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転生造船技師は最強艦隊を作る  作者: 竹本田重郎


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第38話 航行試験

最強の戦艦が産声をあげた。




「こうもガッチリと固められたらな…」




「まあ、甲板から映像記録を残すとか、適当なことをいえば」




「胸を張りましょうや。我らの大和です。牧野さんに西島さん、皆で完成させた」




 高知県の南方の海にて戦艦が親潮に逆らっている。力強い走りは大日本帝国の勝利を約束した。日本が建造した最後にして最強の戦艦である。大和が全力の航行試験に臨んだ。西島式のおかげで規格外にもかかわらず計画通りに進んでいる。主砲から電探まで搭載を終えた。固定も完了してネジ一本の緩みを許さない。




 最後の総仕上げと言わんばかり全力の航行試験が行われた。日本海軍の粋をかき集めている。金剛型巡洋戦艦の快速と長門型戦艦の火力を磨き上げて一本に纏め上げた。大和は設計時点は最速33ノットを目指したが流石に無茶が過ぎるとして30ノットに引き下げる。藤本案は夢物語と落胆することなく最上級の現実を目指した。牧野茂にできないことはない。




「艦本式タービンと艦本式ディーゼルが組み合わさる。こんな巨体を30ノットでぶっ飛ばした。隼鷹と飛鷹がついてこれるかなんてね。記録班も大変である。あとで労ってやろう」




「牧野さんはやさしい」




「どこぞの軍人たちとは違うんだ。願わくば、大和が正しく運用されることを」




「一応言っておくと全て聞こえている。我々を疑っているのかね」




「当然でしょう。連合艦隊はすぐに胡坐をかく」




「その毒舌はどうにかならんのかね」




 大和に主機関という主機関はなかった。伝統の艦砲式蒸気タービンは汎用駆逐艦の物を採用しているが信頼性のためデチューンが施されている。これにより故障のリスクを低減したが最高速を稼げなくなった。ここで艦本式ディーゼル機関の出番である。ドイツからMAN社やBMW社の技術者を招聘して大型艦向けの大出力ディーゼル機関を研究していただいた。すでに小型艦向けは国産で固めている。大型化に伴う大出力が困難だった。異常振動や出力不足など数多の課題を抱える。一個ずつを丁寧に潰していった。一部の海防艦や水上機母艦に搭載して実際に試しながら完成度を高める。各員の努力が実って遂に要求を満たす逸品が製造された。




 単艦決戦思想によるため逸品でよい。補修用の部品などスペアは多く用意したが二個目や三個目の製造は考えていなかった。大和だけでよい。二番艦や三番艦をほのめかすがブラフに過ぎなかった。欧米諸国を動揺させるに丁度良い。日本海軍が新鋭戦艦を建造していることは漏れていた。こればかりは致し方ない。各国海軍が建造するのだから予測できることでもあった。それでは逆手に取るのみ。機密情報の塊であるが情報戦の駒も兼任していた。日本を軽視する傾向がある中ではとてもやりやすい。




「それにしても壮観です。51cm三連装砲3基9門を前部集中配置しています。正面から側面にかける砲火力は絶大を極めた。後部に対して砲撃できない点は副砲が補うばかり」




「そもそも大和が追いかけられる。そういう場面を作り出すことが誤っていた。偶発的に起こりえることは否定しない。正面を見て戦っていただきたい。そうですな、山本長官」




「上手く扱えと言いたいならば、そう言えばいいじゃないか」




「失礼いたしました。真っ当に扱ってくれるかわからず」




「ふん…何も言えん」




「本艦はまもなく30ノットに到達いたします。隼鷹と飛鷹が右舷と左舷を固めておりますが…」




「波の影響は大丈夫そうだな。よかった、よかった」




 大和が送られる連合艦隊と大和を造った造船組が乳繰り合っていた。一時中断を余儀なくされる。もうすぐで大和は最高速である30ノットに到達しようとした。大和の全速力は機密事項に含まれる。これを知られてはならないと厳重なる封鎖が行われた。海域は完全に封鎖されて流木一本でも高角機銃の実弾が穿つ。完全に視界も塞ぐために大和の両舷を商船改造空母の隼鷹と飛鷹がピッタリと寄り添った。大和の建造中も隠すために姉妹が交代で蓋をする。




