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雑草令嬢が王子らの溺愛を全力スルーした結果~王太子からの求婚はいらん、青春をくれ!~  作者: ゆいレギナ
1-2 花咲くお茶会とダンスのお相手

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10話 青い薔薇に導かれて

 ◆


「はあ~、私の従者、ほんとかわいい!」

「あるじ……毎日それ言って、飽きないか?」


 アイ君が正式な私の従者になって、三日。

 私は毎日アイ君にうっとりしていた。


 だって、何をしていてもかわいいのだ。


 朝はワンコ姿で顔をペシペシ起こしてくれるアイ君。かわいい。

 その後、人型になって蝶ネクタイがまだ結べないアイ君。かわいい。

 食堂で不器用に配膳してくれるアイ君。かわいい。

 フォークとナイフの使い方がおぼつかないアイ君。かわいい。

 授業終わりに迎えに来てくれては、ニッコリしてくれるアイ君。かわいい。

 寝る前にはワンコ姿に戻って、背中を踏み踏みしてくれるアイ君。かわいい。

 そのままベッドでいっしょに寝てくれるアイ君。はい、かわいい。


 幸せである。健気なペットと弟を一緒に手に入れた気分だ。最高である。

 だから、私は今日もお迎えにきてくれたアイ君をぎゅーっと抱きしめた。


「私がぜったいに幸せにするからね~っ!」


 行きかう人々が「奴隷相手に頭おかしい」とか「人前で恥ずかしくないのかしら」とか言ってくるけど、気にしない。だって私が負い目を感じていたら、アイ君が委縮しちゃうだけだからね。


 私がたっぷり愛情を与えて、アイ君には心身ともに健やかに育ってもらうのだ!


 そう心の中で息巻いていると、当のアイ君がふくれっ面になる。


「それちがう……おれが、あるじをしあわせにするんだ」


 はい、アイ君はかわいい。もうこれは世界の真理。


 アネモネちゃんからもらったスーツもとてもよく似合っていた。

 褐色肌とピンク髪のコントラストが映える、紺色のジャケットとズボン。

 それにケモ耳としっぽ付き。はい、かわいい!


 というわけで、こんなかわいい従者をくれたアネモネちゃんには感謝しかない。

 ついでに……助けてくれた殿下にも、お礼がしたい。


「ねぇ、アイ君。世のお金持ちって、何をプレゼントされたら嬉しいと思う?」

「……金、とか?」

「たしかに。アイ君は天才だね」


 よしよし頭を撫でながらも、今度は私がちょっと口を尖らせる。

 アイ君の答えはたしかにこの世の真理だけど……残念ながら、私は貧乏。

 しかも貴族社会と離れて暮らしていた女である。イマドキの貴族が喜ぶ贈り物などさっぱりわからない。


 さて、どうしようか……。

 私が悩みながら歩いていたときだった。


「あるじ!」

「わっぷ……」


 何かにぶつかる。目の前には服にぴっちり浮かび上がる厚い胸板。そろーり視線をあげれば、借金取りもびっくりな黒肌にサングラスのムキムキ従者さん。


 そんな屈強な男性が、私の背中に手をまわしながらホッと息をついていた。


「転ばせないでよかった……」

「大丈夫です。こちらこそ……ぶつかってすみません……」


 私が謝罪を口にすると、ムキムキ従者さんがパアッと顔を輝かせた。


「聞いてください、お嬢様! こちらの方がワタクシと話してくれました!」

「よかったわね」


 そう無表情で応じたのは、青髪が凛々しい女性だった。

 男性のように短い髪。だけど、白いスカートから伸びる足はすらりとしなやか。

 彼女は入学式のとき、ルシアン殿下から青い花をもらっていた――


「花の御三家の……」

「おや、わたしのこと御存知なのかい? ナズナ・フェルミエくん」

「ふぉ!?」


 思わず変な声を出してしまう。

 なぜ、二年生でもあるこの人が、私なんかの名前を……?


 私が目を見開いていると、青の御三家の方が妖艶に「まあいい」と笑った。


「これも何かの縁だ。このあと一緒にお茶でもいかがだろう? そうだな、わたしの従者がぶつかってしまったお詫びって理由でいいかな」

「はい??」


 なんですか、そのとってつけたような理由は?


