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転生造船技師は最強艦隊を作る  作者: 竹本田重郎


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第26話 密使の派遣

それはひょんなことから始まった。




「イギリス沖合にて貨客船が触雷により沈没したか。日本国政府はイギリスかドイツかは関係なく国際法上許されざると厳重に抗議した。両国が責任の擦り付け合いに終始して調査を行わないことに業を煮やして軍艦の派遣を決定す。下田と男鹿が出航した。私の密使を乗せてね」




 イギリスを発した日本郵船の諏訪丸が直後に謎の爆発を起こして沈没する事件が起こる。イギリスの警戒艦が現場に急行して迅速な救助作業が行われた。幸いにも死者は出ないで軽傷者で済んだことは僥倖である。しかし、爆発の様子や乗客と乗組員の証言から機雷に接触したと推定した。確かにイギリスとドイツが緊張状態にあって極めてブラックに近いグレーな戦いが行われている。いつの間にか機雷が敷設されていてもおかしくなかった。




 日本は欧州情勢に関心こそ寄せているが不干渉の立場を示す。日独友好こそあれど欧州情勢に口を挟まなかった。しかし、日本の民間船が機雷によって沈没したことは無視できない。軽傷で済んだから良いと引き下がっては国家の恥と厳重に抗議した。イギリスが置いたのか、ドイツが置いたのか、前大戦の不発弾なのか、詳細に調査することを要求する。どちらにしても国際法から許されざる蛮行と強硬姿勢を見せた。これに両国は責任を擦り付け合うことに終始してうやむやに持ち込もうとする。




「表向きは堪忍袋の緒が切れた日本が軍艦を派遣して航路の安全確保と沈没事故の調査を実施する。イギリスとドイツの双方に合法的と接触できた。私が送った密使がアドルフ・ヒトラーに書簡を送り届ける。奴に正常な思考と判断の切れ味が残っているうちに結末を教えてやった。そうすれば悲惨なことも起こるまいて…」




 久し振りの雨天であるが気分は存外と晴れやかだ。彼を除く国内は民間船の触雷事件に怒り心頭を極める。アメリカは通商航海条約を破棄したり、ソ連は満州に侵攻したり、日本は何かと大変な時期を過ごした。そこへ中立国の日本が巻き込まれる大事件の発生とくる。今回ばかりは帰責性がないにもかかわらずだ。不遜な態度をとられて怒らないわけがない。海軍から下田と男鹿の装甲艦姉妹が調査員を乗せてイギリスとドイツへ向かった。もはや、日本海軍が現地調査を行って安全を確認すると言い張る。両国を刺激しすぎずに圧力を加えられる下田型装甲艦の出番だった。




 その片方に密使が紛れ込む。小説に出てきそうなシナリオが組まれた。海軍に所属する国際通訳を纏う諜報員が何名か同乗する。イギリスとドイツに限らない欧州情勢を探った。現地から調達するが最も手っ取り早い。その一人は懐に書簡を隠していた。いつの時代も一枚の紙が歴史を変える。たかが一枚、されど一枚だ。




「この雨はいつ止むんだろうか…」




 書類の山に向かう。




=ベルリン=




 独裁者は優雅に生活している。




「日本海軍の装甲艦は宣言通り現地調査と安全確認ばかりです。それ以上の動きは見られません」




「ドイッチュラント級の物真似が一生懸命に働いているか。いくらでもやらせればよい。イギリスが全て悪い。そうだな?」




「異論ございません。ただ…」




「なんだね」




 ドイツの職人が仕上げた机の上に新聞が置かれた。一国の主たるもの庶民が情報を得る手段を自分も活用する。宣伝相が厳しく管理しているが最後のチェックは自分の目だった。一面が日本海軍の装甲艦を歓迎する記事である。イギリスを痛烈に批判する内容が含まれた。ドイツが敷設した機雷であるがイギリスの物と塗りたくる。白を黒に黒を白に塗った。情報戦の常套手段である。アメリカの得意とする分野と対抗してみせた。




