第21話 簡易空母の戦い方
静かな海が喧騒に包まれた。普通はあり得ないことが現実に起ころうとしている。いくら艦隊演習と雖も大型艦と大型艦が縦列に最接近していた。その気になれば大ジャンプして届いてしまいそう。艦首と艦尾が衝突する事故の恐れを指摘できた。罵声が飛び交うところ無線には元気な声が響き渡る。
「おーらい! おーらい!」
「微速前進! 微速前進! ちょい前! ちょい前!」
「国鉄マンを引っ張ってきただけはある。力の入れようが違うんだ。空母の連結と列車の連結は全く違うんだがようやっている。まったく、簡易空母が非力ならば数で補うんじゃなくて一体に纏めるなんて何を食ったら思いつくんだ」
「接続用意!」
「連結器開けろぉ!」
「幌を破るなよ! 縫うのが大変なんだからな!」
「ちょっと早すぎる! 速度落とせ!」
無線でつながっているが雑音を消すために声を張り上げた。大声を入れると雑音が消えてクリアな音声となる。伝達の1文字違いから事故が発生しかねない危険な現場だった。簡易空母又は特設空母と呼ばれる和製護衛空母の『小郡』と『小諸』が直線に航行する。前を小郡が後を小諸が走ったが奇想天外な合体の連結を敢行した。小郡は低速の安定した航行を採る。小諸が後ろから僅かに優足で追従した。風や波を計算して最適な時機を見計らう。
鉄道連絡船のW型を素体にする両者は姉妹だった。徹底的な合理化を推進した故にそっくりそのまま同一である。寸法も多少の誤差あれどピッタリだった。そんな双子だから可能な荒業が連結である。簡易空母の性能は単騎では不十分と認めた。簡易のため致し方ないが航空機運搬艦と呼ぶ方が正しい。戦闘機や偵察機は飛ばせるが、爆撃機と攻撃機は難易度が高く、少ない搭載機数を分け合った。したがって、簡易空母は数量を活かした集団戦法が大前提に上がってくる。
簡易空母の集団戦法に疑義を呈した。ただ集まるだけでは烏合の衆ではないか。合体して連結できるとしたら非常に面白くなるのではないかと野心を滾らせた。当初は双胴や三胴を想定して発艦と着艦を同時に行えることを目指す。それも悪くないがW型を除外した。油槽船のT型が双胴や三胴に向いていると研究から判明する。W型の構造的に横方向は不適と認められた。双胴や三胴はT型ベースが揃い次第に試験を行う。
「だったら、直列にすればいい。あの時の真面目な顔が忘れられない」
「まもなく連結です。衝撃に気をつけてください」
「私は怪我しても良いですが小郡も小諸も傷つけないでください。特に推進器はね」
「えぇ、もちろんです。艦尾と艦首がピッタリとくっ付く様にしてます。甲板が擦って捲れないように緩衝材は置いてますが」
「なんて面倒な作業と思っているでしょう。こうでもしないと勝てない。アメリカに勝つためには圧倒的な数量に対抗できる圧倒的な創意工夫なんです」
「技術屋が言うことは違うねぇ」
「艦長こそ現場から声を上げてくださりありがとうございます」
「いえ、さぁ、世紀の瞬間ですよ!」
簡略化の徹底により幸か不幸か手身近な物がなかった。大きな声で衝撃に備えろと言われても頼りにする物がなくては備えようがない。両足を踏ん張って受け身を採る構えだ。少年期に柔道を嗜んだことが今になって機能するかもしれない。受け身に失敗して怪我をしても頭が生きていれば無問題とハードルを低く設定した。三者三様の十人十色の構えであるが全員に共通して世紀の瞬間を見逃すまいと両目を見開く。まばたき禁止が最も適切な時間帯だった。
小郡の甲板と小諸の甲板がぶつかる。本能的に危険信号を発した瞬間にガチャンと金属音が響き渡った。甲板と甲板が緩衝材を潰した末に捲れあがったり、高さのズレから艦首が艦尾に突っ込んだり、横方向にズレて大傾斜したり、ありとあらゆる最悪を想定したが杞憂らしい。ホッと胸をなでおろす間も与えられなかった。無線は再度けたたましく指示と修正の連絡が飛び交う。