 通りすがりの人たちも「なんでローズ様はあんな人に構って」「わたしだってロース様とお茶をしたいのに!」「あぁん、わたくしの王子様~♡」などとコソコソしているけど……たしかにミステリアスすぎる。飾り気のないところも含めて内から美しさが溢れている方だけど、とってもミステリアス……というか、謎!


 だけど……私からしたら、こんな高貴な人と話せる機会は渡りに船だ。


「あの、そういうことでしたらお願いしたいことが」

「なにかね! きみのお願いごとならなんでも聞いてあげるよ!」


 だから、なんでこんな積極的にいい人なの~!?

 アイ君はアイ君で、ムキムキ従者に「細身だけど将来有望ないい筋肉しているね」と褒められ困惑している。アイ君、ちょっとの間だけごめん……と思いながら、私は青の御三家の方に聞いてみる。


「お金持ちの人が、お金ない人から貰うのだったら、どんな物が嬉しいですか?」

「なるほど、アネモネくんへのお礼か。そういうことならやっぱり共にお茶を――」


 だから、なんで全部語ってないのにアネモネちゃんの名前が出てくるの!?

 と、おめめぐるぐるになっていたときだった。


「ちょっと待ちなよ。その子が困ってるよ、ローズ嬢」


 私たちの間に入ってくるのは、キラキラ尊顔の王子様。

 きゃ~、と黄色い悲鳴を引っ提げて、今日も女子校に気軽に出入りしている王太子こと、ルシアン殿下である。


 だけどその尊顔を見た途端、ローズと呼ばれた青の御三家の方が、蔑むような目を返していた。


「あらルシアン殿下。ごきげんよう」

「はは、相変わらずだね、ローズ嬢は」


 二人の間に吹きすさぶ凍えるような空気に、私とアイ君は身を寄せ合って震えることしかできない。ど、どんな関係ですか、お二人は。


 そんな私たちを、ローズ先輩はまとめて抱きしめてくる。


「邪魔しても無駄だよ。これから二人はわたしが拉致するのだから」

「僕は共犯にしてくれないのか?」

「だめ」


 殿下の甘い囁きを即座に否定して、ローズ先輩は抱きしめる手を強くする。


「女だけの楽園なの」


 そうして、私はローズ先輩に手を繋がれ、あれよあれよと連れ去られてしまう。

 アイ君も、ムキムキ従者に肩車してもらってついてくるらしい。

 目を白黒させるアイ君がかわいい……と感動する前に、私は慌ててを開いた。


 殿下のおかげで、こんなかわいい従者ができたのだから。

 せめて、言葉だけでも。


「こないだは、勉強、ありがとうございました!」


 すると、ルシアン殿下は苦笑しながら手を振り返してくれる。


「お礼は身体で返してくれればいいよ!」


 それは任せてほしい!

 ちゃんと王城書記官になって、賃金に相応しいだけの働きぶりで恩を返す所存だ!


 だから「期待してくださいね!」と笑顔で応えると、ローズ先輩が「ぶふっ」と口元を押さえていた。


 ……風邪気味なのかな?




 そして、ローズ先輩に連れていかれた先は学園の中庭だった。

 あずまやの周りには、百合と薔薇とアネモネの花が生けられている。


 白と、薄紫と、赤い、三色。

 その花を指して、ローズさんが言った。


「青い薔薇は実在しないからね。そこは心の目で補足してくれ」


 その言葉の不思議を、私が問うよりも前だった。


「どうして、あなたが!?」

「アネモネちゃん!」


 あずまやの一席で、アネモネちゃんが立ち上がっている。

 もう一席に座っているのは……もしかして、白の御三家の人?


 私が事情を把握できないでいると、アネモネちゃんが詰め寄ってきた。


「今日は月一回の御三家のお茶会……全生徒憧れの場所で、おいそれと参加していいものではないのよ!?」 


 え……花の御三家の……お茶会……?

 振り返ると、ローズ先輩が無表情のままピースをしていた。


「欲しいものは、直接聞いたらいいと思って」




作者から、ここまで読んでくれた皆様へお願いです


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