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転生造船技師は最強艦隊を作る  作者: 竹本田重郎


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第2話 空母改造を予定した

また新しい課題がやってきたので仲間たちと煙草を吹かしながら議論した。




「条約対象外の潜水母艦や飛行艇母艦、救難艦ならば制限なく建造でき、かつ必要とあらば空母に改造できる」




「おいおい、潜水艦の母艦だって要るだろう。上から高速な潜水母艦の要求なんだろ?」




「そんな特設で足りている。本気の軍艦にしちゃ勿体ない」




 今度の問題はロンドン海軍軍縮条約の制限から逃れながら有事の際は迅速に航空母艦へ改造できる。そんな詐欺のような軍艦だった。ロンドン海軍軍縮条約は補助艦にもメスを入れることで日本の増長を防止する。抑え込みを図ったが舐めてもらっては困るんだ。紫煙が揺らいでいる。補助艦の中に潜水母艦や敷設艦など二線級ないし三線級は一定の基準の下に含まれていなかった。これらは小型だったり、低速だったり、最前線に出るものではない。日本海軍が保有しても怖くないと判断したようだ。あまりにも甘ちゃんと笑いが止まらない。あとですぐに改造できる余地という性能を残した。




 海軍の建造計画に基づいて進めるが上からの指示に真っ向から反対する。高速な潜水母艦を与えられたが主機関の時点で変更を予定した。従来のタービンではなくディーゼルを命ぜられるが不可能と突っぱね返す。潜水艦の小型艦は構わないが大型艦艇を高速で動かすには無茶が否めなかった。確かに航続距離を長大に確保できて有利を得られる。現にドイツ海軍がドイッチュラント級装甲艦にて実用化に成功した。それはドイツの積み重ねてきた不断の努力による。日本が数年で実用化できる代物でなかった。したがって、従来通りの蒸気タービン機関に変更を入れる。怒られても正面からぶった切るつもりだ。それでも一応の逃げ道は用意している。




「考えているのはこれだ」




「ちょっと待てよ。タバコを置く」




「もっと離してくれ。良い紙が燃えちまう」




「わかっとるわ」




「灰皿あるか?」




「ない」




「ったく、用意しとけよ」




 こういう時間が意外と良案を生み出してくれた。変に気負っているよりも脱力しているが天啓を得られる。天啓というものは後付けに過ぎなかった。当人のみが持ちうる知識と結果を小出しにする。一気に解き放ってもよいが何事も用法と要領を守るものだ。火災に気を付けながら図面を広げる。作業部屋に缶詰になって書き上げた。これを焼かれては泣くための涙すら出ない。どれだけタバコに緩い時代でも火気厳禁は理解していた。皆で「どれどれ」とみると額がぶつかり合うが気にするまでもない。そこに「う~ん」や「あ~」など言語化に至らぬ感想が響き渡った。一般的には気まずい時間も確かな手ごたえを感じている。




「これを基本設計にしたい。潜水母艦としての機能は後付けにして、何でも応用できる母体みたいな感じだが、今のうちに電気溶接を育成する。一線級の主力艦よりかは二線級のサブに向いていた」




「電気溶接ちゅうと八重山ぐらいだ。さすがに突飛すぎやしないか」




「だから、今のうちにやるんだ。失敗したって構わない。物として完成すれば潜水母艦にすればいい。晴れて成功したら両手を上げて万歳を叫びながら空母に改造する。どっちに転んでも美味い」




「先を見てるねぇ」




「俺は前しか見ない性分でな」




「この前の巡洋艦なんか久し振りに驚いたぞ。あんな設計は牧野しかできん。フランス帰りは伊達じゃないな」




 フランス帰りの天才や秀才などもてはやされた。すでに立場を確立した大御所からベテランまで平気で噛みついていく。30代は十分に若手らしい故に遠慮を知らなかった。普通は煙たがられて閑職に追いやられるが造船系の士官は貴重である。さらに、フランスで勉学を重ねた。こんな人材を閑職に追いやることはできない。ただいたずらに狂ったのではなかった。一見して奇想天外であるがよく考えられている。