「連結器固定しろ! 幌を伸ばせ!」
「小郡の機関が回っとるぞ! 止めろぉ!」
「小諸が押せぇ! 速度を殺しすぎるな!」
「甲板作業はじめ! 1秒も遅れるなよ!」
各班が分担して連結作業の仕上げに入った。鉄道連絡船のためか鉄道車両の連結を模倣している。各部に自動連結器が設けられた。ガッチリとかみ合うとロックが行われる。さらに、作業員が手動の安全装置をかけて分離を許さなかった。飛行甲板が最も擦れるため緩衝材が置かれるが案の定で破損している。緩衝材が捨てることが前提のため洋上に投棄して空いたスペースに連結器が上がってきた。普段は甲板下に格納されている。これも作業員が人力の手動でロックをかけていった。あまりにも非効率的だがやむを得ない。この時代に人力に勝る正確性は存在しないのだ。
「格納庫連絡作業を開始せよ! 30分だ!」
「鉄道連絡船が素体だから可能にした格納庫の連絡です。本艦を預かった際に初めて知らされましてね。そんなアホな設計をして奴をぶん殴ってやると思いましたよ。本当にできちまうとは…」
「世の中には常人には理解できない。天才という者がいるんです。発想による勝利こそ日本の目指すべき道だと語っていました。そんな人に一度でも捕まったら二度と離れられませんから。今の問題は30分で終わるかどうかです」
「伝統の月月火水木金金を以てしても30分が精一杯でした。申し訳ない」
「技術屋として言えることはありません。何を言っても余計な一言になりそうです」
「わかってるじゃないか」
簡易空母が直列に連結することで飛行甲板は単純計算だが2倍に延長する。これによって約300mという正規空母をも上回る長大な滑走路が出来上がった。戦闘機は大きく余裕を持って発艦できる。爆撃機と攻撃機も爆弾と魚雷を吊架しながら危なげなくだった。皆が訓練を重ねることにより着艦と発艦の同時並行も夢でない。単騎で劣る簡易空母が正規空母に対抗する技術わざだ。しかし、飛行甲板が連結するだけではつまらない。徒歩で格納庫へ移動すると衝撃的な口径が広がっていた。飛行甲板が倍に延長したように格納庫の奥行も倍に広がる。こんなに広かったかと記憶を疑ってしまった。
まさに鉄道の連結と変わらない。鉄道連絡船から継承する構造のおかげで格納庫が大きく開放された。普段は海水の流入を防ぐために閉まっている重厚な扉は連結器を兼ねる。鋼鉄と鋼鉄がしっかりとかみ合った際の強度は十分だった。格納庫を自由に行き来できると燃料から消耗品、搭乗員と融通が利く。搭載機数も倍と言いたいが空間を柔軟に活用でき倍以上の詰め込みを見込んだ。たとえ個々は小さくても合体すれば巨大に膨れ上がる。もっとも、移動が面倒という欠点が新たに上がってきた。このために連絡船譲りの埋め込み式のレールを活かすトロッコ移動が提案される。艦内の移動程度ならばトロッコで事足りた。
「おぉ~広いったら広い」
「アホみたいなこともやってみるもんですわ」
「艦長! やりましたよ! やったりましたぁ!」
「35分だ。30分を超えたが初めてにしては上出来だろう。これから縮めていくんだ」
「いやぁ、二度とやりたくないですわ。もう心臓が潰れます」
「そう言わんでくれ、時には非情な選択を採る時がある」
前代未聞の簡易空母同士の直列だが強度が心配される。荒れた海では連結器が破断して分離するという尤もな指摘が飛んだ。機械のロックと人力のセーフティを徹底し衝撃を吸収する緩衝材の追加から解決を得る。敵が抜け目ない場合は連結部を攻撃してくることが指摘された。あえて言うまでもない。連結部が最も脆弱な部分だった。そこを攻撃されたと言うがナンセンスと断じる。そもそも簡易空母が脆弱なんだ。この連結部が脆弱と言われても全体が脆弱なため特段気にならない。防御を考えても無意味のため攻撃を究極的に突き詰めた。
「今度は連結状態の全力航行試験です」
続く