 隼鷹と飛鷹はどちらも豪華客船を改造していた。客船と建造する時から将来的な空母改造を見据えていた故に短期間で改造工事は完了する。正規空母と比べて防御力に欠けるが搭載機数は翔鶴型に匹敵して高角砲もズラリと並んでいた。下手な空母よりも居住性と安定性に優れるため評価は上々である。それでも改造空母は改造空母のため、一個の独立した艦隊を構成するのではなく、大和を支援する随伴空母の役割を担った。姉妹の乗組員は幸せである。大和の全速航行を最も間近から眺めることができた。




 30ノットで航行した際に発生する人工的な波浪が僚艦に影響を与えないか。バルバスバウの採用から軽減しているはずだが最後まで気は抜けなかった。大型艦が高速航行した際の波浪は馬鹿にならない。駆逐艦ですら揺られるのだ。いざという時に高速航行によって連携が崩れては本末転倒である。牧野も最後まで苦しめられた。大和を縮小した模型を使った模擬試験は千回単位で行っている。




「機関は大丈夫ですか?」




「今のところ不調の声は上がっていません。バッチリです」




「これならいけるか。ハワイまで」




「まだ固執している。本当に諦めの悪い方だ」




「そこは米本土までと言ってほしい。連合艦隊司令長官がこれでは…」




「まぁまぁ…ここでは控えましょう」




 いつの時代も設計者と使用者の衝突は絶えなかった。この場において艦長が責任を持って仲裁に入る。第三者的な上に大和の安全を預かった。航行試験の時点で真っ二つに割れては喜ぶに喜べなかった。何も失敗していないのに終始険悪でいられては困る。それにしても、造船技師が連合艦隊司令長官に食って掛かる構図は心臓に悪かった。その気になれば一発で飛ばせる。そのような時代は終わった。平賀譲を蹴り落として故藤本喜久雄の寵愛を受ける。さらに、米内や長谷川に堀など権力者の保護を得た。連合艦隊司令長官に食って掛かることは造作もない。一旦は収まったが空気は相変わらずのため牧野ら一行は艦橋を離れた。エレベーターを贅沢に使用して楽々降りると後部甲板に向かう。




「艦前部集中配置に伴う重量の問題から後部は副砲の群れとした。15cmと10cmの高角砲を並べている。本当は飛行甲板でも置きたかったが、あの人らが納得せんだろうし、今回は泣く泣くと見送っていたよ」




「さすがに無理ですよ。まだ戦艦を叫ぶ人がいますし、今度は本当に撃たれます」




「おぉ怖いな。自衛の拳銃が手放せない」




「水上機を思い切って無くしたおかげでスッキリしていますね。155mm三連装高角砲3基が良い味を出しました。10cm高角砲は両舷を中心に5基ずつ10基20門を備える」




「もっとやれたかもしれないが一旦は様子見だ。余裕があれば何とでもなる」




 艦前部集中配置の弱点は後部に対して有効な火力を投射できないことだ。牧野設計の巡洋艦も同様だが航空機運用能力を付与しているため気にならない。大和のような大戦艦は大問題と指摘できた。防空の増強も織り込もう。155mm三連装高角砲を三角形に配置した。高初速の徹甲弾を素早く大量に投射する。これによる後方の敵艦に圧力を加えた。155mm砲は高角砲と開発されている。大仰角をとることで高度1万の敵機を捕捉できた。多連装砲の強みたる砲弾をたくさん投射できる点を活かして弾幕形成に一役買ってもらう。両舷の敵機に対しては10cm高角砲、20mm又は15mmの高角機銃が控え、まさに隙の無い防空を敷いていた。




「風が気持ち良い。大和は世界最強の戦艦だ」




続く

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