10話 青い薔薇に導かれて
◆
「はあ~、私の従者、ほんとかわいい!」
「あるじ……毎日それ言って、飽きないか?」
アイ君が正式な私の従者になって、三日。
私は毎日アイ君にうっとりしていた。
だって、何をしていてもかわいいのだ。
朝はワンコ姿で顔をペシペシ起こしてくれるアイ君。かわいい。
その後、人型になって蝶ネクタイがまだ結べないアイ君。かわいい。
食堂で不器用に配膳してくれるアイ君。かわいい。
フォークとナイフの使い方がおぼつかないアイ君。かわいい。
授業終わりに迎えに来てくれては、ニッコリしてくれるアイ君。かわいい。
寝る前にはワンコ姿に戻って、背中を踏み踏みしてくれるアイ君。かわいい。
そのままベッドでいっしょに寝てくれるアイ君。はい、かわいい。
幸せである。健気なペットと弟を一緒に手に入れた気分だ。最高である。
だから、私は今日もお迎えにきてくれたアイ君をぎゅーっと抱きしめた。
「私がぜったいに幸せにするからね~っ!」
行きかう人々が「奴隷相手に頭おかしい」とか「人前で恥ずかしくないのかしら」とか言ってくるけど、気にしない。だって私が負い目を感じていたら、アイ君が委縮しちゃうだけだからね。
私がたっぷり愛情を与えて、アイ君には心身ともに健やかに育ってもらうのだ!
そう心の中で息巻いていると、当のアイ君がふくれっ面になる。
「それちがう……おれが、あるじをしあわせにするんだ」
はい、アイ君はかわいい。もうこれは世界の真理。
アネモネちゃんからもらったスーツもとてもよく似合っていた。
褐色肌とピンク髪のコントラストが映える、紺色のジャケットとズボン。
それにケモ耳としっぽ付き。はい、かわいい!
というわけで、こんなかわいい従者をくれたアネモネちゃんには感謝しかない。
ついでに……助けてくれた殿下にも、お礼がしたい。
「ねぇ、アイ君。世のお金持ちって、何をプレゼントされたら嬉しいと思う?」
「……金、とか?」
「たしかに。アイ君は天才だね」
よしよし頭を撫でながらも、今度は私がちょっと口を尖らせる。
アイ君の答えはたしかにこの世の真理だけど……残念ながら、私は貧乏。
しかも貴族社会と離れて暮らしていた女である。イマドキの貴族が喜ぶ贈り物などさっぱりわからない。
さて、どうしようか……。
私が悩みながら歩いていたときだった。
「あるじ!」
「わっぷ……」
何かにぶつかる。目の前には服にぴっちり浮かび上がる厚い胸板。そろーり視線をあげれば、借金取りもびっくりな黒肌にサングラスのムキムキ従者さん。
そんな屈強な男性が、私の背中に手をまわしながらホッと息をついていた。
「転ばせないでよかった……」
「大丈夫です。こちらこそ……ぶつかってすみません……」
私が謝罪を口にすると、ムキムキ従者さんがパアッと顔を輝かせた。
「聞いてください、お嬢様! こちらの方がワタクシと話してくれました!」
「よかったわね」
そう無表情で応じたのは、青髪が凛々しい女性だった。
男性のように短い髪。だけど、白いスカートから伸びる足はすらりとしなやか。
彼女は入学式のとき、ルシアン殿下から青い花をもらっていた――
「花の御三家の……」
「おや、わたしのこと御存知なのかい? ナズナ・フェルミエくん」
「ふぉ!?」
思わず変な声を出してしまう。
なぜ、二年生でもあるこの人が、私なんかの名前を……?
私が目を見開いていると、青の御三家の方が妖艶に「まあいい」と笑った。
「これも何かの縁だ。このあと一緒にお茶でもいかがだろう? そうだな、わたしの従者がぶつかってしまったお詫びって理由でいいかな」
「はい??」
なんですか、そのとってつけたような理由は?
通りすがりの人たちも「なんでローズ様はあんな人に構って」「わたしだってロース様とお茶をしたいのに!」「あぁん、わたくしの王子様~♡」などとコソコソしているけど……たしかにミステリアスすぎる。飾り気のないところも含めて内から美しさが溢れている方だけど、とってもミステリアス……というか、謎!
