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雑草令嬢が王子らの溺愛を全力スルーした結果~王太子からの求婚はいらん、青春をくれ!~  作者: ゆいレギナ
1章 雑草令嬢、花の学園に入学する

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4話 誇りをもって

ワンコのイメージはポメラニアンです。


 そういえば、両親が執拗に言っていた。


『学費だけで精一杯で……』

『ナズナなら一人でも大丈夫よね?』


 なるほど、従者の重要性が分かったうえで、用意できないことを言っていたのか。


「場違いだって、あとに引けないもん」


 たとえ従者がいなくても。

 みんなと目的が違うのだとしても。

 両親が私の玉の輿を狙っている可能性が高いのだとしても。


 私の夢は、変わらない。

 私は自分の力で、王城書記官になって、借金を返済する!


 気合を入れて、教室に入る。

 ここまでの冷ややかな視線も痛かったけど、クラスメイトの視線はもっと痛い。


 友達や、従者に対してコソコソ始めるクラスメイトたち。

 耳障りな陰口には耳を貸さない。

 代わりに、私は教室の一番後ろに座っている生徒に目が行った。


 そう、同じクラスだったアネモネちゃんだ!


 お礼が言いたかった。

 何も知らない私に、従者のことやみんなのことを教えてくれてありがとう、と。


「アネモネちゃん、さっきは――」

「あら、ごめんなさい」


 アネモネちゃんの所へ向かおうとするも、他の子にぶつかられてしまう。

 アネモネちゃんはふいっと、頬杖をついて視線を逸らしていた。


 だけど、お礼は早いに越したことはない。

 めげずに、アネモネちゃんに話しかけようとしたときだ。


「あなたの席はこちらでしてよ」


 さらに知らない子が、私の肩を押しながら席を案内してくれる。


 あれ、やさしい?

 てっきり、みんな私のこと、嫌いなのかと思っていたけど。


「あ、ありがとう!」


 なんだ、普通にいい人だっているじゃない!

 アネモネちゃんはもちろんだけど、他の子とも友達になれるかも。


 私はそう淡い期待を持ちながら、案内された真ん中あたりの席に座ろうとしながら、この機を逃すまいと口を動かす。


「私、ナズナ・フェルミエっていうの。あなたの名前は――」

「まず机をご覧になったほうがよろしいのではなくて?」

「え?」


 悪意に満ちた笑みが、私を見下ろしている。

 私が確認すれば、机は黒い文字で覆われていた。


『早く帰れ』『場違い』『貧乏人』など、悪口ばかりで。


 再び、令嬢や従者らの嘲笑が私を包む。


 あぁ、そういうこと……。

 入学式の悪目立ちが、そんな悪いことだったのかな?

 ライバルが減るんだから、むしろみんなにとっていいことじゃないの?


