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雑草令嬢が王子らの溺愛を全力スルーした結果~王太子からの求婚はいらん、青春をくれ!~  作者: ゆいレギナ
4章 シャンデリアが落ちるとき

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29話 赤が似合う女


「ナズナ……ナズナ……」


 あたくしはなんとかナズナの上のシャンデリアを退かそうとする。

 だけど、思ったように持ち上がってくれない。


 己の非力さに奥歯を噛み締めると、そっとあたくしの手が退かされる。

 ルシアン殿下だ。


「手が傷ついてしまうよ」


 いつもより険しい顔をしながらも、あたくしが「そんなこと!」と声を荒げるよりも前に「男性は手を貸してほしい!」と人手を募る。


 そして、集まった男性たちの手で、シャンデリアが動かされた。

 誰よりも先にあたくしが駆け寄ると、ナズナがゆっくりと身を起そうとする。


「アネモネちゃん、離れて……せっかくの白いドレスが汚れちゃう……」


 ……この子は、何を言っているの?


 たしかに、いつのまにかあたくしの真白のドレスに赤いシミがついていた。

 彼女の血がうつってしまったのだろう。


 だから、どうした?

 あたくしは彼女に涙を見せないため、一瞬だけ奥歯を噛み締める。

 そして、すぐに笑みだけを見せた。


「バカ言わないで。あたくしは白より赤の方が似合うのよ」


 あたくしが長年培った矜持に、ナズナもゆるりと口角をあげる。


「あはは……アネモネちゃんはやっぱり……カッコイイなぁ」


 あたりまえよ。

 あなたにそう言われたくて……今まで頑張ってきたんだもの。

 あなたにこう言われたくて……あたくしはこんなバカなことをしようとしたんだもの。


「アネモネちゃん、だいすき……」


 そして、彼女はあたくしの腕の中で目を閉じる。

 大丈夫、彼女の吐息がちゃんとあたたかい。

 それでも、この苦しそうな吐息が、いつ止まってしまうのかもわからなくて。


 あたくしの涙が、いよいよナズナの頬の上に落ちる。

 そして、心からの想いを小さく吐露して。


 あたくしは顔をあげた。


 悔いたいことは山ほどある。

 こんなことになるなら、自分を犠牲にするような真似をしなければよかった。

 まさかナズナに助けられるなんて……その想像ができなかったことを、悔やんでいる暇はない。


 悔やんでいるだけでは、彼女を助けることができない。

 泣いているだけでは、彼女を助けることができない。


 今のあたくしに、できること。

 非力なあたくしにだって、できること。


 考えるまでもない、ただの令嬢でしかないあたくしにできることなんて、一つしかないではないか。今となりに、最大の権力者がいるのだから。


「ルシアン殿下、お願いがございます」

「言ってみるといい」


 どうせ、あたくしは自ら命を捨てようとした身だ。

 脳裏にお父様やゼインの顔が思い浮かぶ。


 だけど、どうした?

 今更、あたくしが何を恐れるというの?

 この腕の中の親友を、失うこと以外に。


「あたくしは何を失っても構いません。この子を助けてください!」


 強くナズナを抱きしめたまま、あたくしは頭を下げる。

 声がかかるまで、頭はさげたまま。


 ポタポタと何滴ナズナを濡らしてしまったのだろう。

 だけどその落ちた雫だけ「お願いします、お願いします!」と声をあげて。


 殿下からの「顔をあげて」という声は、いつになく穏やかなものだった。


「王太子の名に懸けて、その願いを叶えよう。ただ……対価の覚悟はできているのか?」

「もちろんです」


 迷うことなく顔をあげると、殿下は柔らかい笑みを浮かべた。

 今までに見たことがないほど、やさしい笑み。


 はじめて、彼と通じ合えた瞬間だった。

 このとき、あたくしの偽りの片思いが、砕け散るとしても。


「ナズナ・フェルミエは僕の想い人だ! 重要人として救助の要請しろ!」


 発令を下す殿下の背中を、初めてカッコイイと思えたとしても。

 あたくしの心には、欠片も後悔がない。


 ◆

 

 なんだか夢を見ていたような気がする。

 まだ私たちは子どもで。私のオンボロの家に、アネモネちゃんがきれいな馬車に乗って遊びにきた。そして、二人でドレスを着て、ダンスパーティーを開くのだ。


 私は緑のドレス。

 アネモネちゃんは赤いドレス。


 二人して手を握って、くるくる回るだけの簡単なダンス。

 それなのに、アネモネちゃんがケタケタと嬉しそうに笑ってくれるから。


 だから、普段なら聞けないことも、思わず聞いてしまうのだ。 


『アネモネちゃんは……私のことすき?』


 すると、アネモネちゃんの姿が大人になる。

 真っ赤な髪をたおやかに伸ばした、誰よりもきれいな淑女になって。


 誰よりもきれいで、泣きそうなほどに優しい顔で、私に微笑みかけてくれるのだ。




『だいすきよ、この世で誰よりも……ナズナことがだいすき』




 次の瞬間、真っ白な天井が見えた。

 思わず、私はキョロキョロと周囲に目配せする。


 アネモネちゃん……どこに行っちゃったの?

 だけど、なぜか私が眠るベッドサイドで、キラキラ王太子殿下が本を読んでいて。

 少し体を動かそうとするたびに、全身がピシピシと痛む。


 ……なんだ、これ?

 ここは……学園の医務室かな?

 なんで私はこんなところで寝ているんだろう?


 それを問う相手は……一人しかいないよなぁ……。


「あの……ルシアン、殿下……?」


 うっすらと記憶は残ってるよ。

 私、アネモネちゃんをシャンデリアの落下から守るため、飛び出したんだよね。


 その直後からの記憶はないけど……まぁ、あちこち包帯巻かれて痛いことから、私が大怪我を負ったことは想像にたやすいわけで。


 それで意識を失って、医務室で治療を受けたとしても……。

 どうして私の身守り役に、ルシアン殿下がいるのかな!?


 私の呼びかけに、ルシアン殿下が「あぁ」と本を閉じる。

 そしてとても眩しい笑みで、私にこう呼びかけた。


「おはよう、僕のハニー」

「はい……?」


4章はこれにて終了です。5章でいったん完結にしようかな、思っています。

最後までどうぞよろしくお願いします!


「おもしろい!」「続きが楽しみ!」などと、少しでも思っていただけましたなら、


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