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雑草令嬢が王子らの溺愛を全力スルーした結果~王太子からの求婚はいらん、青春をくれ!~  作者: ゆいレギナ
4章 シャンデリアが落ちるとき

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23/30

23話 緑のドレス


 それは数日前に遡る。

 先生から配られたプリントを前に、私は自室で頭を抱えていたのだ。


「白いドレスか……」


 そのプリントは、歓迎パーティーにまつわることが纏められたものだった。

 もはや当たり前だけど、私にドレスを用意できるほどの資金はない。


 自作しようかとも考えたけど、ルシアン王太子殿下と踊らなければならないのだ。

 さすがにお手製ワンピースってわけにはいかないよね……。


「親に……相談するしかないか……」

「お使いか? おれがんばるぞ!」

「さすがに遠いから、今回は手紙の郵送かな」


 辻馬車を乗り継いで三日の距離を、アイ君に走らせるわけにもいかない。

 頼んだら、本当に寝ずに頑張ってくれちゃいそうだもんね。


 ママのドレスは全部売ってしまったけど、親戚とは定期的に連絡している。

 どうしても必要なものは、今までも親戚から借りたりしていたのだ。


 私と同様に小柄な叔母さん。入学する旨を連絡したら『困ったことがあればいつでも連絡を』と言ってくれたし、私でも着れるドレスを貸してくれるかもしれない!


 そのとき、扉が控えめにノックされる。


「ナズナ・フェルミエさん」


 思わず、私の声が弾んでしまう。


「アネモネちゃん!」


 私が慌てて扉を開くと、真っ赤な髪が今日もきれいなアネモネちゃんがそこにいた。今日は一人のようだ。周りを少しキョロキョロとしているけど、どうしたのかな? 今はだれもいないみたいだけど……。


 そんなアネモネちゃんが少し不機嫌そうに私に一枚の紙を差し出してきた。


「こちらプリントが差し替えられましたの。ドレスコードが変わりましたから、ご注意されてくださいまし」

「わざわざアネモネちゃんが届けてくれたの!?」


 うれしい!

 だって教室で渡してもいいわけだし。

 お使いなら、それこそ従者に頼めばいい話だ。


 それでも、アネモネちゃんが一人で来てくれた……。

 これはお部屋でおしゃべりするチャンス?


「アネモネちゃん、まだ時間ある? せっかくだから久しぶりに二人でおしゃべりでも……あ、アイ君。お茶を淹れてきてもらえると――」


 私が矢継ぎ早に話していると、アネモネちゃんがくるくると髪を指先で弄ぶ。


「残念ながら、あたくしは多忙ですの」

「そ、そうだよね……」


 残念だけど、仕方ないよね。他校のルシアン殿下がパーティーの準備で日々ルミエール女学園に通っているくらいだもの。アネモネちゃんだって主催校の花の御三家として、色々仕事があるに違いない。


 私がちょっぴり視線を落としていると、アネモネちゃんがやれやれと肩をすくめた。


「それではしっかりと間違いないようにね。これであなただけドレスの色が違ったら、あたくしのせいにされてしまいますわ」

「もちろんだよ。ちゃんとしたドレス、しっかり用意してみせるから!」

「……ま、ご無理のないよう」


 そう告げて、アネモネちゃんが踵を返す。


 やっぱりアネモネちゃんは優しいなぁ。

 無理をしないようにって、うちの経済的事情を配慮しての気づかいだよね。


 なのに、どうしてだろう。

 私の地獄耳に、アネモネちゃんの「ごめんなさい」という声が届いて。


 アネモネちゃんに謝られることなんて何もないのにな?

 プリントを持ってくるのが遅くなったとか?


 さすがに聞き間違いだろうと、私は気にせず扉を閉じる。

 そして、私はプリントに目を落とした。


「ふむふむ……緑のドレスね」


 たしかに緑のほうが新緑のフレッシュなイメージがする! 白だと制服と似ているし……せっかくならいつもと違う色を着てみたいと思うのは、乙女心とでもいうのだろうか。


 だから、私も立ちかけの姿で目をぱちくりしたままのアイ君に命令してみた。

 さっきお茶を頼みかけたままだったもんね。


「それじゃあ、アイ君。便箋の用意をお願いしちゃうかな!」

「お、おう、まかせろ!」


 張り切って、アイ君が勉強机にしまってある便箋を机に出してくれた。

 緑の素敵なドレス、誰か持ってくれているといいな!




 結果、送られてきたのは真新しい緑のドレスだった。

 素敵なドレスだ。明るすぎず、落ち着いた緑の生地は大人っぽい。だけどところどころ使われたレースや白の花の刺繍で、どことなくフレッシュな感じもする。まさに社交界デビューする私に相応しいドレスだ。


 でも、なんでこんなに真新しい匂いがするのだろう? 普通、どんなに丁寧に管理していても、収納の匂いが残っているはずなのに……。


 その理由は同封されていた手紙にあった。


『おばさんから聞いたわよ。水臭いじゃない、デビューパーティーのドレスはうちが用意するわ。クローヴ家から追加でお金貸してもらえたから気にしないでね 

                            パパとママより』


 気にするに決まっているでしょーが!

 わざわざ借金を増やしてどーする!?

 そもそもいくらしたのよ、こんな素敵なドレス!