 さすがに、心が折れそうだ。 

 目じりに浮かんだ涙を、そのまま零してしまおうと思ったときだ。


「皆さま、お揃いですか? 従者の方々はご退席を」


 先生が教室にやってくる。

 その声かけに、従者が一斉に教室の外へ向かう。その際、一人の従者がガタンと私の机を蹴飛ばしてきた。お腹に当たって痛い……。


「おや、失敬」


 だけど、謝罪はそれだけ。

 私は俯いたまま、曲がった机を直そうとする。


 そのとき、とある一つの悪口が目に入った。


『雑草』


 ふと思い出すのは、四歳くらいのときにアネモネちゃんに言われた言葉だった。

 昔、私は聞きたくないことも耳に入ってしまうせいか、いつもオドオドとしていた子どもだった。


 だけど、ひょんなことからアネモネちゃんと仲良くなって。

 オドオドしていた私を、アネモネちゃんはいつも守ってくれて。


 私の前に立つアネモネちゃんの背中が、いつもカッコよくて。

 だいすきで。あこがれで。

 こんな風になりたいって、いつも思っていて。


 ある日、ふたりで遊んでいたときのこと。

 一緒に中庭を散歩していたら、花壇の境に一本だけ生えたナズナを見つけたのだ。


『あなたは本当に名前通りの人ね』


 そのときは悪口だと思った。


 しょせん雑草だと。

 花壇の脇に無断で生えた邪魔な存在だと。


 アネモネちゃんにまで悪口を言われたと思って、泣きそうになっていた。

 そんな私を見て、アネモネちゃんは苦笑した。


『どこでも花を咲かせることができるなんて逞しいわ……羨ましいほどに』 


 ナズナの花を見るアネモネちゃんのまなざしは、本当に羨望しているようで。

 そのときから、私は自分の名前を誇れるようになったのだ。

 誇れる自分になりたいと思ったのだ。


 私はナズナ。

 どんな状況だって、乗り切ってみせる。


 借金だって、私の手で返してみせる。

 身売りして男に建て替えてもらうなんて、みっともなくてアネモネちゃんに言えないもん! だから、この学園を立派に卒業して、私は王城書記官になるんだ!


 事業に失敗したパパは、いっぱい頭を下げながら、慣れない出稼ぎや肉体労働を頑張っていた。それを支えるママも、いつも笑顔で家事や内職に勤しんでいた。恥ずかしくなんかない、立派な私の、だいすきな両親の背中を、私はたくさん見てきた。


 だから私も背筋を伸ばして、先生の話と向き合う。

 後ろの席に座るアネモネちゃんに、この背中を見てもらうんだ!




 終わりの鐘が鳴ると、先生と入れ違いで大勢の従者たちがなだれ込んできた。


「おつかれさまでした」

「お荷物お持ちいたします」


 当然、私のもとへ来てくれるひとはいない。

 アネモネちゃんはやっぱり従者や他の友達に囲まれて、目を合わすこともできない。


 ……大丈夫。きっとこれから、いくらでも話すチャンスはある。


「また明日ね、アネモネちゃん」


 こっそり挨拶を告げた私は、ひとり教科書の山を自分で抱えて教室を出る。


 校舎と寮は、けっこう距離があった。

 入学式の会場にもなった大ホールや、音楽堂、礼拝堂、ダンスホール……さまざまな建物を繋ぐ渡り廊下をずーっと歩いていかなければならない。その中でも、高位の令嬢たちは比較的近くの寮棟に配置されるようだけどね。


 当然、私の寮は敷地内の一番隅っこだ。


「ん?」


 いまだ見慣れない園内を、えっちらおっちら歩いていたときだ。

 生垣のそばで、従者らしき男性二人が、楽しそうに何かを蹴っていた。その少し離れた場所で笑っている令嬢が、彼らの主人かな?


 ボールを蹴っている……にしては、「キャウンッ」とかわいらしい声が聞こえる。


 思わず覗きこむと、彼らの真ん中には小さなワンコがいた。

 桃色の毛並みを赤く染めた、かわいそうなワンコが。


「ちょっと!」


 私は思わず教科書を投げ捨てて、駆け寄っていた。


「可哀想でしょ、何してるの!?」


 ひとりの従者の背部を引っ張ってやめさせようとする。

 だけど、やはり男と女。彼はぜんぜん怯まない。


「おやおや、空気の読めない令嬢ですね~」

「邪魔しないでください」


 むしろゲラゲラ笑いながら、私も突き飛ばされるだけ。

 そして、彼らはすぐさまワンコを蹴り始める。


「キャウンッ!」


 ワンコがまるでボールのように弾む。

 それを見ている令嬢も「もっとその犬を泣かせなさい!」とはやし立てるだけ。


 私は思わず奥歯を噛み締めた。


 これ以上は、死んじゃう……!

 ましてや、貴族の令嬢がそれを容認するなんてもってのほかでしょ!?


 ふと目に入ったのは、近くに立てかけられた竹箒。

 急いでそれに手を伸ばした私は、怪我だらけのワンコの前で振り回す。


「弱いものいじめはやめなさいっ!」


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