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雑草令嬢が王子らの溺愛を全力スルーした結果~王太子からの求婚はいらん、青春をくれ!~  作者: ゆいレギナ
5章 銃声で踊れ

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35話 黒服の本気


 黒塗りの馬車の中で、バルクロウが不満げに口を尖らせていた。


「これでもガキ用のスーツを用意したつもりなんだけどなァ」


 バルクロウが用意してくれたデート(?)衣装は黒いスーツだった。

 あれからすぐに馬車に連れられ、豪華なお宿で一泊。そして、そこで着せ替えられたのがこのクローヴ家の面々がよく来ているスーツだ。


「俺とお揃いだな♡」

「てか、いい加減どこに向かっているのか教えてほしいんだけど?」


 私は慣れないグローブのゴワゴワ感と格闘しながらも、ズレ落ちそうな帽子を直す。するとバルクロウが馬車の外に目を向けた。


「ほら、目的の場所に着いたぞ」


 そこは立派なお屋敷だった。

 ちょうど……まだ令嬢していたときに住んでいたお屋敷くらいの規模だろうか。その門を堂々と黒塗りの馬車が列を成して通過していく。


 そして、私はバルクロウに促されるまま馬車を降りた。


「ここは……?」

「アネモネちゃんが捕まってる所♡」

「えっ?」


 私が目を見開くと、バルクロウが舐めていたキャンディーをガリガリと噛む。


「なんだよ、あのままルシアン殿下に軟禁されたかったの?」

「いや……私は全力で脱走するつもりだったけど……」

「だろォ? デートのお礼はチューの一回でいいからさ♡」


 そう言いながら、屈んだバルクロウが私の頬をツンと突いてくる。


 こいつ……!?

 連れてきてくれたのはありがたいけど、やっぱりこういうところはきらい!


 そのとき、同じような馬車からわらわらと黒服が降りてくる。

 総勢……五十人くらいいるんじゃないかなぁ? かなりの迫力だ。


 その中で、見覚えのある黒服が私に向かって挨拶してくる。


「よぉ、ナズナちゃん」

「今日の武器は箒じゃなくて松葉杖か~、痛そうだなぁ」


 彼らはバルクロウと一緒に借金回収に来ていたお兄さんたちだ。

 例に漏れず強面だけど……このとおり悪い人たちではない。

 他の黒服たちもジロジロと私を見下しては「これが噂の」「へぇ、ちっこいな」なんて珍獣を見るような目で観察してくる。私はサーカスの見世物じゃないんだが?


 そんな黒服たちを、バルクロウが蹴散らした。


「オラオラ、てめーら今から仕事だぞ。わかってんのか!?」


 そんな怒声に一同は「へい!」と頭を下げる。

 こう見ると、バルクロウも立派な若頭なんだなって実感する。

 ……ほんと、なんで若頭が私をこんな場所まで連れてきてくれるんだ感はあるけどね。


「いいか、俺らが今からイチャモンつけて押し入るから、おまえも紛れて屋敷に潜入してアネモネちゃんを捜せ。少しでも危ないと思ったら大声を出せ。すぐに助けに行く」


 いつもより低いトーンで私に耳打ちしてから、バルクロウが何かを押し付けてくる。


 金属の……おもちゃかな?

 取っ手がついた面白い形の筒である。ボタンっぽいのが二カ所あるのかな? 初めて見る代物だ。見た目よりずっしり重い。


「これは?」

「びっくりアイテム。誰かに捕まりそうになったら、迷わず使えよ? 大きな音が鳴って、すぐに気が付くからな。でも、絶対に素手で触るなよ。肌が荒れるからな」


 そして、バルクロウがテキパキと使い方を説明してくれる。


 上のフックみたいなのを下ろして、両手で取っ手を持つ。その後、人差し指でとって近くのボタンを押す。すると筒の先っぽから何かが勢いよく飛び出してくる。重ねて注意される素手厳禁……って、これ、嫌な予感がするぞ!?



「なんかヤバい武器だったりする!?」

「まさか! まあ新しいやつっちゃ新しいんだが……他の大陸から輸入したんだが、サーカスとかでの演出に使われているんだってさ。今からこの屋敷に突入するのに、何も持たないのも不安だろ? 爆薬が良ければそっち渡すけど?」


 バルクロウからの提案に、私は慌てて首を横に振った。

 ただの女の子に、そんな物騒なものを渡そうとするんじゃない!


