第29話 いざ空母改造
湘南電鉄に乗って横須賀を越えた三浦までやってきた。
「いやぁ、壮観だな。煮っ転がしを頬張りながら双胴空母や三胴空母を眺められる」
「剣崎型潜水母艦を引っ張ってよかったのです? 私は潜水母艦が必要だと訴えてきましたが」
「気持ちはわかる。事情も理解できる。しかし、何の護衛もなく前線には出れない。潜水母艦は勢力圏の内部で活動した。それなら商船改造の特設潜水母艦に足りる。仮に遠洋で活動する場合は下田や男鹿、その他特設巡洋艦、補給潜水艦にて代替とした。それでも不服であるか」
「この大河原は不服であります。ご承知おきください」
「わかった。わかったよ」
三浦には横須賀の海軍基地機能を分散させるために一時的な停泊所が設けられる。造船所もあるが専ら小型漁船のため、海軍の艦艇は横須賀を利用しており、あくまで混雑防止の停泊所だが、今日ばかりは異様な雰囲気が支配する。それもそのはず、半島と城ヶ島の中間に海軍の航空母艦が鎮座した。大改装工事を終えて習熟に出る直前らしい。多くの兵士が乗り込んでは物資の積み込みを行った。
普通は厳戒態勢が敷かれるところ警備自体は普段より少し厳しい程度に収まる。地元の子供たちがキャッキャと喜んでいた。いくら世界が燃えていると雖も日本は平穏無事を享受している。警備の兵士も雑に扱わずに飴を配るなど人心掌握に努めた。子供たちの純粋な心を今のうちに掴んでおく。将来的に彼らが水平に志願してくれることを狙った。
航空母艦も機密情報の塊であるが敢えてオープンにしている。世界という欧州が燃えている真反対の日本は化け物を生み出した。海軍軍縮条約が無効となった以上はやりたい放題であるが限度が存在する。条約逃れの一環と建造された潜水母艦は効力が切れた瞬間に航空母艦へと転用が決まった。最初から改造を盛り込まれた故に作業自体はスムーズに進むが正規空母と呼ぶには不足が著しい。したがって、弱者なりの戦い方を押し出した。
「日本海軍どころか世界の海軍でも類を見ない。双胴空母『祥鳳・瑞鳳』が誕生した。搭載機数は55機と雲竜型1隻にも満たない。艦載機を効果的に運用する点で凌駕した。片方は着艦を担い、もう片方は発艦を担い、同時並行である。これで隙の無い連撃ができた。それに自前でなくとも味方の空母艦載機や基地航空隊の収容と補給、再出撃も行える。こいつは空母というよりも前線移動基地だ」
「しかし、双胴による難点もございました。旋回半径は大きくならざるを得ず、元より巨大な図体のため被弾しやすく、特に潜水艦や航空機からの雷撃に脆弱です。水雷防御を敷いてないわけではありません。一発が致命傷になり得る」
「したがって、攻撃に割いた。攻撃は最大の防御である。それを言い始めれば航空母艦の全てが脆弱だ。伊吹型は装甲空母だが搭載機数は少ない。彼方立てれば此方が立たぬ。ならば彼方を突き抜けるまでだ」
「牧野設計の真髄極まれり」
「お、ちょうどよい。九六式が降りてくるぞ」
「陸攻ですか?」
「バカ言うな。艦戦だよ。それは三胴じゃないと無理だ」
「え、なんとおっしゃいましたか」
「いやぁ、美味いな。里芋ちゅうのは」
小さな食堂から双胴空母を眺めている。遅めの昼食に田舎定職を頼んだ。海の町であるが野菜をふんだんに使っている。特に里芋も煮っ転がしが絶品だった。二人の前で双胴空母の発着艦のデモンストレーションである。すでに何度も行われてきたが国内の士気発揚と国外の情報戦を兼ねた。実際はともかく双胴空母の見かけはショッキングである。これが欧米諸国に報道されれば面白い化学反応を見受けられた。