 私は鏡の前でドレスを合わせながら、下唇を噛む。


「でも、このドレスだったら、王太子も褒めてくれるかな……」


 別に、かわいいとか言ってもらいたいわけじゃないけれど。

 それでも、殿下だってどうせ踊るなら、ちょっとでもかわいい女の子と踊りたいと思うのだ。恋とか興味ないって雰囲気だったけど、それとは別に隣に立って恥ずかしくない女の子がいいと思うのは自然な感情だもんね。殿下だって人間だもん……たぶん。


「あるじ、着替えないのか?」


 時計を気にしながら、アイ君が心配そうに聞いてくる。

 もう今日はパーティー当日だった。そろそろ準備をしないと間に合わない。


 あとはもう、私が腹をくくるだけ。


「よし、着よう!」




「アイ君……私、きれいかな?」

「ヒラヒラしてかわいいと思うぞ。その恰好で大きなキラキラの下で踊るんだろう? おれも見たかったなぁ……」


 あぁ、やっぱりうちのアイ君が今日もかわいい。

 このあいだ、ファーストダンスが私だと心配した先生から、今日の会場の下見をさせてもらったのだ。社会勉強のためにアイ君も……と願い出たところ、快く同伴を許可してもらった。


 そのときに見た会場の大きなシャンデリアを、アイ君が『キラキラ』と、とてもお気に召したらしいのだ。


「でも、本当にあのキラキラは落ちてきたりしないのか?」


 そんな素朴な質問をしてくるアイ君もかわいい。

 私は緊張をほぐすつもりで、ちょっと丁寧に説明してみる。


「こないだ先生も説明してくれたけど……天井の裏でワイヤー……とっても頑丈な金属の紐がたくさんで固定してくれているの。だから滅多なことじゃ落ちてこないんだよ」


 大丈夫、と私がアイ君の手を繋ぐと、アイ君がにっこりと笑ってくれた。


「じゃあ、あるじは安心して今日おひめさまになれるんだな!」

「もう、アイ君ってば……褒めるのが上手すぎ~!」


 そんな風にワイワイしながら、私たちは会場のホールへと向かう。

 校舎内がいつもより華やかに輝いていた。普段使われていないランプも照らされ、多くの花が飾られている。ホールへ向かう道にも赤い絨毯が敷かれて、歩いているだけで照れくさくなっちゃうな。


 だけど、ホールが近づくたびに、私は違和感に気が付く。

 新入生の歓迎パーティーということで、他学年の生徒も出席する。ドレスコードがあるのは主役の一年生だけだから、他学年の生徒たちのドレスは色とりどりなんだけど……緑のドレスの人がいた。


 あれ? 主役とドレスの色が被っていいの?

 しかも一年生の集合場所にそろった顔ぶれが、私を見るや否やクスクスと笑っていた。


「見て、あれ」

「おかしい、一生懸命ドレスを用意したんでしょうけど」


 なんでみんな、白いドレスを着ているの……?


 そんなとき「ちょっとあなた!?」と私は肩を叩かれた。

 入学式のときに隣の席だった巻き髪ちゃんだ。

 彼女もまたレースがふんだんに使われた白いドレスを華麗に着こなしていた。


 クラスが違ったから、あれから話す機会はなかったけど……彼女は入学式のときと同じように真剣に、親切に私を見つめてくれていた。


「どうして、そんな色のドレスを着ていらっしゃいますの!?」

「え、だって……ドレスコードって、『緑』……だよね?」


 だからこそ、いやでも気が付いてしまうんだ。

 私が、また間違ってしまったことを。


「プリントを見てないんですの!? 『白』と記載ありましたでしょう? そうでなくても、デビューの令嬢は何にも染まらぬ『白』が基本。社交界の基本でしてよ!」


 知らない……私、社交界の基本なんて知らないよ……。


 だからこそ、私は何度も確認した。

 アネモネちゃんがわざわざ持ってきてくれたプリントを何度も何度も……。


 つまり、あのプリントが間違っているなら……。

 私が今、笑われている原因を作ったのは――。


 冷たくなった指先を、アイ君が「あるじ」と掴む。


「おれ、白い服を探してくるから! 絶対に絶対に見つけてくるから!」


 あぁ、アイ君が走り去ってしまった。

 そんなアイ君にも陰口は止まらない。


「健気な子犬ですわね」

「あんな主人では元奴隷とはいえ可哀想ですわ」


 視界が定まらない。

 全身の震えが止まらない。


 それでも、私の耳は周囲の嫌な言葉だけをきれいに拾ってくる。


「さすがアネモネ様ですわ。ここ一番でこんな大きな嫌がらせを仕掛けるなんて」

「今までもアネモネ様の指示だったとはいえ……随分かわいいイタズラばかりと辟易してましたの」

「スッキリしましたわ。こんな恥を掻いたら、一生パーティーには参加できませんわね」


 クスクスと、クスクスと私を嘲る声が私を包む。

 あぁ、巻き髪ちゃんが私の両肩を掴んで、何かを言ってくれている。


 でも、私はとある事実に頭がいっぱいで、何も聞き取ることができなかった。


 私、アネモネちゃんに騙されたの?

 今まで嫌がらせも、全部アネモネちゃんの指示だったの?


 私……アネモネちゃんに嫌われていたの……?


作者から、ここまで読んでくれた皆様へお願いです


「おもしろい!」「続きが楽しみ!」「本当にアネモネはナズナを貶めたかっただけ?」

などと、少しでも思っていただけましたなら、


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