 すると、苦笑したバルクロウが私のジャケットの内ポケットに、そのびっくりアイテムをしまってきた。何が飛び出てくるんだろう? お花とか紙吹雪かな?


 でも、ジャケットにかかる重さが、バルクロウなりの優しさなんだよね。

 無理矢理感がありありだけど……アネモネちゃんに会いたいって願いを叶えてくれたんだから。


「ありがとね、バルクロウ」

「ん」


 バルクロウがコツンと拳を私のおでこに当ててくる。

 全然痛くないけど……勇気が出た。


 私が固唾を呑んでいると、バルクロウが玄関口へ。

 そして、両手をこねこねしながら猫なで声で話しだす。


「クローヴ家の者でぇ~す♡ 先日~、そちらがご購入した医薬品に対して、うちが王家から調査を受けまして~。ちょ~っとお話を伺いたいのですがぁ~♡」


 その大声に、中から応える声はない。

 そうそう簡単に玄関を開けてもらえないか……。


 どこか裏口捜したりするのかな、と周囲を見渡そうとしたときだった。


「落とし前つけてもらうぞ、ゴラァ」


 バルクロウが思いっきり扉を蹴り飛ばす。

 だけど、そう簡単に扉が破れないものの……バルクロウが懐から何かを放り投げる。


 そして……どっかあああああああん!


 何を投げたの!? 今、バルクロウはよそのおたくに何をした!?


「ナズナちゃん、お耳だいじょうぶ~?」

「ナズナちゃんの両親がまじめに借金返していてよかったね~。でないと、ナズナちゃんちもこうなっていたかもしれないからね~」


 見慣れた黒服さんたちが、爆風の盾になってくれていた。

 やっぱりバルクロウ……というか、クローヴ家にはさっさと借金を返済して、おさらばしなければ!


 そう覚悟を決めていると、バルクロウが吠える。


「てめーら、突撃だァァァァァ!」

「おおおおおおおおおおお!」


 威勢よく屋敷の中に突撃していく黒服たち。

 私が呆気にとられていると、バルクロウが「ほら」と私の背中を押す。


「事前調査の話だと、二階の奥の部屋が怪しいってことだ」

「あの……医薬品って?」


 嫌な予感がしながらも、私は気になっていたことを尋ねてみた。

 さすがに、ヴェルガント家が何の落ち度もなく黒服に突撃されているとは思いたくない……。


 すると、バルクロウはニコリと目を細めた。


「例の落ちたシャンデリアの固定金具が酸で溶かされていたらしい。そのとき犯人が使ったと思われる薬品が……うちが取引したものらしくってな」 

「で、でも。犯人はあくまでアネモネちゃんの取り巻きの子って話じゃ――」


 実行犯は、入学式の日に渡り廊下でアイ君をいじめていた令嬢の従者だという話だったはず。だから、その従者は騎士たちに連行され、主人であった令嬢も退学した――と、ルシアン殿下は教えてくれたはず。


 だけど、バルクロウは鼻をならす。


「表向きはな。だけど、その取り巻きの従者に、ウチが卸した薬品を譲渡したのが、カリオン家の分家……アネモネの従者やっているゼイン・ヴェルガントって話なんだよ。だから、これは合法なお話合いってワケ♡」 


 そのときだった。黒服でひしめく玄関口に、慌てたスーツ姿の青年が顔をだす。

 眼鏡をかけた見覚えのある従者……ゼインさんだ。


「バルクロウ殿……ど、どういうことですか!?」


 いきなりのことに、毅然と抗議する姿は、まさに好青年。


 本当に、この人がアネモネちゃんを……?

 そして、シャンデリアの事件を起こした真犯人だというの?


 そんな疑惑が未だ晴れないわけではないけれど。


「ほら、行け」


 バルクロウに再び背中を押され、私は意を決して走り出す。

 背の低い私など、たとえ松葉杖をついていたところで目立たないだろう。


「やぁ、ご機嫌麗しゅうございます、ゼイン・ヴェルガント殿!」


 バルクロウの胡散臭い口上を、今ほど頼もしく思ったことはない。


「先日の商品、ご満足いただけましたか?」


作者から、ここまで読んでくれた皆様へお願いです


「おもしろい!」「続きが楽しみ!」「バルクロウかっこいい!」

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