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転生造船技師は最強艦隊を作る  作者: 竹本田重郎


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第3話 藤本案の修正

藤本喜久雄は相応の人物である。艦政本部に座して平賀譲と真正面から衝突できる造船士官だった。平賀は猛烈に批判して止まらない。その先進的な思想は学ぶところが多かった。頑迷なお爺さんと異なり柔軟で人望のある。数年以内に悲運にも病死してしまうが、今のうちに庇護をもらっておけば、藤本の後継者と名乗りを上げられた。




「自分の好きなようにやらせてほしいとな」




「平賀のご老体に縛られては堪ったもんじゃありません。新時代の海戦は新時代の軍艦からです」




「若い…若いからこそだ。良いだろう。私の部屋で仕事をしなさい」




「ありがとうございます」




 さすがの柔軟性である。転生牧野茂という生意気な若手の要望をすんなりと受け入れた。自身の右腕になれという引き抜きのスカウティングである。またとない絶好機だ。ある程度は己の裁量を認めていただきたいと条件を付ける。傍から見て聞いていれば絶好機を自ら投げ捨てるような行為だった。その心意気を認めたのか笑って承諾してくれる。艦政本部や横須賀鎮守府を自由に移動できるフリーパスを得た。少佐といえど可能なこと不可能なことがキッパリとわかれる。その点では藤本氏のバックアップは絶対的だった。




 善は急げと言わんばかり、藤本氏の仕事部屋に自ら進んで入り、広々とした部屋で大量の紙を渡される。どっさりと積み上がった。コンピュータも何もない。簡易的な計算機と昔ながらの定規を駆使していた。アナログだからこその温かみと生温いことは言っていられない。自分たちの働きは世界大戦を彩る海戦の勝敗を分けた。影の功労者となるか影の裏切り者となるか至上の博打である。それ故に保守的な思想に基づいた設計に走ることに理解を示した。安全策を採ることは如何なる業種に共通する。しかし、それは同時に現状維持という退化だった。特に大日本帝国という小さな帝国は非合理的に活路を見出す。




「それでだ。牧野少佐の巡洋艦は見させてもらった。確かに優れたものだが奇抜すぎたな。私から推挙しておく」




「是非とも、お願い致します。藤本少将の推薦があれば通らないはずがありません」




「まだ少将の身だよ。いずれ中将になるかもしれないが今は少将であるからね」




「私が中将を越えて大将まで押し上げます」




「ほう。やってくれるか」




「やらせていただきます」




 それは廃案に追い込まれた金剛型戦艦代替案だった。すでに金剛型戦艦は日本海軍を代表する巡洋戦艦である。ワシントン海軍軍縮条約が失効する時には艦齢20年を迎えた。したがって、金剛型戦艦を置き換える代替の戦艦を計画する。巡洋戦艦ではなく主力戦艦のような形だった。これはアメリカ海軍が巡洋戦艦を建造しないという読みが存在したからである。藤本と平賀の両氏が計画を提出して議論を繰り広げた。




 藤本は主力戦艦としては少し小ぶりに収めつつ、全体防御の採用やダメージコントロールを意識するなど、全体的にバランスよく仕上げている。一方の平賀は主力戦艦らしく八八艦隊を踏襲していた。標的艦の実験から得られた情報を反映して保守的ではあるが古臭くはない。両氏の案はそれぞれの良さがあって甲乙つけがたかった。平賀は藤本を私的に嫌っていたらしい。海軍の中央部で検討が進められたが、ご存知の通り、ロンドン海軍軍縮条約から見送られた。




 金剛型戦艦だけでなく、扶桑型戦艦や伊勢型戦艦の代替を考えていた中では痛恨である。こればかりはやむを得ないと諦めては日本の技術者でなかった。厳しく制限された中で最大の成果を得る。ドイツと比べれば幾らか融通の利く環境なんだ。これに腐らないで切り替えを図る。ただ気持ちを切り替えるだけでは意味がなかった。己の頭を働かせ己の手を動かし、芸術品たる軍艦を生み出すべし。