 今のところは思い通りに進んでいる。ドイツに寄った下田型装甲艦二番艦の男鹿は大歓待を受けた。現地調査と言うが聞き取り調査が精一杯である。日独友好を崩さないことが大前提のため半ば表敬訪問と言われた。ドイツ海軍トップのレーダー大提督が自ら出向いて謝意を述べるなど形式的ばかり。あとは適当な交流を進めるに隠れて先端技術の交換を同時に行った。イギリスとアメリカが軍艦を臨検することはなかろう。そんなことをすれば宣戦布告と見做されかねなかった。




「これをレーダーからお預かりしました。レーダーも私も誰も中身を見ておりません。蜜蝋の封が証拠です。もちろん、危険物でないことを確認済みであります」




「ふん。日本人らしからぬ。なんの真似だ」




「日本海軍の技術中将からです。ぜひマインヒューラーに読んでいただきたいと。例の異端者ですが…」




「わかった。一人の時に読もう。下がってよい」




「ハイル・ヒトラー!」




 将校を下がらせると豪勢な椅子に背中を預ける。すでに欧州制覇は動き始めていた。そこへ横槍を入れられた気がしてならない。今回の事件はうやむやに終わるはずだ。しかし、謎の手紙が気になって仕方がない。ただの紙切れと無視できたが異様な雰囲気を携えた。欧州の文通を模した蜜蠟と洒落ている。そこからではなかった。何かどこか重大な秘密が刻まれている。スピリチュアルな第六感だが世紀の指導者は己の直感を信じた。




 蜜蠟の紋章は菊である。日本を象徴する紋章を刻むほどの内容と勘ぐった。丁寧にぺりっと剝がす。上質な紙にドイツ語が幾重にも並んでいた。ちょっと崩れているが読めなくもない。日本人が苦労しながら書いたことがよくわかった。これを笑うつもりにはなれない。まだ人間らしい温情が残っていた。上から下までゆっくりと読み進めていく。なぜか1941年や1943年など数年先が記された。怪文書の類で愚弄しているのか。




「ドイツが敗れるだと…ソ連に踏みにじられるだと…受け入れられん!」




 あまりにも激烈なため破り捨てようとした。しかし、そこに記されることが妙に生々しい。それは「モスクワまで迫るが数十キロのところで止まり厳冬に敗れる」に始まり「スターリングラートの制圧に失敗し数十万が死傷する」を挟んだ。最後は「国会議事堂に労働者の旗が翻る」と締めくくられる。この手紙が何を言いたのかは明白だった。ドイツが東方生存圏と称してソビエト連邦へ攻め込むことを回避するよう促している。どのような結果を生むのかを生々しく記した。ドイツの絶対的な自信と圧倒的な思想から勝利は約束されている。我々に敗北はあり得ないことだ。そうも言い切れない何かが潜んでいる。




「著者はマキノか…例の天才であるか」




 人を払ってよかった。今のアドルフ・ヒトラーは疲れて老け込んでいる。それなりの年齢であるが一国を大繫栄に導く英雄なのだ。引退は死するまであり得ない。自らの手ではなかった。外からの手によることは想定していない。最悪の結末を目の当たりにして数日分の疲労が襲い掛かってきた。




「奴は何者であるか。奇抜な軍艦を作っていると聞くが…未来を予言する能力を…」




 よろよろと立ち上がる。チョコレートに手を伸ばして口へ放り投げた。ゆっくりと溶かしながら地球儀を眺める。地球を制覇する時はもう間もなくだ。まずは欧州から始める。次にソビエトのつもりが悲惨な歴史を見せつけられた。大いに揺るがざるを得ない。確かに広大な土地であることは理解していた。前大戦の従軍経験から前線が地獄であることも知っている。しかし、精強なるドイツの兵隊は首都をあっという間に陥落させられた。野蛮な共産主義者なんて統領を失えば瓦解するに決まっている。それを真っ向から否定されてしまった。




「今すぐに連絡将校と連絡をとれ! 大至急だ!」




続く

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