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雑草令嬢が王子らの溺愛を全力スルーした結果~王太子からの求婚はいらん、青春をくれ!~  作者: ゆいレギナ
5章 銃声で踊れ

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37話 だいすきな友達


「どうしよう……不法武器の使用で捕まってたら、そのあいだの借金返済が滞る……さすがにこれはバルクロウのせいだから、保釈金でも出してもらう? でも、そもそも犯罪歴があったら王城書記官なんか雇ってもらえるはずがないよね……どうしよう、どうやって借金を返していけば……」 


 あぁ、ブツブツが止まらない。

 まさか、こんなことで将来の夢が途絶えるなんて……。

 やっぱりバルクロウの言うことを信じた私が悪かったんだ……。


 そう半泣きになりながら、私はアネモネちゃんの手を引いて走る。

 部屋から出ると、やっぱり下からの騒音がうるさい。揉めているのかな。でも、今は黒服たちと合流して保護してもらうのが一番だよね。


 どうせもう犯罪者なら、とことん協力してもらうっきゃない!


「さよなら、王城書記官……おかえり借金地獄……」


 先行きの地獄に足の痛みさえ麻痺していると、後ろからアネモネちゃんの心細そうな声が聞こえた。


「どうして、あなたがここまで」


 ……しまった。私の愚痴でアネモネちゃんを不安にさせたら本末転倒だね。

 あくまで自分の無知とバルクロウを呪っているだけ。

 アネモネちゃんを助けにきたことに一切の後悔はない。


 だから、私は走りながら尋ねるんだ。


「アネモネちゃんが私を虐めるようみんなに言っていたって、本当?」

「……本当よ」

「じゃあ、初日の机に『雑草』って書かせたのも、アネモネちゃんだよね?」


 入学式のあと、私の机には多くの悪口が描かれていた。

『早く帰れ』『場違い』『貧乏人』……そんな悪口で埋め尽くされんばかりに。


 だけど、その中に、一つだけ悪口とは思えない単語があったから。


「……そうだと言ったら?」

「ありがとう」


 拗ねたようなアネモネちゃんの声音に、私はずっと言いたかった言葉を返す。

 その言葉を思い出させてくれたおかげで、学園で私なりの居場所を作れたから。


「どうしてあなたがお礼を言うの?」

「あの言葉で、私は背筋を伸ばせたから」


 あの言葉を見たから、私は堂々とあの教室に座っていることができた。

 あの言葉があったから、かつてアネモネちゃんが『雑草』を誉め言葉にしてくれたから……今、私はここにいるんだ。


「アネモネちゃんに、私の成長した背中を見てもらいたかったんだ!」


 振り返ると、アネモネちゃんが悔しそうに顔を逸らしていた。


「ばか……」


 涙をぬぐって、歯を食いしばって。

 そんなアネモネちゃんの顔が、たまらなく可愛く思えた。


「あたくしより背が低いくせに」

「むぅ……どうせ身長はたいして伸びませんでしたよぅ」


 だから、私は走る。

 一階に降りて、バルクロウに文句を言って、助けてもらう。

 そのあとのことは、そのときに考えよう!


 そう――階段を降りようとしたときだ。私たちの足元でバンッと何かが弾ける。

 思わず振り返ると、ゼインが拳銃を構えていた。

 あれは……私が落とした拳銃だ!


「逃がしてたまるかっ!」


 どうやら撃たれたらしい。足のギブスの包帯が切れて外れそうになっていた。

 ギブスのおかげで直撃は免れたらしい。怪我の功名ってやつだね。

 この幸運を無駄にしてたまるか!


