えなくなるので大丈夫です。」
3人は町の服屋で謁見式に耐えられる服を購入し着替えた。
「タッカーさんは結婚式の新郎みたいですね。」
「そうゆう君は宝塚の男役みたいだ。嫌いじゃないね。胸のカスタマイズを戻したらもっと良くなるよ?」
「セクハラになりますよ、部長。」
矢向は騎士の礼装姿だ。
「我々もそれでよかったのでは?」
「いや、タッカーさんとオリビアさんは異世界の勇者として紹介しますので王国の騎士の恰好ではだめですね。」
午後になって、準備が終わり3人は王城を訪問した。
謁見の間に案内され、しばらくすると国王らしき人物が現れた。側近を何人か連れている。中でもいかにも将軍といった感じの人物がロンタル将軍のようだ。
矢向がロンタル将軍に促され、国王の前にひざまずいた。
「陛下、申し訳ございません。わたくしたち特攻隊は魔王に肉薄したのですが、あと一歩のところで倒せませんでした。剣を折られ、仲間を倒され、気が付いた時には魔王の魔法で異国に転移されてしまいました。なんとか戻ってきたのですが、その途中で異世界の勇者たちと遭遇しました。彼らが異世界の勇者・剣士オリビア・タイラーと槍術士タッカー・フィールドです。」
矢向は佳織たちを紹介した。
「で、その者たちは本当に勇者なのかね。」
「ええ、彼らは勇者特有のスキルを持っております。またルクセン町で巨大スライムを討伐したのも彼らです。」
「彼らでああれば、魔王クリストファーに対抗できると信じています。」
ロンタル将軍が言った。
「では何か力の一端を見せてみよ。」
佳織が矢向を見ると矢向は背中に隠していたレリーフを取り出し、一つを佳織の近くに、もう一つをロンタル将軍の背後に投げた。音はしない。
佳織はうなずき、言った。
「では陛下、勇者の力の一端をお見せしましょう。」
佳織は転移を使かい、ロンタル将軍の背後に転移した。剣はないので手を伸ばし、首を討つ格好をした。スキル「見切り」で当たらないのは確認してある。
周りがどよめいた。
「あのロンタル将軍が背後を取られるとは」
「これは素早い。閃光の勇者クリストファー以上かもしれぬ。」
カール2世王は満足して言った。
「よろしい。あなた方であればあの魔王を倒すことができるかもしれぬ。頼むぞ。」
「そうだ、魔王を倒すためにはやはり聖剣が必要なようじゃ。宝物殿の中から過去の勇者が使った聖剣をそなたたちに授けよう。」
「討伐隊本隊はすでに魔族領に向かっておる。そなたたちも早速合流してくれ。決戦は7日後じゃ。詳細はこのロンタルと詰めるがよい。」
謁見が終わり、佳織たちはロンタル将軍と魔王打倒のプランを詰めた。
一週間後に現地で合流することを約束し、王城を後にした。