ピエロと化している双胴空母の正体は祥鳳と瑞鳳の姉妹である。剣崎型潜水母艦(給油艦)と設計されたが航空母艦に切り替わった。単体では搭載機数28機と最高速28ノット、12.7cm高角砲8門と高角機銃10門という。正規空母と呼ぶには足りないと改めて認識した。航空機運搬の高速輸送艦と考えれば十分かもしれない。しかし、最前線で暴れ回る空母の役割に期待された。皆の期待に応えられぬ。苦悶の日々を送る必要はなかった。姉妹でドッキングしてしまえば万事解決である。
祥鳳と瑞鳳は並列になると飛行甲板をガッチリと連結器で固定した。開放式格納庫を利用した連絡通路が内側に設けられる。これにより飛行甲板は約2倍の幅を得たが連結部の脆弱性は拭えなかった。従来通りに祥鳳と祥鳳が別個に艦載機の発艦と着艦を行うが二隻同時発艦や二隻同時着艦、一隻は発艦と一隻は着艦など、双胴空母によるトリッキーな運用を可能にする。
「こんだけの大きさがあれば新兵も安心して飛ぶことができる。遠方から見間違えることはない。着艦時は滑っても落ちることはない。発艦も振動が無いから楽ちんだ。これは航空母艦でなく移動基地である。履き違えてはならない」
「そうしますと、あの九六式は?」
「教官あたりが遊びで飛ばしているんだろう。それぐらいの余裕は見せないとな」
「赤とんぼなんて艦尾で着艦できそうです」
「それが狙いだった。基礎的な訓練から充実化する。確かに限られた資材から研鑽を積むことは質の向上に寄与した。しかし、国家単位の総力戦体制には不適応という。瑞鳳と祥鳳で十分に基礎訓練を積んでから赤城や加賀、雲竜に伊吹、二号艦と三号艦に乗ってほしいのだ」
「ただ改造空母を双胴空母にしたのではないと…」
「私を単純な天才や奇人変人と思っちゃダメだ」
双胴空母は長さこそ変わらなかった。その圧倒的な横幅のおかげで未熟なパイロットでも安心して着艦できる。横風に殴られても止められた。発艦に関しても双胴による無類の安定性から安心してエンジンを吹かせられる。ベテランはありとあらゆる状況を想定して頭で考えるよりも前に手が動いた。しかし、ルーキーはそうもいかない。緊急事態が起こらなくても極度の緊張から訓練通りに動かないことがあり得た。角度を間違えて滑っても海に落ちることはあり得ない。頭から突っ込んで自爆されては助けようがなかった。それでも絶対的な安心感が操縦の狂いを沈める。
いざ決戦とならば最前線に出向いて活動するを約束されていた。まだ時間がある。新兵を一人でも多くいっぱしに叩き上げるべく双胴空母『祥鳳・瑞鳳』が建造された。ここで育ったパイロットたちが主力を為す正規空母に正式に配属されて大活躍を見せてくれる。もっとも、発艦と着艦を同時に行える唯一無二から前線移動基地として隙の無い連撃を披露した。敵空母か敵戦艦か敵基地かの如何を問わない。数十の艦載機が途切れることなく殺到して延々と攻撃を敢行し続けた。あとに残るのは残骸ばかり。
「三胴空母に三胴戦闘空母まで量産してしまえば改造は容易い。今のところだが新田丸級貨客船を徴用して三胴空母への改造が行われた。三胴空母が一度でも出来てしまえばいい。ノウハウが積み重なって熟成された。三胴に活路を見出した。戦闘空母、超大型正規空母まで何でもござれ」
「超大型正規空母は単独の方がいいと思いますが、戦闘空母とは何をお考えになって?」
「サンドイッチだ」
「サンドイッチ?」
「サンドイッチは2枚のパンが具材を挟んでいる」
「どういうことです?」
海に近い町特有の突発的な強風が吹いた。窓ガラスが揺れている。カタカタとガタガタと音が響いた。牧野の独り言を外界と遮断してくれる。部下にして後輩が驚愕の表情を浮かべていた。口をあんぐりと開ける。なんて不細工なと心無い言葉は慎んだ。むしろ、相手を打ち負かした高揚感に酔いしれている。
「雲竜型を重巡洋艦で挟み込む!?」
「いうな!」
続く