「早く、階段をおりて!」


 私はアネモネちゃんと急いで身体の位置を交換し、腕を広げる。


 あと、私にできることは時間稼ぎだけ。

 アネモネちゃんが一階に下りるまでの時間を、少しでも……一瞬でも、私が時間を稼ぐ。


 命に代えてでも――。


「なら……望みどおりに殺して――」


 そう、狡猾にゼインが口角をつりあげたときだった。


「書記官になりたいなら、よく覚えておくといい」


 凛とした声が階段を上がってくる。

 キラキラと眩しい金髪。白い制服が似合う長い脚。

 だけど芸術品と見紛う横顔はいつもより疲れているように見えた。


「兵を一つ出すだけでも、正規手続きというものは時間がかかるんだ」

「ルシアン殿下!?」


 いきなり登場したルシアン殿下は平然と私たちの前に立つ。

 そして、いつものニコリとした笑みを浮かべた。


「やあ、アネモネ嬢の従者くん。お邪魔させてもらっているよ」

「王太子……殿下だと……?」


 さすがの大物の登場に、ゼインも困惑を隠せない様子。

 片手に持っていた拳銃を慌てて背中に隠す姿が滑稽だった。


「どうして、アネモネはもう婚約者候補からも外れたはずじゃ……」


 そんなゼインと目が遭う。


「その雑草か!?」

「んー、二人の救助の申請で通したけど、さすがに僕の口頭だけで、無名の令嬢救助に王族の正規兵は出せなくてね」


 そりゃそうだろう。てか、そうでなくては困る。

 殿下の最愛とか……丁寧な治療を無償で受けられたのはありがたいけど、あくまで私が目指しているのは王城書記官。名ばかり貴族の娘などに、国の正規兵が出てこられても困るというものである。費用を請求されたらいくらかかるんだろう……。


 ルシアン殿下はいつになくにこやかに語った。


「だから、僕の大切な友人である公爵令嬢の救助と……わが国でまだ認められていない不法武器の所持疑惑で、兵を出させてもらったよ」


 不法武器の所持……?

 その単語に背中がゾクッと震えたときだ。


「ほら、俺の作戦勝ち♡」

「バルクロウ!」


 背後から囁かれて、私はとっさに振り返る。

 すると「はーい、おつかれ~」と私の口の中に甘い味が広がった。いつものキャンディーが突っ込まれたらしい。おいひい。


「えらいえらい、ちゃんとグローブも着けたまんまだなー」

「いやいやいや、意味がわからないよ!?」


 バルクロウは我に返った私の文句を無視してアネモネちゃんにも「無事でよかったね~」とキャンディーを配っていた。そんな彼にルシアン殿下が声をかける。


「バルクロウはあとでゆっくりお話ししようね?」

「やぁ、殿下も俺のことが好きってか~。モテる男はつらいねぇ」

「こいつにこそ一回痛い目を見てもらいたいものだ」


 すごく同感です、ルシアン殿下。

 そのあいだ、ゼインは不格好に腰を抜かしていた。

 わらわらと階段を昇ってくる、立派な武器を携えた兵士たち。彼らの武器や軽鎧には、しっかりと我が国の国章が刻まれていた。


「ゼイン・ヴェルガントを捕らえよ!」

「わあああああああああああ」


 これで……一件落着、かな?

 途端、ひざの力が抜ける。なんかあちこちが痛くなってきたぞ?

 キャンディーも口から落ちてしまう。

 しかも、なんか……いきなり眠いや……。


 どうやら私を支えてくれたバルクロウが必死に名前を呼んでくれているらしい。困ったような顔を、私は「へっ」と笑い飛ばした。ざまあみろ。


 だけど、アネモネちゃんを心配させるのはいやだから……。

 うとうとしながらも、私はむりやり笑みを作った。


「アネモネちゃん……また、私の友達になってくれる……?」


 私は重たい腕をあげる。

 たくさん汚れているはずなのに、アネモネちゃんは迷わず両手で掴んでくれた。


「ばか言いなさい。あたくしたちはずっと友達だったでしょう!?」

「えへへ、そうだった……」


 私は安心して目を閉じる。

 次に起きたら、アネモネちゃんに話したいことがたくさんあるんだ。

 いっぱい、いっぱい。


 最後に見たのは、立ち上がったアネモネちゃんの背中だった。

 捕らえられたゼインに対して、何か言っているらしい。


 アネモネちゃんの背中は、今もやっぱり眩しかった。


「アネモネちゃんは……やっぱりカッコイイなぁ……」



次話はアネモネちゃんが最後に何を言ったのかわかる視点です。


「おもしろい!」「続きが楽しみ!」などと、少しでも思っていただけましたなら、


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