 先日の新型軽巡洋艦も理に適った。艦隊の目となる水上偵察機を効率的に運用し、かつ軽巡洋艦として必要な火力を有しており、艦内の居住性という隅々まで考慮される。海戦はカタログの数値だけで決まらなかった。ダメージコントロールと居住性に代表される数値化できぬところこそ磨くべき。




「そんで、こっちが空母にした時の図面ね」




「手際が良すぎやしないか」




「手際は良すぎるがちょうどいい。別に図面だから何だっていける」




「本当にできるんだろうな? 夢物語は要らない」




「こりゃ厳しいことを言う。大丈夫だ。ちゃんと考えている」




 潜水母艦としての姿は面白味に欠ける故に省略した。しかし、実際に建造する際は電気溶接を全面的に採用する。まだ小型の敷設艦『八重山』で試したばかりだ。排水量が1万トンを超える大型艦に採用すると言い出す。仲間も「いくらなんでも突飛すぎる」と反対を示した。まだまだ発展途上の技術であることは百も承知である。今のうちに熟成を図り、本当に必要とされる時期に解放し、軍の要求に応えるのだ。仮に失敗すればよい経験として潜水母艦を全うしたり、高速輸送艦に変えたり、どうとでもなると宣言している。これが成功すれば後に一線級と二線級の間の艦艇と活躍できた。




 その上で航空母艦に改造した時の図面も提示する。改造空母の常として性能は抑えられてしまった。その中で精一杯を目指すところ、最初から野心的な数値が並び、夢物語と笑われるが、この牧野茂技術少佐は不可能を可能にしている。最高速は28ノットから30ノットを得るべく、艦本式タービンと艦本式ディーゼルのハイブリッドを採り、ディーゼルは低速航行に限ることで実現を目指した。これは複雑すぎると指摘される。れっきとした、逃げ道の一つだった。あとで変更はいくらでも。




「なに、電気溶接の全面的な採用から試験目的が明け透けじゃないか。トコトンやってみってこそ大和男児だ」




「こういう時は便利な言葉を使いやがって…牧野少佐のために考えてやるよ」




「すまない。今度酒を持っていくから頼んだ」




「仕方ない。俺も新しい高角砲を持ってこれるか話してみよう」




「どうか頼む」




 夢を実現できるか実現できないかは当人の努力だけに限らなかった。どれだけ多くの人を動かすことができるかも関わる。一人で可能なことはたかが知れていた。人間力が物をいう。ただの天才は高飛車であった。どれだけ頭が良くて切れ味抜群と雖も人がついてこなければ何もできない。タバコを吸い尽くしてシケモクは拾わずに解散となった。時は1931年のことである。①計画や②計画による建造を急ぎたかった。造船に粗製と乱造を許すわけにいかず、本当に必要な艦艇を選び、次々とテコを入れていく。




 建物の廊下をズイズイと歩いていると正面からズイズイと歩いてくる姿があった。どうやら向こうが偉く見える。さすがに無礼は働けなかった。自然に道を譲ってやり過ごそうとする。しかし、相手はこちらに向けて靴を鳴らした。音響探知式魚雷が追尾できない無音のはず。いったい誰なんだ。




「牧野茂少佐。頼みがある」




「はい。何でありますか」




「この藤本喜久雄の右腕になってほしい。平賀さんに勝つ」




「へぇ!?」




 その方は藤本喜久雄氏である。海軍艦政本部の大佐だ。長門型戦艦の屈曲煙突に始まり、初春型駆逐艦を設計するなど、斬新な思想から新時代の到来を思わせる。すでに重鎮と君臨した平賀譲からは嫌われていた。それ故に動きづらさが否めない。牧野とは後の最上型軽巡洋艦の設計を奪われた。そんな関係では断絶してもおかしくない。それがどうだ。ニコニコと笑いながら右手を掴んでくる。人望はあるようだが半ば強引な気がしてならなかった。




「一つ条件がございます」




続く

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