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雑草令嬢が王子らの溺愛を全力スルーした結果~王太子からの求婚はいらん、青春をくれ!~  作者: ゆいレギナ
1-1 雑草令嬢、花の学園に入学する

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5話 ノブレスオブリージュ

「おっと」


 私が振り回した箒に、さすがの従者たちも距離をとる。

 だけど、彼らは私を鼻で笑った。


「おれたちは狩りの練習をしていただけですよ、お嬢様?」

「狩り? 学園の中庭でバカな言わないで!」


 私が箒を振り回しながら叱責を飛ばすと、令嬢が扇で口元を隠した。


「狩りの腕前も、殿方の立派なステータス。それを応援するのも、わたくしたちの立派な嗜みでしてよ」


 この人は、何を言っているのだろう?

 私が訝しげに眉をひそめるも、彼女が堂々と持論を述べる。


「それに、その獣はただの落とし物(・・・・)ですもの。血が流れても、悲しむ人なんておりませんもの。おわかりになりましたなら、早く寮へお帰りなさい」


 モフモフワンコが、落とし物?

 その言い方に私が眉間をしかめる前に、彼女は「それとも」と扇の向こうでうっそりと微笑む。


「故郷へ帰るよう、アネモネ様に言われておりましたっけ?」


 あぁ、いやだな。

 こんな人が、今のアネモネちゃんの友達なんだ。


 そんなことを思ったせいか、思いのほか低い声が出る。


「狩りは生きるためにするもので、遊び目的でするべきものじゃない」


 貧乏になったからこそ、体感した。

 人間、食べるものがなければ生きていけない。

 毎日命を分けてもらっている。命を繋ぐための弱肉強食を否定するつもりはない。


 だからこそ――私はゆっくりと立ち上がる。


「たしかに定期的に王族主催の大々的なイベントもあるようだけど、それは害獣による近隣住民や農村被害を抑えるために行うもの。ただの貴族の道楽じゃない!」


 たしかに、うちは貧乏だ。没落寸前だ。

 だけど、爵位は剥奪されていない。私だってまだ貴族だ。


 かつて、アネモネちゃんが弱かった私を守ってくれたように。

 今度は、私がだれかを守れように強くなるんだ――!


「貴族たるもの、ノブレスオブリージュ――弱いものいじめなんて論外よ!」


 私がきっぱり言い切ると、令嬢が憎々しげに眉間を寄せた。


「この貧乏人にも教育が必要なようね!」


 令嬢の命令に、従者たちが私に襲い掛かってくる。

 覚悟を決めて、箒を構えたときだった。


「さすが、よく勉強しているじゃないか」


 パチパチと、気の抜けた拍手が物陰から聞こえてきた。

 近づいてくる煌びやかな美青年に、私よりも先に令嬢が彼の名を呼ぶ。


「ルシアン王太子殿下!? どうして、あなた様がこんなところへ……」

「入学式のほかにもやることがあってね、たまたまだよ」


 そんな殿下と目があって、私はすぐさま視線を逸らした。

 やばい……私、今、めちゃくちゃ箒を武器にしてた……。


「まあ、彼女の論理には配慮が欠けている点もある。ここは、かよわい女性の通う学園だ。子犬の小さな牙が、乙女の柔肌を傷つけないとも限らない」


 殿下の言葉に、彼女が前のめりに賛同し始める。


「そ、そうですわよね!? わたくしは、皆様の安全を慮っただけで――」

「そういうときこそ、きみの自慢の従者の使いどころだよね?」


 殿下が威圧的に微笑む。


「たとえ鳴き声が勉強の妨げになるとか、誰かの迷惑になる理由があったとしても、力自慢の男なら、そっと学園の外へ逃がしてあげることもできるはずだ。淑女を目指す者なら、それを命じることこそが務めなんじゃないか?」


 殿下の黒い微笑みに、令嬢が「ひぃ!?」とおびえてその場に座り込んでしまう。

 その哀れな姿に、殿下も苦笑したようだ。


「やんちゃなきみも、これで留飲を下げて……あれ?」


 そこで、ようやく気が付いたのだろう。

 その場に残っていたのが、落ちた箒だけのことに。


 物陰に隠れていた私の耳に、殿下のくすっと笑い声が届いた。


「箒の妖精だったのかな?」


 そう――王太子が登場して、私はすぐさまワンコを抱えて逃げていた!


