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転生造船技師は最強艦隊を作る  作者: 竹本田重郎


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第22話 十二試作艦上戦闘機

=千葉県銚子沖合=




 銚子の港が見えるか見えないかのところ、二等駆逐艦に護衛された空母『伊吹』が低速で航行し、メタリックな甲板に向けて二機の航空機が滑り込む。甲板上は事故防止のため必要最低限の作業員に限られた。トンボ釣りの駆逐艦が「準備よろし」を伝えると左旋回から着艦体勢に入る。




「きたきた。一番手はどこだね」




「あれは三菱の十二試艦上戦闘機です。九六式を踏襲しながら速力を重視しました。格闘性能は今一つですが速力は最速級を誇ります。中島が格闘性能を重視したと真反対でした。どちらも甲乙つけがたい故に海軍と陸軍で分けるなんて声も聞かれます」




「そういう時は仲が良いんだな…」




「仲間でいがみ合っては勝てませんよ」




「おい、私のことをジロジロと見るな。確かに激論を繰り広げてきたがな」




 そうしている内に主翼が特徴的な試作機が綺麗な着艦を披露した。鳳翔の試験を担当した大ベテランらしく安定感は抜群を極める。トンボ釣りの駆逐艦から拍手が聞こえた。伊吹の艦橋でも自然な歓声が響く。何一つの無駄のないスムーズな動きに見えた。しかし、一種の危うさを孕んでいることを看破してみせる。一瞬だけ迷ったが第三者的な声と発した。




「下方の視界が悪そうだ。ありゃ熟練でないと」




「そうなんですか?」




「俺にはわかる。造船だけじゃない。千里眼の持ち主だ」




「流石ですな。うちの堀越も最後まで悩んでいました。いやはや、天下の天才様には及ばん」




「しかし、よく努力したことがうかがえます。航空機には航空機の天才がいるようです。私には到底もつくれない」




 伊吹型装甲空母こと艦隊随伴型軽空母を用いて行われる。日本海軍の次期主力艦上戦闘機を選抜する実践形式の試験だった。地上から離着陸できることは当たり前に尽きる。空母から安全に確実に発艦と着艦できることは大前提にワイヤーを引き裂くなどの欠陥が無いかを見定めた。メーカーが何度も計算しては試験しているはずだが端から信じないと言わんばかり。大切な航空兵が命を預ける以上は厳しく選ぶべきだ。真に必要なのは無駄に高性能なのではなく無難に稼働する物である。しかし、出来レースのような格好を呈していた。




 最初というが参加者は2社のみである。それも三菱と中島の二大巨頭だ。どちらかが不採用となれど陸軍が拾い上げる。水面下では話が纏まっており、陸軍と海軍は調整を済ませ、茶番劇とも言える酷悪な舞台だ。それも社会と割り切る。いちいち突っ込んでいては心身ともに耐えられなかった。伊吹型を設計した責任者から参加したが欠伸をかみ殺す。最初は立って目を開けながら寝ていようかと思った。自身の分野でないが故に案外面白い。




「速力と重武装を優先すれば必然的に大馬力の発動機を積まざるを得ない。正しく大型機用と開発された。新型の空冷発動機は最大で1500馬力を発揮でき、将来的には1800馬力から2000馬力まで、出世魚が如く成長していきましょう」




「私に宣伝しても意味はない。賄賂も受け取らん」




「人聞きが悪いことを仰います。私共がお送りするのは団子です」




「何団子だ」




「みたらし団子です」




「今度手配してくれ」




 何とも実のない話をしているが三菱の試作機は後続のために人力で移動中だった。飛行甲板に降り立てば全貌がよく見える。主翼は九六式を踏襲した逆ガル翼であるが機首が妙に図太かった。達磨のようなずんぐりむっくりは不格好と言わざるを得ない。しかし、試作機の時点にして600km/hに迫る最高速度を叩き出した。ヨーロッパを席巻するドイツのメッサーシュミットに追いすがる。




