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雑草令嬢が王子らの溺愛を全力スルーした結果~王太子からの求婚はいらん、青春をくれ!~  作者: ゆいレギナ
5章 銃声で踊れ

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33話 殿下のともだち

「ナズナのほかに誰がいる。どうしてあいつを最愛なんてした?」


 一瞬びっくりしたけれど、なんて私が知りたいことドンピシャで話しているの……。


 思わず、私はすみっこで耳を立てる。

 自分の地獄耳を人生で一番感謝していると、ルシアン殿下はいつもの穏やかな口調で疑問を返していた。


「それを聞くのは、きみがナズナ嬢のことを好きだから?」

「……そうだ」


 バルクロウの重い同意に、私の胸が大きく跳ねる。

 今のバルクロウは、いつもみたいにキャンディーをカラカラさせていない。

 そのせいか、まるで本当に告白されたみたいで。


 ――そんなはずないのに。

 ――ずっと軽薄で、私をからかうのが趣味なバルクロウが、私のことなんて……。


 珍しく真剣なバルクロウに対し、殿下は「へぇ」ととても楽しそうに顎を撫でていた。


「おまえの見ていたとおりだよ。アネモネ嬢がどうしてもナズナ嬢を助けてほしいと懇願した。ナズナ嬢はおまえも知っての通り、立場がとても弱い女性だ。救助の速度や派遣させる医師のランク……最善を尽くすために手っ取り早く彼女の優先順位をあげるためには、僕の想い人にしてしまおう……そう判断しただけだ」


 その話に、バルクロウはつまらなそうに息をつく。


「けど、そしたらあの赤いのだって殿下との恋が叶わなくなるじゃねーか」

「だね。彼女の家の様子を鑑みたら、アネモネ嬢もろくなことにはならないと思ったが……それでもと望んだのは彼女だ。僕はその意志を汲みたいと思っただけだよ」


 つまり、私が殿下の最愛になったのは、アネモネちゃんのおかげということ?

 殿下がそう微笑を浮かべたとき、私の目から涙がこぼれる。


「僕だって人間だ。美しい友情を叶えてやりたいじゃないか」


 たとえ、もう自分が殿下と結婚できないことになったとしても。

 アネモネちゃんは将来を捨てて、私を助けようとしてくれたってこと?


 ――アネモネちゃん!


 口元を抑えて、必死に嗚咽を応えていると、気まずそうなバルクロウに、殿下は挑発的な笑みを向けていた。


「参考までに、おまえはナズナ嬢のどういうところに恋をしているんだ?」

「……全部だ」


 それなのに、バルクロウは真摯に答えてしまう。


「両親が多額の借金を背負って貴族界から追われたのに……あいつから一回も愚痴を聞いたことがない。どんな苦しい環境でも泣き言いわずに、あの小っせー身体でいつも前向きに努力を続けて……あんな女を愛しいと思わない理由がないだろう」


 ――聞かなきゃよかった。


 心の底から後悔する。

 私はそんな目でバルクロウのことなんて見たことなかったのに。


 嫌ではない。たまらなく恥ずかしい。

 これから、どんな顔でバルクロウと会えばいいのだろう?


 たまらずしゃがみ込もうとするも、やっぱり身体が痛くて尻餅をついてしまった。


「いてて……」


 なんかもう踏んだり蹴ったりだなぁ。

 私がおしりを撫でているあいだに「て――」と一呼吸置いたバルクロウが、鋭く殿下を睨んでいた。


「そうやって茶化すなんて、やっぱりナズナのことは冗談なのかよ」

「真剣だよ、僕なりに。彼女とは自分の言葉に責任を持つと約束しているからね」


 ふたりの会話はいつもよりゆったりと聞こえてくる。


「言ったからには、僕なりに誠意を持つつもりだ。ただ……わからないんだ」

「わからない?」


 オウム返ししたバルクロウに、ルシアン殿下はまじめな顔で問いかけた。


「恋とは、いったいどういう感情のことをいうんだ?」

「はあ?」


 あんぐりと口を開くバルクロウ。

 それに対し、殿下が眉根をしかめる。


「なんだい、こういうことは臣下にではなく、友達に相談するのが正解だろう?」

「そ、そりゃ……そんなこと上司から相談されてもなァ……」


 頭をボリボリと掻いたバルクロウが口を尖らせる。


「そもそも俺、殿下の友達でいいわけ?」

「いくら僕でも、嫌いな相手をいつも馬車に同乗させる趣味はないよ」

「でも、俺って爵位もない悪い噂ばかりの商家の嫡男ですが?」

「友達を爵位で選ぶほうが下賤だろう。それにクローヴ家は商売の都合上、あえて叙爵を避けていると聞いている。国としてはとっとと管理下に入ってほしいものだけどね」


 ……私は、何を聞かせられているのだろう?

 そろそろお暇しようかな、と私は落とした松葉杖を拾う。


「今、俺の代になっても叙爵は遠慮しようと決めました」

「そうかい? じゃあ、末永く僕の友達でいてくれよ」


 よっこいしょ、と私は立ち上がった。

 転んだせいか、痛みが増した気がする。

 とりあえず頭がいっぱいいっぱいだ。一人静かに暗記帳を眺めたい。


「俺、あんたみたいな人が一番苦手っす」

「残念だね……僕なりに誠実に対応しているつもりなんだけどな」

「まあ、こういうやつじゃないと人の上で政治なんてやっていけないんだろーなって点では同情しますけどね」


 とりあえず、殿下とバルクロウは仲良くなれてよかったねーということで。

 私がえっちらおっちらと、来た道を引き返そうとしたときだ。


「で、そろそろ僕の質問に答えてくれるかい?」

「恋とはなんだってやつですか?」

「うん」


 聞きたくない。聞きたくない。

 私はアネモネちゃんと借金のことで精いっぱい。


 これ以上の悩みなんか増やしたくないと、一生懸命に松葉杖を動かす。

 だけど、世は無常だ。


「ぜってーに教えてやんねーっ!」


 バルクロウの叫びは、地獄耳関係なく、学園中に響き渡って。


 そのときだった。ガサゴソと生垣を掻き分ける音が聞こえた。

 殿下たちのほうから……と思わず振り返ったときだ。


「おいワンコ、しっかりしろ!」


 屈んだバルクロウの腕の中には、桃色髪の少年がいた。

 気立ての良い小柄の従者服が、あちこち引き裂かれていた。血や泥でよごれた彼は見るからにやつれていて、傷だらけで。


 私は全身の痛みなんか関係なく、駆けだそうとする。


「アイ君!?」


 だけど、ギブスの足が絡まり、私はベタンッと転んでしまう。


 それでも……アイ君が怪我を負ったなら、私のせいだから。

 アネモネちゃん探しで、何かあったに違いないから。


 這ってでもアイ君のもとへ向かおうとすると、慌てて駆け寄ってきてくれたルシアン殿下が困った顔で私を助け起こしてくれた。


「まったく……本当にどこで咲いているかわからない雑草だね」


 バルクロウに「大丈夫か」と心配されていたアイ君の叫び声が聞こえる。


「おれなんかより……アネモネのほうがひどいけがしてた……眼鏡のいやなやつにいじめられてたんだ!」


作者から、ここまで読んでくれた皆様へお願いです


「おもしろい!」「続きが楽しみ!」「バルクロウはほんとタイミングが悪いなぁ」

などと、少しでも思っていただけましたなら、


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