12話:追いかけっこの行く末
俺は、今とある美少女から追いかけられている。
普通なら喜び、死んでもいいと思えるようなシチュエーションである、非モテ男の俺からすれば。
それにその美少女は笑っている。
しかし、その手には血のついた剣が握られていた。
さあ、これでもう分かっただろ?
今の俺の気持ちが。
「だああああっ!もう!付いてくんなよ!いい加減諦めろ!」
「ヤダ!絶対、一宮元春お前を殺す!」
「女子がそんな物騒な事言っちゃいけません!」
涙目でコンチクショーという意味合いを込めて言った言葉に、寛西は嬉しそうな顔をする。
そして、急に俺を追いかけてくるスピードが速くなる。
「ぎゃああああああっ!助けてくれ!」
逃げ惑う俺に、寛西は容赦なく剣を振る。
(もう、俺泥棒になれる気がする。この逃げ足で。)
俺は、やや現実逃避気味になっていた。
「ほらぁー、ちゃんと戦わないと…あたし、うっかり一宮元春殺しちゃうよ?」
「うっかりで人を殺すなよ!」
「まだ、殺してない!」
何やらコントのようなものを俺達は繰り返している。
いきなり寛西が足を止める。
そして、右を見た瞬間、花菜が寛西の顔面めがけて回し蹴りをする。
しかし、寛西はそれを軽々と避ける。
「おっとっとぉー、あぶねー。あぶねー。」
寛西は、悪魔のような笑みを浮かべ、花菜に向かって剣を一振りする。
花菜は、軽やかに宙を舞い避ける。
寛西はヒュウと口笛を吹く。
俺は、そのうちに現実逃避…じゃなくてその場から逃げようとするが何かよくわからんふにゃふにゃした壁にぶつかった。
上を見上げると、熊がいた。
緑色という奇妙な色をした。
「よっしゃ!いいぞ、くまたん。そのまま一宮元春を捕まえて!」
そう言った瞬間、熊の手が伸び俺は、熊にホールドされた。
「離せよ!コンチクショー!」
最初は、暴れていたがだんだん疲れてくるもので諦めた。
諦める代わりに暇だったため、花菜を応援することにする。
「花菜ぁ〜、頑張れー。そして、俺を助けろー。」
花菜は、嬉しそうに少しだけ笑みを浮かべる。
寛西は、面白くなさそうに頬を膨らませている。
「はぁー、暇だな。おいっ、熊何か面白いことしてくれないか?」
そう熊に話しかけたが、熊は話を聞いている素振りを見せない。
それに少しいらっとしたのだが、我慢する。
そして、寛西が熊のことを確か『くまたん』と可笑しな呼び名で読んでいたことを思い出し、呼んでみる。
「おいっ、くまたん。」
そうすると、熊はゆっくりとこっちを見てきた。
(これなら、『くまたん、離してくれないか?』ってたのんだら離してくれそーじゃないか。)
だから、言ってみた。
「おいっ、くまたん離してくれないか?」
すると、当然熊は首を横に振った。
(あっ、意外としっかりしてんのね。)
俺は、くまたんを馬鹿にしたことを少しだけ恥じる。
(ごめん。くまたん、俺お前のことちょっと…いやかなり馬鹿にしてたよ。)
心の中で詫びた。
すると、くまたんが俺の頭にスリスリしてきたのだ。
なんか、可愛いな。愛着が湧いてくる。
「くまたん、許してくれるのか?」
そう俺が聞くと、くまたんは身体からもう1本腕を出し、親指を立て、『good』のポーズをとる。
「ありがとう!」
俺は、くまたんに抱きつこうとしたが、あいにく俺の腕はそのくまたんに掴まれたままで抱きつけないため、頭だけくまたんにスリスリした。
さっきスリスリしてくれたお礼も兼ねて。
一方................................................
花菜と寛西の戦いはどうなったかと言うと…。
最初、ガンガン攻めまくる寛西の優勢かと思いきや、寛西の息が乱れてくる。
花菜の裏の得意魔術『無気力』。
「ハァハア。──────っ!」
(なんか、急にめんどくさくなってきた…って考えんのもだるい。)
「…。」
そして、ついに寛西の攻撃が止まる。
その隙に、花菜は寛西の腹に拳をめり込ませ、気絶させる。
勝者は、『花菜』だった。
「ご主人、勝ちましたよ。」
にっこり笑う花菜に俺は、『ごくろーさま』と言った。
寛西が負けたことで、くまたんは消えてしまった。
俺は、少しだけ寂しくなる。
(くまたん、また会おうな。寛西がいない時に。)
「花菜!」
「はい。」
「逃げるぞ!寛西が気ぃ、失ってるうちに。」
そう言って、俺達は走り出す。
その足取りは、意外と軽かった。