 もし、箒を振り回すような乱暴なやつって知られたら……将来、書記官の採用面談で、落とされるかもしれないじゃない?


 私はこっそりその場を離れながら、腕の中で今だ苦しそうなワンコを撫でる。


「必ず、私が助けてあげるからね」




 私は一晩かけてワンコの治療にあたった。

 作り置きの手製薬が効いたようで、朝方には熱が下がった。


 ワンコを寝かしたベッドに突っ伏して仮眠をとっていると、誰かが毛布をかけてくれたようだ。


「ママ……?」


 私が徹夜で勉強していると、よくママが毛布をかけてくれたな。

 思い出しながら振り返ると、そこいたのは全裸の少年。


 少し年下の十二歳くらいだろうか。

 かわいらしい顔つきだ。だけど、浅黒い肌は傷だらけ。桃色のふわふわくせっ毛がかわいい細身の少年は、何度も確認してしまうが全裸だ。


 ただ、あちこちに包帯が巻かれた形跡が残っていて、頭の上にはぴょこぴょこと動くケモ耳があり、おびえたように足の間にモフモフ尻尾を挟んでいる。


 そして、ベッドで寝ていたはずのワンコがいない。

 ぼんやりした頭で、私が推察した結果は――


「もしかしてワンコ、獣人だったの!?」


 全裸の少年がこくりと頷いた。

 彼の上腕に、家紋のような文様が刻まれている。


 ◆ 


 あぁ、今日はなんて嫌な日なのかしら。

 まさか、あの子と再会してしまうなんて。


 無邪気に成長した親友の顔を思い返しながら、あたくしアネモネ・カリオンは飲みかけのグラスを床に叩きつけた。


 ここは、あたくしの自室。

 グラスを割ろうと、お友達を跪かせようと、あたくしの自由。


「それで? うちの商品(・・)をどうしたって?」


 あたくしの質問に、お友達が床に額をつけたまま震えた声を発する。

 この子は、俗にいう取り巻きのひとり。あたくしと仲良くしたいというから、ひとつ頼みごとをしてあげたというのに……。


 彼女は落とし物を見つけるどころか、あたくしの名を汚す失態を犯した。


「王太子殿下とお話している間に、逃げられてしまい……」

「つまり、殿下にも我が家の不始末がバレてしまったというわけね?」

「も、申し訳ございません!」


 あたくしは彼女の頭を足置きに使う。

 でも、あたくしの新しい足置きは、主の許可なくおしゃべりするようね。


「し、しかし! 獣人はあの貧乏人が連れていったと思われますので、御許可さえいただければ、すぐにでも――」

「あの貧乏人?」


 思わずあたくしが返すと、足置きは嬉しそうに顔をあげる。


「名前はたしか……ナズナ・フェルミエ!」 


 あぁ、聞きたくない。聞きたくなかった。

 思わず足に力をこめすぎたようで、痛がる彼女を尻目に筆頭従者のゼインが「そのくらいにしては」と諫めてくる。


 あぁ、あたくしはあの子と再会などしたくなかったのに!

 耳の奥に残る彼女の無邪気な声に、あたくしは思いっきり歯ぎしりをする。


本作はワンコくんを愛でるお話しでもあります。

さて、作者から、ここまで読んでくれた皆様へお願いです


「おもしろい!」「続きが楽しみ!」「ワンコくんとの交流たのしみ!」

などと、少しでも思っていただけましたなら、


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