「ロンドン条約の枠内で収めることはとうに不可能となった。どこかを取りやめればいい。戦艦屋も空母屋も水雷屋も誰もがウンと首を振らないんだ。わかるだろう」




「はい。そりゃそうだとしか思いません」




「その通りなんだが上手いことできないか。金剛型戦艦の代替は崩れている。巡洋戦艦にしてもいい。重巡洋艦に落としてもいい。空母にしたっていい。標準設計は良い考えだ。私も使わせてもらう」




「それではお預かりいたしました」




「うん。頼む」




 なるほど、平賀譲に比べて遥かに付き合いやすい人物だった。こういう柔軟な思想の持ち主が上司なのは非常にありがたい。しかし、この後の大事件を考えると複雑だった。今のうちに抱えるだけで抱えておこう。自分の手元に置いておけば適当に言い繕って追及を逃れることができた。むしろ、大事件を契機にして成り上がることができるかもしれない。




「それはともかくなんだなぁ。金剛型代艦を基にしつつ条約の中で収まる。そんな都合よく作れるもんか…」




 まるで廃材だらけのゴミ置き場から拾ってきた。金剛型代艦の藤本案を本人から預かったまではよい。問題はどうやってロンドン海軍軍縮条約を回避しながら実現できるかだ。とうに条約の範囲内における航空母艦と巡洋艦、駆逐艦など計画が立っている。これに手を入れて切り崩そうとすれば怖い将校が怒鳴り込みに訪れた。海軍軍縮条約を端から無視する手もある。それは国際問題になりかねなかった。自他共に認めるアジアを代表する盟主である以上は国際的な枠組みは容易に無視できない。アメリカやイギリスほどに国家が大きければ無視のやり様もあったが未だ小国なのだ。




「平賀さんの思想を入れつつ、藤本さんの先進性をいただき、ドイツの無茶を消化する。排水量は約1万トンの小柄な船体にして書類上で偽装を図る。それに重武装をパンパンに詰め込む。夕張の例があるから研究はやりやすいはずだ…」




 頭の中で練り始める。新型巡洋艦に次いで潜水母艦の空母改造案、金剛型代艦(藤本案)まで握った。まず常人には耐えられない。ハードワークも当人からすれば楽しい時間だった。技術士官はインテリジェンスという特権を有する。同じ軍隊でも煩わしい上官や無能な味方に悩まされることはない。伝統芸能である鉄拳制裁が振るわれることは皆無だ。その代わりに最大の成果を出さなければならない。ちょっとした出来事により閑職に追いやられた。




「武装は8インチ三連装砲に対抗することを考えて同程度じゃ足りない。砲塔の数を増やしても重くなるし防御も怖い。これに前部集中配置は向いていないから均等に配置するとして…」




 廊下をブツブツと呟きながら歩くことが常態化していると周囲から奇怪と見られる。日本人は周囲の目を気にしすぎだ。周囲の目という要らないことに気を払う。なんて非生産的なことだ。自分は自分である。他人は他人なんだ。我が道を歩むことが成功の一歩である。




「最速35ノットの健脚と潤沢した対空兵装の数々は大前提にする。水雷兵装は思い切って切り捨てるが後付けできる余裕は設けておいた。主砲は30cmの三連装砲か。いや無理だな。う~ん。どうするべきかを考えるためにシベリアを仕入れに行くぞ」




 ゆっくり歩きながら考えることで思考の効率化を図った。しかし、思考の源である糖分が不足していることが明らかになる。一気にスピードアップして菓子屋を目指した。皆が大好きなシベリアを仕入れる。甘味ほどに優れた食べ物は存在しなかった。太ることは度外視である。太るわけがなかった。これだけ頭を回転させている。なんと健康的な生活を送っている。商品の待ち時間も考えた。菓子屋のおばあちゃんが手際よくシベリアを包んでくれる。どの道でもプロというのは素晴らしいものだ。




「長砲身による高初速と高精度の一撃だ。60口径で差をつける」




「はい?」




「あぁ、独り言です」




続く

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