 それもそのはず、三菱らしからぬ強引な設計が引かれた。牧野も「面白い」と漏らす。本来は爆撃機を想定した大直径にして大重量の空冷星形発動機を大胆に採用した。大直径は空気抵抗の増大を招き、大重量は重量の増加を招き、戦闘機の軽快さを損なう。普通はあり得ない選択であるが前線のパイロットから「速力」と「重武装」を求める声は根強かった。飛行隊長を筆頭に上層部は運動性能を重視したが真反対である。現場の声を拾い上げて反映したつもりが相応の欠点を抱えていた。下方の視界が良好でない。地上はともかく空母の甲板は厳しい制限が敷かれた。ベテランでなければ着艦は不可能に思われる。




 したがって、上層部は満足度の高い中島の試作機を待ち望んだ。甲板上が空いたことを確認次第に中島製が滑り込む。我こそ戦闘機ぞと主張するが如く華麗な振る舞いだった。テストパイロットがベテランだからと一言では片づけられない。大和撫子のお淑やかさを覚えた。ほうと息が漏れる先に軽戦闘機がプロペラを軽く回している。先の三菱製と異なり金属音を発していなかった。三菱製からはキーンと金属音が聞こえて心配になるも重役は「所定のもの」と説明する。やはり中島が一歩先を歩んでいた。




「陸軍の九七式を手直ししたようです。共産党の討伐時に活躍したようですが足の遅さはいただけますか?」




「私に聞いているのか?」




「はい。貴方様に聞いておりますよ」




「三菱の重役が問いてくるのは解せないが、まぁ、足が速いだけが正義じゃなかった。軍艦もそうである。確かに高速化を進めているが使い勝手が失われては誰も扱えなかった。結局のところ、総合的な性能がものをいう」




「つまり?」




「それなりに足が速く、それなりに機敏に動き、それなりに頑丈な肉体だ。造船屋の独り言に過ぎない」




「なるほど、独り言ですね」




 中島の試作機は陸軍の九七式戦闘機を正当に承継したようである。軽戦闘機らしく無難に纏めてきた。着艦は恐ろしくスムーズに終わる。まさに難なくとだった。テストパイロットも会心の出来とニンマリな笑顔を浮かべる。旋回時に無駄がないことから運動性能を重視したことが伺えた。あくまでも陸軍機の後継であるが茶番のために出張してくれる。中島の懐の深さに感服したが自信作を自慢する魂胆が見えた。




「陸軍と海軍に装備の共通化を施す。それもありかな」




「それは無茶じゃありません? 仲良くできるのは一粍のズレなく利害が一致するときに限りました。今日の茶番劇も珍しく一致したからにすぎませんよ」




「そうかもしれない。しかし、やらなければならない。資料によると陸軍機と海軍機は機銃の単位から異なった。ただ口径が違うならともかく、7.92mmと7.7mmの違いどころか、同じ7.7mmでも弾薬が違うときた」




「あまりに非合法的でした」




「そうだろ? 造船から変えてやろうじゃないの」




「あ、どちらへ?」




 まだ試験は終わっていないがクルリと回って艦橋を後にしようとする。腐れ縁にして気心の知れた後輩が問いかけた。その背中には答えが刻まれている。俺は海軍を越えて陸軍まで変えてやるんだ。旧態依然とした世界をぶっ壊す。海軍の解体と再建は順調に進んでいた。今度は陸軍の番だろうよ。その背中に刻まれた答えをかみ締めた。いかにも歯ごたえのある難題が山積している。牧野茂の一人に任せられなかった。変なところで倒れられては困る。まだまだ仕事は終わっちゃいなかった。路頭に迷うことは経験したくない。




「なにボケっと突っ立っている。早くパイロットに感想を聞きに行くぞ。木製甲板と違って装甲甲板は機体に負担があるとかないとか」




「はい! ただいま!」




「これから尋問だ。彼らには悪いが暫く付き合ってもらう。お前は書記を頼んだ」




「こう見えて筆記は得意なんです。お任せあれ」




「俺でも読める字で頼むぞ」




「善処します」




続く

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