だけど……私からしたら、こんな高貴な人と話せる機会は渡りに船だ。
「あの、そういうことでしたらお願いしたいことが」
「なにかね! きみのお願いごとならなんでも聞いてあげるよ!」
だから、なんでこんな積極的にいい人なの~!?
アイ君はアイ君で、ムキムキ従者に「細身だけど将来有望ないい筋肉しているね」と褒められ困惑している。アイ君、ちょっとの間だけごめん……と思いながら、私は青の御三家の方に聞いてみる。
「お金持ちの人が、お金ない人から貰うのだったら、どんな物が嬉しいですか?」
「なるほど、アネモネくんへのお礼か。そういうことならやっぱり共にお茶を――」
だから、なんで全部語ってないのにアネモネちゃんの名前が出てくるの!?
と、おめめぐるぐるになっていたときだった。
「ちょっと待ちなよ。その子が困ってるよ、ローズ嬢」
私たちの間に入ってくるのは、キラキラ尊顔の王子様。
きゃ~、と黄色い悲鳴を引っ提げて、今日も女子校に気軽に出入りしている王太子こと、ルシアン殿下である。
だけどその尊顔を見た途端、ローズと呼ばれた青の御三家の方が、蔑むような目を返していた。
「あらルシアン殿下。ごきげんよう」
「はは、相変わらずだね、ローズ嬢は」
二人の間に吹きすさぶ凍えるような空気に、私とアイ君は身を寄せ合って震えることしかできない。ど、どんな関係ですか、お二人は。
そんな私たちを、ローズ先輩はまとめて抱きしめてくる。
「邪魔しても無駄だよ。これから二人はわたしが拉致するのだから」
「僕は共犯にしてくれないのか?」
「だめ」
殿下の甘い囁きを即座に否定して、ローズ先輩は抱きしめる手を強くする。
「女だけの楽園なの」
そうして、私はローズ先輩に手を繋がれ、あれよあれよと連れ去られてしまう。
アイ君も、ムキムキ従者に肩車してもらってついてくるらしい。
目を白黒させるアイ君がかわいい……と感動する前に、私は慌ててを開いた。
殿下のおかげで、こんなかわいい従者ができたのだから。
せめて、言葉だけでも。
「こないだは、勉強、ありがとうございました!」
すると、ルシアン殿下は苦笑しながら手を振り返してくれる。
「お礼は身体で返してくれればいいよ!」
それは任せてほしい!
ちゃんと王城書記官になって、賃金に相応しいだけの働きぶりで恩を返す所存だ!
だから「期待してくださいね!」と笑顔で応えると、ローズ先輩が「ぶふっ」と口元を押さえていた。
……風邪気味なのかな?
そして、ローズ先輩に連れていかれた先は学園の中庭だった。
あずまやの周りには、百合と薔薇とアネモネの花が生けられている。
白と、薄紫と、赤い、三色。
その花を指して、ローズさんが言った。
「青い薔薇は実在しないからね。そこは心の目で補足してくれ」
その言葉の不思議を、私が問うよりも前だった。
「どうして、あなたが!?」
「アネモネちゃん!」
あずまやの一席で、アネモネちゃんが立ち上がっている。
もう一席に座っているのは……もしかして、白の御三家の人?
私が事情を把握できないでいると、アネモネちゃんが詰め寄ってきた。
「今日は月一回の御三家のお茶会……全生徒憧れの場所で、おいそれと参加していいものではないのよ!?」
え……花の御三家の……お茶会……?
振り返ると、ローズ先輩が無表情のままピースをしていた。
「欲しいものは、直接聞いたらいいと思って」
作者から、ここまで読んでくれた皆様へお願いです
「おもしろい!」「続きが楽しみ!」「お茶会どうなるの!?」
などと、少しでも思っていただけましたなら、
【ブックマーク登録】、感想やレビュー、並びに、
ページ下の評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)から、応援いただけると嬉しいです。
皆様からの声や反応が何よりのやる気に繋がります。
ぜひご協力のほど、よろしくお願いいたします!




